弁明
まさかあの四人が幼馴染だったとは意外だ、と思っているとゴンド少年と目が合った。
じーっとこちらを見るその目からは、この状況をどうにかして欲しいという助けを求めている感情が読み取れた。さしづめ、捨てられた子犬の潤んだ瞳に見上げられている感覚といったところか。子供の時は愛嬌があるじゃないか。
あ、シンシア嬢も俺のことに気づいたみたいだ。
ゴンド少年と同じような目でこちらを見てくるその姿には、男の時よりも保護欲を駆り立てられる。……決して小さい女の子だからという理由ではなく、女性には優しくという紳士としての俺の矜持だ。
確かに村の人に報告しようと思っていたが、結構怖そうな……厳しめの村みたいだから、ほどほどにという意味合いも込めて。
そんなゴンド少年たちにこくりと頷き、先ほどから声を荒げている青年に声を掛けた。
「あー、こほん。ちょっと良いですか?」
「あん? 誰だ、あんた? 悪いが今取り込み中なんだ。後にしてくれないか?」
取り付く島もないとはこのことだろうか。俺が声を掛けた瞬間は、顔をこちらに向けてくれたがすぐにゴンド少年たちの方に戻してしまった。
声を掛けたが全然取り合ってくれそうにないので、別の手段を取ることにする。
こほん、とわざとらしい咳払いをしてから、俺はゴンド少年に明るい口調で話しかけた。
「やあ、ゴンド少年とシンシア嬢! さっきぶりだな! 無事に村に帰れたようで何よりだ!」
あたかも冒険者として、村から出てきてしまった少年少女を村まで護衛してきたような風を装い、周囲にも聞こえるように大きな声で言った。
俺の言葉にゴンド少年とシンシア嬢は青ざめ、リフェル嬢とグレース嬢はキっとこちらを睨みつけてきた。
あの武具屋の店主ならその行動に納得するが、まさかリフェルまで一緒になって睨みつけてくるとは思わなかった。なんやかんやで怒りはするだろうが、表面には出さないイメージだっただけにびっくりだ。
「何? おい、どういうことだ? あんたは外から来た冒険者だろう? なんでゴンドたちのことを知ってるんだ?」
青年が訝し気にこちらを問いただす。今度は顔を俺に向け、じっと目を覗き込んでくる。その表情は真剣で俺がどんな人物なのかを見定めているようだった。
これでも何度か戦いを経験し、相手が今どんな状態なのかを判断できるくらいには俺の目も養われてきた。その証拠に俺の返答次第ではすぐに襲いかかれるように腰をわずかに下げ、戦闘態勢になっていることを察知できた。
このやり取りだけだが、この青年はとても良い人だということが確信できた。子供たちのことをここまで心配できる人なのだから。
「なんでと言われましても。この村の外で会ったからに決まってるじゃないですか。フォレスト・アントに襲われているところを偶然助けたんですよ」
「な、フォレスト・アントだと?!」
ざわざわと周囲の人たちが反応している。
え、そんな驚く魔物なの? あ、でもそうか。子供たちだけでは危ない魔物なのは確かだ。だとすると大人たちが心配するのも当然だろう。
「この村の近くにはいなかったはずだが、数は何体いた? あんたは……」
「自分の名前はソウイチです。数は三体ですね」
「そうか、三体に……。ありがとうソウイチ殿。子供たちを救ってくれたこと感謝する。私はラージという。それでここまで送ってきてくれたということか。こんな遅くに戦闘や森の中の護衛までしてくれて……、相応の謝礼を払おう」
「いえいえ、フォレスト・アントたちに襲われていたのはまだ日も高い時間でしたから、大丈夫です。謝礼を受け取るほどのことではないですよ」
「……え、日が高い?」
笑顔で応対する俺はきっと善良な冒険者として、この青年――ラージ君の目に映ったことだろう。異界の天使が攻め込んでくるまで、この村で滞在させてもらえるように交渉してみよう。
「ですが、ちょっと相談事が――」
「ちょっと待ってくれ。ソウイチ殿がうちのゴンドとシンシアを助けてくれたのは日が高い時間帯だったのか?」
この村に滞在させてもらえないか、そう交渉しようとした俺の言葉を遮り、ラージ君から質問が飛んできた。
「……? はい、そうですけど」
ちらとゴンド少年の方に視線を向けると、あちゃーといった感じに目元を覆う格好をしていた。
え、どういうこと?
「聞きたいんだが、こんな遅い時間まで何をしていたんだ? まさか、子供の足でこの村からそんな遠くに行けるわけはないと思うから、てっきり村の近くで会ったのだと思ったが違うのか?」
……あ、そうか。花のことは内緒という話だったし、そのままのことを言うわけにはいかない。何かそれらしい理由をでっちあげなければ。
「ええと、ですね。実は俺、探している薬草がありまして。子供たちから群生している場所があると聞いて、探してもらっているうちにこんな時間にですね……」
「子供たちが薬草の群生場所を知っているとは思えないが……。まさか、お前たち何度も村の外に出ていたのか! それで薬草の群生場所を!」
「え!! ち、ちが……!」
やばい、でっちあげようとした理由のせいでゴンド少年たちの方に飛び火した。
ゴンド少年が勢いよく頭を左右にブンブン振って必死に否定しようとしているが、大人たちは懐疑の視線を向けている。
「あ、実は違うんです。他の理由がありまして」
「他の理由? なら、何をしていたんだ?」
「えっと、散歩ですかね……」
「魔物の出る森の中を散歩?」
ラージ君の疑いの眼差しにだらだらと冷や汗が出てくる。えーっと、他の理由としては……。
「まあ、もう夜も遅い。話はまた明日にしよう。村のみんな、今日はすまなかった。協力してくれたこと感謝する」
内心ひやひやしながら、他のもっともらしい理由を考えていたら、ラージ君の一声でこの騒動は一旦解散となった。
ほっ、助かった。ひとまずはこれで休めるかな。えっと、集会所はっと……。
「あら、どこへ行かれるんですか?」
解散していく村人たちに沿って、俺も移動しながら集会所を探そうとしていると女性に呼び止められてしまった。
なんだろう。この本能的な恐怖は。
「少し、あちらでお話を聞かせてもらっても良いですか?」
笑顔なのに怖い女性が迫ってきた。さっきシンシア嬢に質問していた人だ。
「え、話は明日と」
「あなたと子供たちは別です。皆には明日説明するという意味です。良いですね?」
「……はい」
有無を言わせぬ笑顔の女性の言葉を断ることができず、俺と四人の子供たちは連行されていった。




