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ダークエルフ

 驚いていた2人を見ると、なぜか自分の胸とダークエルフの胸を交互に見ていた。


 胸に何かあるのかと思ったが、特に変わったところはないように感じる。魔術師のローブを着ているように見えるが……普通くらいだな。


「……何、あれ?」


 アルミラは戦慄した顔でダークエルフの胸を凝視している。ミリカも同じようだ。

 

 俺が疑問に思っていると、ダークエルフは我に返ったようで質問してきた。


「あなたたちはどうやってここに?」


「普通に歩いてきましたよ」


 当たり障りのない回答をしたと思ったが、とても驚いた様子だった。


「……普通に歩いてきたんですか?」


「はい、そうですけど」


 その顔はとても信じられないといった顔だった。


 ……なぜだ。


「あ、俺はソウイチと言います。お名前を聞いても良いですか?」


 異世界で初めてダークエルフに会えたことにテンションが上がってしまい、ナンパみたいなことをしてしまった。


「そうですか。名乗りを上げろというのですね。私もついに……」


 勿体ぶるダークエルフさん。何か様子がおかしいような。それにぶつぶつ言いだしたぞ。


「まさか、魔王の幹部ということはないですよね? なんて……」


 テンプレだと、ダークエルフって敵のお色気担当だったよな。と、俺は偏見からそんな言葉を言ってしまう。軽口のつもりだったのだが……。


「おっしゃる通り私は西の魔王様の幹部で、ご存知の通りダークエルフのアルマーティと申します。以後、お見知りおきを……」


 ……え、西の魔王様の幹部? ……幹部!! 


 異世界では、こんな頻度で魔王の幹部に遭遇するのか?!


 というか本当に魔王の幹部だったのか! この世界はことごとくフラグを折ってくるから、立てとけば安心かと思ったら、今度は回収してきた!


「な、西の魔王の幹部ですって!」


「まさか、採取クエストで魔王の幹部に遭遇するなんて。これは好機ですね!」


 2人とも固まっていたと思ったが、魔王の幹部という言葉に正気に戻ったようだ。


 アルミラは即座に短杖を構えたが、緊張しているようで手が震えてる。逆にミリカは相手が大物ということもあり、魔法を放つ瞬間を窺っているようでそわそわしている。


「ソウイチ。相手はダークエルフ、魔法のエキスパートです。しかも、魔王の幹部を務めるほどの実力者。魔法の知識がないと太刀打ちできないと思います。ここは下がっていてください」


 俺に対してそんなことをいうミリカ。


 アスト=ウィーザを倒せたのはあいつが油断していたからだろう。そうじゃないと、魔王の幹部が雑魚ということになってしまう。今回、魔法戦なら足手まといにしかならないはずだ。悔しいが下がって様子を……。

 

「申し訳ありませんが、名乗った以上あなたたちを普通に返すわけにはいきません。ソウイチさん、なぜあなたが私のことを魔王の幹部だと知っていたのか、聞かせていただきたいので逃がしませんよ」


 おお、美女からの逃がしませんよという言葉がこんなにも嬉しくないとは思わなかった。


「あ、すいません。実は適当に言ってみただけで、魔王の幹部だったなんて知りませんでした」


 正直に話してみたのだが。


「とぼけても無駄ですよ。あとで直接頭の中を覗かせてもらいますから」


 怖い。頭の中を覗くって、魔法でだよな?


「私の前で名前を言ったのは失敗でしたね。ダークエルフは、魔法と同様に呪いも扱えるんですよ。ソウイチに束縛をリストリクション!」


「まずいです。ソウイチ逃げ……」


 呪い! 響きからやばそうだけど、目に見えないから避け様がない。


「な?!」


 何が起こるのか戦々恐々としていると、アルマーティが驚きの声を上げた。


 驚いてばかりだなこの人、と場違いなことを考えてしまった。


「呪いが効かない。そんな……。なら、物理的に動けなくするまで」


「よくもソウイチを! アイスランス!」


 アルミラさん、俺呪いかかってないみたいですよ。

 

 フォレスト・アントを瞬殺した氷の槍が3本飛んでいくが、難なくかわされてしまった。


 身体能力も高いのか!


「サモン・ゴーレム!」


 アルマーティの呪文とともに岩に体を覆われた人形……ゴーレムが5体召喚された。


「召喚魔法! さすが、ダークエルフですね」


 ゴーレムは高さ3mほどでごつい見た目をしている。腕が太く、殴られたら一溜まりもないだろう。そのゴーレム達が一斉にこちらに向かってきた。

 

「ここは私の出番ですね。ゴーレムは確かに堅牢ですが、最上級魔法で粉砕してやります。アイシクル・テンペスト・ランス!」


 ミリカが呪文を唱えた瞬間、前方に魔法陣が浮かび幾本もの氷の槍がものすごい速さで飛んでいった。氷の槍は5体のゴーレムの体を難なく貫き、勢いが強かったためそのまま後方に吹き飛ばした。砂塵が晴れた後には、粉々に砕けたゴーレムの破片が散乱していた。

 

 アルマーティも巻き込んだかと思ったが、ゴーレムを召喚した直後に移動していたらしい。 


「そのゴーレムたちは囮です。本命はこちら……ハイグレード・サモン・ゴーレム」


 ミリカが唱えた魔法の威力に驚く暇もなく、次のゴーレムを召喚した。そのゴーレムは先ほどのゴーレム達とは比較にならないほど人間に近い姿をしていた。大きさは2mほどと小さいが本命というくらいなので、侮ることはできない。


「魔法に耐性のあるゴーレムを粉々にした威力はすごいですが、このゴーレムを先ほどのと一緒だとは思わないでくださいね」


 ぽんぽんとゴーレムを召喚してくるアルマーティ。さすが、魔王の幹部ということはある。こちらはもう戦力としては、アルミラしか残っていないのに。


 気絶したミリカを抱き留めながら、俺は焦りを感じていた。

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