ポーション
教会からの帰り道、魔道具店のショーウィンドウを覗き込んでいるアルミラを見かけた。
「何してんだ?」
「ひうっ!?」
背後から声をかけたら、可愛らしい悲鳴が上がった。
アルミラは驚いたようにこちらを振り向き。
「い、いきなり背後から声をかけないでよ! びっくりしたじゃない!」
大きな声で怒られた。
こちらも悲鳴を上げるとは思ってなかったので驚いた。
というか、正面に回れない状態じゃ背後から声をかけるしかないのでは?
「それにしても偶然ね。どこか行ってたの?」
「ちょっと、教会に用事があって。……アルミラは買い物か?」
と、魔道具店のショーウィンドウを覗いてみると、大きな文字でこう書かれていた。
『新商品! これであなたの悩みも解決! 夢の豊胸ポーション!』
……これは。
アルミラの顔を見ると、顔を逸らされた。
「あー……。頑張れ!」
「うっ……」
励ましたら、泣きそうな顔になった。
居たたまれなくなった俺はその場を去ろうとしたが。
「ちょっと、どこに行くのよ?」
「いや、そろそろ帰って休もうかなと」
「付き合ってくれない? 1人で店に入れなかったの。……私たち仲間でしょ」
「……はい」
「いらっしゃいー。あれ? ソウイチじゃん。今日はどうしたの?」
この魔道具店の店主とは、クエストの都合で顔見知りだったりする。ポーションを入れる空の瓶を運ぶだけのクエストだったのだが大量にあった。こんなにいるのかと疑問に思っていたが、これで納得した。
豊胸ポーションを入れるためだったのか。
棚にはずらーっと豊胸ポーションが並んでいた。
「知り合いなの?」
「クエストの都合で顔を合わせていたんだ」
ここの店主は緑色のくせ毛を肩まで垂らしており、柔らかな茶色の瞳をしている。そして大変素晴らしいものをお持ちの20代の方だ。
ただ、人をからかうのが好きな性格でクエストの時はよくからかわれた。主に胸で。
「え、彼女持ちだったの? ひどい、あの時のことは遊びだったのね。しくしく」
早速からかわれる始末。
「彼女じゃありません。あと、ソウイチ。あまり、他人のことをとやかく言う気はないけど、浮気はやめた方がいいわよ」
あらぬ誤解を招いてる気がする。
「冗談はさておいて、何かお探し?」
あまり、変な冗談はやめて欲しい。
店内はがらんとしており、人がいない。
だから、俺たちにちょっかいをかけてきたのか。
「あ、この店人いないなと思ったでしょ。朝方や夕方頃なら、冒険者とか大勢来るのよ。暇なのは、昼間くらいなんだから」
胸を張る店主。素晴らしいものをお持ちなので、つい視線が……。
「……」
そして、アルミラの視線が痛い。
「そっちの子を見るに、お目当てはこれかな?」
と豊胸ポーションを手に取る店主のリフェル。
そっちの子を見るに、は失礼じゃないのか?
「はい、そうです。おいくらですか?」
アルミラにはそんなことよりも、ポーションを手に入れることの方が重要みたいだ。
リフェルが指さす先には。
『あなたの悩みもこれで解決!
きっと叶う素敵なポーション!
楽に夢の胸を手に入れてみませんか?
めげずに服用すれば、きっと効果が出る!
なんと、破格の1本2500ルド!』
というキャッチフレーズが棚の脇に張られていた。
1本2500ルドとか高っ!
ポーション瓶はそんなに大きいわけではなく、一飲みで無くなる程度だ。
「4本ください!」
アルミラは即断し、レジに持っていったようだ。効果は個人差があるので、当店では一切の責任を負わないということを説明しているリフェル。
本当に効果が出るのだろうか。とても胡散臭い。
「まいどありがとうございますー」
お金を払い終わったほくほく顔のアルミラが。
「今日はありがとうね。急用ができたから、これで帰るわ」
と言い残し、足早に店を出て行った。
リフェルもポーションが売れてほくほく顔になっている。
「本当にこれ、効果があるのか?」
つい、そんなことを聞いてしまった。
「張り紙の最初の文字を縦に読んでみて」
張り紙の最初の文字? 疑問に思って読んでみると……。
……これはひどい。
心の中でアルミラにそっとエールを送った。




