魔眼
「ソウイチは魔法が使いたいのですか?」
「まあ、できれば使ってみたいと思ってる」
ミリカの意識が戻った時にも、発動しない魔法を俺は唱え続けていた。珍妙なものでも見るかのようなミリカの顔はちょっといらっときたが、ちょうど良いと天才魔術師のミリカにも聞いてみたのだが。
「こう、ほわわってなるので、ぎゅぐぐってして、ズドーン!」
「それは、さっきも聞いたわ!」
なんだ、この世界で魔法を使う時は本当に感覚で使ってるのか?
俺が不思議に思って、いまだに倒れているミリカを見ていると、あることに気付いた。
「あれ? お前の眼赤くなかったか?」
そう、ミリカの眼が黒くなっていたのだ。
「ああ、そのことですか。魔法を唱えた後、魔力が空になるといつもこうなるんです。魔力が回復すれば赤い眼に戻りますよ」
何、その体質。……ちょっと、かっこいいと思ってしまった。
というより、色で魔力の回復がわかるとか……ステータスの見えないこの世界では便利だろうな。
「珍しい体質ね。魔眼なの?」
おお、また心をくすぐられる単語が。
「魔眼というほどのものでもないと思いますよ。色が変わる以外で効果はありませんし」
充電完了を知らせるのも立派な効果だと思うが。
そういえば、ミリカは気絶したら動けないって言ってたか。
「ミリカ、動けるようになるまでどのくらい待ってればいいんだ?」
「1日は必要ですね」
……1日?
「魔力欠乏症は魔力だけでなく、気力も消耗するんです。動けるようになるのに1日。魔法を再度使えるようになるのに3日はかかります」
そんなに回復に時間が必要なのか。あれ、でもシンシアさんの話と違うような……。
「その話だとおかしくないか? シンシアさんは1週間は魔法が使えなくなって、動けないと言ってた気がするんだが?」
俺がそう言うと顔を逸らした。
……。
「……最初はそうでしたよ。でも、何回も気絶していく内に体が慣れたのか、魔力と気力の回復速度が上がっていったんです。気付けば1週間だったのが、いつの間にか3日にまで短縮されてました。師匠には報告してないだけです」
「でも、眼の色が変われば気付くんじゃないか?」
「そこは体の調子が戻らないと言えば、なんとでもなりました」
要は、仮病を使っていたのか。
「し、仕方ないんです。師匠の特訓は厳しくて……つい」
多分、シンシアさんは気付いてると思うぞ。
「なら、教会で会った時は1週間経ってたのか?」
「いえ、その時はさすがに罪悪感を感じたので、魔力回復のポーションを飲んで駆け付けました」
……シンシアさんはもう、確信してるんだろうな。
「それにしても1日は待ってられないな」
「ソウイチが魔物除けになっているけど、野宿はしたくないわね。ということは、ミリカを運ぶしかないわ。よろしくソウイチ!」
そうなるんだよな。まあ、いいか。
「魔物の討伐部位も俺が持つんだよな?」
一応、確認のため聞いてみるが。
「そうよ。当たり前でしょ。か弱い女性にそんなもの持たせないわよね?」
フォレスト・アントを瞬殺しておいて、か弱いはないと思う。
それにソロで活動してた時はどうしたんだよ。
「冗談よ。討伐数多いし分担して運びましょう」
か弱いの部分も冗談だったのか。
「じゃ、ミリカをおんぶして……」
「……」
「……」
なぜか、女性陣から冷たい視線を浴びた。
「おんぶするんですか?」
「いや、そうしないと運べないだろ」
「……」
アルミラは無言になってしまい、自分の胸を……。
なるほど、俺がそういうことを考えてると思ったんだな。
「1つ言っておく。俺はおんぶをすることで役得だとかは一切考えていない。純粋に運ぶ効率を考えてだな」
「なら、何でそんな笑顔なの?」
……男なら、そのくらい期待しても良いじゃないか!
結局、ミリカが我慢するということでおんぶになった。
背中に柔らかいものが……当たった感触がしない。
「あ、言い忘れてたけど、ソウイチの服に硬質化する魔法かけておいたから。背中の部分だけ」
疑問に思っていると、アルミラからそんなことを言われた。
ちくしょう。
「アルミラは、魔法を完璧に制御してますね……」
フォレスト・アントの討伐部位は甲殻や牙だったため、ギルドから支給されている袋に入れ首から吊るして運んだ。
討伐クエストをやる度にこれだと手間がかかるし、見た目がなあ。
初めてパーティークエストを達成したというのに、喜びよりもやるせなさを感じた。




