初パーティークエスト
俺はまた、西の森に来ていた。正確には、俺たちだが。
「さて、パーティーを組んでの初めてのクエストですね! 腕がなります!」
ミリカはとてもやる気に満ちていた。
「この初クエストを華麗に達成した私たちは、破竹の勢いでそのまま魔王も討伐……そして、私は英雄に!」
体をくねくねさせ、1人で妄想してるミリカのことは、見なかった振りをしておこう。
パーティーを組んだ俺たちは早速討伐クエストを受注した。
クエスト名は、”フォレスト・アントの討伐”。西の森に生息する蟻を5体討伐するだけとのことで、正直楽なクエストだと思っている。
一応、アルミラからお古のダガーを貰ったのだが、使う機会はないだろう。
「ただ、蟻を討伐するだけで報酬がこんなにも貰えるなんて、何かありそうだと思うレベルだな」
ついつい、俺はそんなフラグめいたことを呟いてしまった。
「ソウイチ。フォレスト・アントのこと侮ってると痛い目見るわよ?」
と、アルミラは警告してくれたが、正直噛まれて痛いレベルだろうと高をくくっていた。
それから、しばらく歩いていたのだが、フォレスト・アントどころか他の魔物にも一切遭遇しなかった。
「どうなってるんでしょうか? 前に師匠と来たときは、もう少し魔物に遭遇していた気がしたのですが……」
「確かに異常だわ。こんなに遭遇しないなんてこと、今まで無かったもの」
2人が怪訝に思っている一方、俺は。
「そうか? 昇級試験で来た時も1回も遭遇しなかったぞ? こんなものじゃないのか?」
楽観的に考えていた。
「え? 1回も?」
「ソウイチ。それ本当?」
2人は、そのことに疑問を覚えたのか俺に確認してきた。
なんだ? この森はよく魔物と遭遇するのか?
「普通はこんなところを歩いていたら、魔物は餌だと思って襲ってくると思うんだけど……祠に行く道だって、街からそんな近いわけでもないし」
「そうですね。知能が少ない分、本能で餌を求めているはずです。1回もというのは、ありえないと思います」
ありえないって言われても、遭遇しなかったし。
「これは、何かの前兆かもしれません……はっ、もしやこの森にいる魔物よりも強者が近くにいるとか。まさか、魔王!」
「魔王は考えすぎだとしても、何か異変が起きているのは確かね。強者が来ていて、魔物たちが委縮して逃げちゃったのかしら」
先輩の冒険者がいるって、やっぱりとても心強いな。
というより、強者が来ていて? ……それって、アスト=ウィーザが来てたからってわけじゃないよな。もう、消滅したみたいだし。
消滅させたのが俺だったから、強者と思われてる? でも、あれは偶然だと思うしな。
と、俺が考えていると遠いところに見知った顔が。
ん? あそこにいるのは、サラ達か?
「どうしたの? ソウイチ?」
「あそこにサラ達がいるんだが、この森の状況を聞いてみるか」
「サラ?」
アルミラはサラという冒険者のことを知らないのか、小首を傾げていた。
「同じ冒険者仲間だよ。おーい、サラー!」
と、俺は大声でサラのことを呼んだ。
「魔物に遭遇しない?」
サラ達のパーティーと合流し、この森の現状を話してみたのだが怪訝な顔をされてしまった。
「そんなことないと思うけど……現に私たちは、さっきフォレスト・アントと遭遇して、倒してきたよ? ほら」
サラは仲間が運んでいた、フォレスト・アントの討伐部位を見せてくれる。
……え? フォレスト・アントの大きさって、こんな大きいのか?
サラの仲間が持っていたのを見せてくれたが、想像よりも大きかった。
部位だけだったが、全長で1m以上はありそうな大きさだった。
見せてくれた部位に驚いている俺を他所にみんなは話し合っていた。
「偶然なのでしょうか?」
「でも、結構歩いてたと思うわよ? それで魔物に遭遇しないというのもおかしいわ」
「私たちは、いつもと変わらないと思ったよ。ねえ?」
「ああ、そうだな。普段通りに魔物に遭遇して狩ってきた帰りだしな」
「異変は感じなかった」
サラ達は別段何も感じなかったようだ。
なぜ、俺たちだけ?
「ソウイチ。昇級試験で取ってきた魔物除けの紙は返却したんですよね?」
「担当官にきちんと返したよ」
魔物除けの紙は、きちんとほんわかさんに返却した。
「もう少し、探索してみない? ただの偶然だった可能性もあるし」
「そうですね。クエストの期限も5日間ありますし、のんびり行きましょうか」
「……だな」
その後、森の中を探索したが魔物には遭遇しなかった。
明日、出直そうということで本日は解散した。
帰る途中、
「おかしいですね。初クエスト達成後、魔王の幹部が現れ、それを打倒するのが本日の予定だったのですが……」
そんな、ハードな予定はやめてくれ。というか、それは妄想だ。




