ミリカの特性
2日目も同じように西の森に向かったのだが。
「なんで、魔物に遭遇しないの?」
そう、魔物に遭遇しないのだ。
おかげで、俺はこの異世界の魔物が生きているところを1度も見たことがない。
「これは、ソウイチに何かあるとみるべきですね」
「……やっぱり?」
薄々感じてはいた。最初の森、昇級試験の時、そして現在。明らかにおかしい。
それに、アルミラもミリカも俺といないときには魔物に遭遇できている。
「試しにソウイチ抜きで森に入ってみますか」
なんだろう、この疎外感。
結果的に俺が原因でした。
「ソウイチと一緒でないと、普通に魔物を発見できましたね」
「不思議ね。ソウイチは虫系の魔物から嫌われる体質なのかしら?」
虫から嫌われる体質なら、それもいいかと思ってしまう。
ただ、クエストをこなせないのはまずい。これでは、昇級できなくなってしまう。
「あれ? そういえば、討伐してきたのか?」
「パーティー組んでるのに、2人だけで討伐してたら組んだ意味ないでしょ」
「そうです。私たちは3人でパーティーなんですから」
「……おまえら」
その気遣いに俺は柄にもなく、感動してしまった。
なんて、良い仲間を持ったんだと。
「誰が討伐部位をはぎ取って、運ぶと思ってるの?」
「私は魔法を発動すると気絶するので、その後のことをアルミラに任せるわけにもいかないですし、運んでくれる人が必要なんです」
おまえら、俺の感動を返せ。というか、今聞き捨てならないことが……魔法を発動すると気絶する?
「私は魔法の制御が苦手なので、魔法を1回発動すれば気絶します。魔力を最大限使ってしまい、その結果魔力欠乏症になるんです。ですが、使える魔法の種類は自慢ですが多いですよ? それに威力もその分強いんです!」
魔法を1回発動すれば、気絶する? 何気に使える魔法の種類が多いことを自慢しているな。
「そして、魔法の発動に必要な詠唱は覚えてしまえば、詠唱無しで魔法名だけ唱えれば発動できるんです。しかも、どんな属性の魔法でも習得できます。どうです、天才でしょう?」
気絶することを除けば、チートじゃないか。……1回しか使えないが。
「待って、それは天才どころじゃないわよ? この世界の法則から逸脱してるわ」
アルミラは驚いたように、ミリカを見る。
「普通、個人で扱える魔法の種類は1,2種類。珍しいと3種類が限度なのに。どんな属性でも魔法を使えるの?」
「私を誰だと思ってるんですか? どんな属性でも魔法を使える天才魔術師ですよ?」
そのどや顔も納得だ。素直にすごいと感心した。
「でも、1発しか使えないんだろ」
「ぐ……、身体強化の魔法なら使っても大丈夫です。ソウイチの前で使って見せたでしょう、教会で」
教会で雰囲気が変わったと思ったが、あれが身体強化の魔法だったのか。
「ミリカって、実はすごかったのね」
「ああ、意外にもすごかったんだな」
「……気になる言い方ですね、2人とも」
でも、困ったな。魔物に遭遇できない原因が俺にあるのはわかったんだが、何も解決してないぞ。
「そもそも、何で俺は魔物から嫌われてるんだろうな」
「そういう体質なんじゃないの?」
「体質でも色々あるんじゃないのか? 例えば、魔物の嫌がるにおいを発してるだとか。別に、俺は臭くはないと思うが」
「なら、消臭の魔法かけてみる?」
「え。そんな魔法あるの? やってみてくれ」
便利だな。魔法。
「デオドライズ!」
魔法名だけでいけるのか。
「これで、消臭はされたはずよ?」
初めて魔法を見たのが、消臭魔法ってのもなんだかなあ。
結果、変わらず。
「なら、気配を消す魔法とかないか?」
「”ハイド”」
結果、5匹のフォレスト・アントを発見!
「おお、あそこにいるのがフォレスト・アントか!」
初めて魔物を見たが、まんま蟻だな。大きさはおかしいけど。
「どうするんだ? 5匹って、結構多そうだぞ?」
今、俺たちは幹が太い木に隠れて、様子を窺っている状態だ。
いつでも、飛び出していけるように準備はしている。
「確かに多いわね」
「フッフッフ、ここは私の出番ですね。魔法で一掃してくれます」
お、ミリカがやる気だ。そういえば、魔術師といえば杖だよな? ミリカは持ってないようだけど。
「ミリカは杖を使わないのか?」
「私の触媒は杖ではなく、この指輪です」
見せてくれたのは右手の人差し指に着けている紫色の指輪だった。
「では、行きます! テンペスト・エッジ!」
……え。
それは、いつぞやにも聞いたことのある魔法名だった。




