初遭遇、異世界人
異世界転移の前準備みたいな感じとなったのだが、
「どうやって、入力したらいいんだ?」
そう、この液晶に入力するためのキーボード的なものがない。
もしかしたら、音声入力なのか?
「こういうものって、ゲームとかだとランダムとか”おまかせ”とかいうと勝手に割り振ってくれたりするよな……まあ、ここは慎重に」
『入力を受け付けました。これより、転移を開始します。良き異世界ライフを……』
え、嘘!!
そんな馬鹿な!!
白い空間から、今の森の中に転移した時と同じように辺り一面が光輝く。
「音声入力でそういう機能が付いているなら、先にそう言ってくれー!!」
俺の叫び声は虚しく森に響いた。
目を開けるとそこには、またしても森が広がっていた。さっきのところよりは、明るく開けた場所だった。
「実はさっきのは冗談で、再設定可能とか……」
少しばかり期待して周りを探してみるが、先ほどの岩は見当たらなかった。
「なんで、異世界転移という大きいイベントにおまかせ機能が付いているんだよ!!」
はあ、過ぎてしまったことは仕方がない。これからのことを考えよう。
まずは現状の確認だな。おまかせで決まってしまったとはいえ、現状の自分のステータスやスキルを見ないことには何もできないし。
「ステータス、オープン」
……?
「ステータス、オープン!」
ステータスが表示されない。……まさか。
「メニュー!!」
……。……どうやって、自分のステータスやスキルを確認すればいいんだろう?
「これは大変よろしくない事態になってしまった」
ここがどういう世界なのかわからないが、転移前にステータスやスキルの設定が行えたことを考えるに戦闘をすることもあるはず。
「現状の装備は長袖のTシャツにジーパン、普通の運動靴……」
不安しかない。動きやすいには動きやすいが、防御力が心もとない。
そもそも、ここはどこなんだ? 森の中だけど、魔物とか出るのか? などと疑問が尽きない中、それは空から、降ってくるように俺の目の前に着地した。
「ほう。こんな場所に人間がいるとは……」
それはおっさんだった。
異世界での初遭遇はスライムでも女騎士でもなく、空から降ってきたおっさんだった。
顔は彫りが深く、銀髪のロン毛、赤い瞳、黒いマント、黒のスーツっぽいものを身にまとっている。角も付いてるし、魔王のコスプレっぽい。
あれ? 今、このおっさんどこから降ってきた?
上を見ても開けた空。木の枝から飛び降りるにも近くに枝はない。
「我は、少々機嫌が悪い。見つかった己の不運を嘆くがいい」
一人称を我とか言っちゃう人、初めて見た。
「我求めるは……」
うわー、なんか唱えだしたぞ、あのおっさん。もしかしなくても危ない人だったのか? 聞いているだけで恥ずかしくなってくる。
「我の詠唱を阻害してこないとは……この森にいるからもしやとは思ったが、期待外れだったか」
え、何? 妨害して欲しかったのか?
「終わりだ、テンペスト・エッジ!!」
……。何も起こらない。
「……?」
「馬鹿な?!」
驚愕に顔を染めるおっさん。
いや、こっちのセリフだ。
「名前は存じませんが、えーと、何か困っていることがあるなら相談とか乗りますよ?」
「くっ、貴様何者だ?!」
「何者と言われましても、自分は……」
「魔法が聞かぬなら、肉弾戦で戦うまで!!」
このおっさん、人の話を聞かない。
と同時におっさんが突っ込んできた。ぶつかりそうな勢いで突っ込んできたため、反射的に手を前に突き出した。
「ぐはっ!」
おっさんに手が当たった瞬間、ものすごい勢いで弾き飛ばされながら、木々をなぎ倒し森の中に消えていった。
「……」
……あー、これは不可抗力だな。俺は悪くない。
冷静になって考えると、ここは異世界。もしかしたら、魔法で攻撃を受けていたかもしれない。それに、殴ってきそうな感じだったし、自己防衛をしただけだ。
「あ、さっきのおっさんにこの場所を聞いておけば良かったかな?」
無理そうだな。聞く耳持ってなかったし。
「それにしても、おっさんの飛んでいくスピードは凄かったな。地球とは物理法則が違ったりするんだろうか」
さて、ここからどうするか。さっきのおっさんとは関わりたくないし、とりあえず歩いてみるか。おっさんの飛んでいった方向とは真逆の方向へ。