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日没

 ――俺の行動次第で未来が変わる。


 そんな重大な責任を負っているにも関わらず、妙に冷静になっている自分に気が付いた。


 普通そんな話をされたら取り乱したりするのではないだろうか。まあ、取り乱すことはなくても、とても落ち着いてなどいられないはず。


 絶対に厄災を止められる自信があるというわけではない、そもそも厄災の内容はこれから話される。なのに、なぜだろうか。考えれば考えるほど、自分に――自分の性格に疑問を抱くようになっていく。……前々から思っていたが、俺ってこの世界に来る前はもっと違う性格だったんじゃ――。


「話を聞いていますか?」


「え?」


 自身の考えに没頭していたら、ヘスから少し語気の強い言葉が飛んできた。顔を見ると目つきも無表情ながら鋭く感じられた。


「あ、すいません。自分の考えに没頭して」


「……世界の命運を握っているというのはあなたにとって重荷になっているのでしょうが、今は私の話を聞いてください」


 ため息交じりに発された言葉に申し訳なさを感じる。話を聞いていなかったことと世界の命運を握っていることを重荷と捉えていない俺の脳に対して。


 そうだな。今は自分のことよりも厄災について考えよう。


「では、話の続きですが、厄災の内容についてです」


 真剣な顔つきで話し出すヘスを正面から見据え、ちゃんと聞いてますよといった態度を意識する。


 よし、まずは話を聞いて、それから対策を――。


「今から五日後に異界の天使が攻めてきます」


「……てんし?」


 練ろうかなと思い、身構えていたところに想定していなかった単語が耳から入ってきたことで頭が混乱した。


 てんし……テンシ……天使!? 


「え、異界の天使が攻めてくる?」


「数は一体だけです。つまり、この世界に干渉できるかどうかを異界の神が判断する材料として送り込まれる尖兵ですね。もしその天使がこの世界に干渉可能で侵略が容易と判断したならば、そのあと大群が攻めてくることになるかと」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」


 え、どういうこと? 厄災というから、もっと天変地異的なものだとばかり思っていたのに天使一体が攻めてくるだけ? 異界の天使ということはこの世界の天使とは別物? いや、そもそも尖兵とかまるで戦争みたいじゃないか?


「異界のってことは、この世界とは別の世界があるのか?」


 混乱した頭の中を整理しようとして、質問した内容に「何を今更」といった顔をしたヘスが答えた。


「あなたも異世界人でしょう?」


「え? まあ、そうだけど……。まさか、俺の元居た世界にも天使が?」


「はい、いらっしゃることはエルドレーネ様からお聞きしております」


 俺のいた世界にも天使がいたのかよ!? 神話だけの存在かと思ってた。……あ、この世界にも天使いたな。


「もう一つ疑問なんだけど、攻めてくるって言った? なんでなんだ? この世界と戦争でもする気なのか?」


「それは、現在この世界には神様が不在だからですね。そのため、この世界は不安定であり、法則などを改変することができる状態なのです。ですから、悪しき神々が実験世界として利用しようと狙っている、と推測されます」


 推測されます、って言われてもよくわからないんだけど。


「この世界にはエルドレーネ……様がいるんじゃなかったのか?」


「エルドレーネ様は代理者です。正当な引継ぎをしていませんので、この世界の神様と呼ぶには誤りがあります」


「そういえば、人工的に造られた神もいるんじゃなかったっけ? 封印中らしいけど」


「その神も引継ぎをしていないので、この世界の神様とは言えません」


 ややこしいなこの世界の神事情。


「……あれ、そういえばエレさんは『私たちは厄災の内容を知らない』って言ってたけど、ヘスさんは知ってるんですね」


「正確に言うのであれば、この時間での厄災の内容を知っているのは私と妹の二人です。妹のことは後程会うことになりますので、その時に紹介されると思います」


 あの空間で見なかった十二つ子の二人はこの時間にいたのか。


「さて、厄災の内容をエレが知らず私が知っている理由についてですね。簡単なことです。異界の天使が攻めてくる時間がちょうど私たちの担当する時間だったからです」


「担当する時間?」


「はい。私たち姉妹については直接会われたのでご存知だとは思いますが、十二人います。その一人一人に役目が与えられているのです」


 ここまで淡々と話をしていたヘスが目を伏せ、言葉を区切る。


 ………………………………?


「……えーっと。もしもーし。役目について聞きたいんだけど?」


 目を伏せたまま、黙り込んでいるヘスに問いかけてみるも反応がない。

 

 周囲の状況としては、ちょうど日没。眩しくて目を閉じているわけではなさそうだが、一体どうしたのか。


 やけに長く目を閉じていたヘスだが、やがてゆっくりと目を開き……。


「初めまして、あなたがソウイチですね。私はシスと申します。以後お見知りおきを」


 ヘスと同じ顔、同じ声で「私はシス」と自己紹介をされた。しかも、結構早口。


「は……?」


「混乱するのも無理はないと思います。ヘスと同じ顔、同じ声で別人だと言っても信じられないでしょう。ですが、私はシス。ヘスとは別人なのです」


 ……多重人格みたいなものか。うん、大丈夫。理解した。早口で聞き取りづらいけど、理解した。


「私たちはあの空間以外で活動する場合、体が一つしかないのです。本来であれば時間ごとに意識が切り替わり、体の主導権が変わります。ヘスが言っていた役目というのは、こういうことです。十二人全員に担当する時間があります。私であれば、日没が担当する時間です」


「……ということは、この時間に異界の天使が攻めてくる?」


「はい、その通りです。だからこそ、私たち二人だけが厄災の内容を知っているのです。担当する時間については、全てを知ることができますから」


 時間限定の全知的存在。であれば、異界の天使についての情報を事前に知ることが可能になる。これは頼もしい戦力になるな!


 いや、下手するともう厄災を止めたも同然なんじゃないか? 楽勝だな、と浮かれた気分になったのも束の間、ある疑問が浮かんできた。


 ……ん? 日没を過ぎた場合って、どうなるんだ?


「ただし、今は黄昏時と日没の短い時間しかこの世界にいることができない状態です。ですから、また明日会いましょう」


 と言い残し、シスが虚空に消え去った。


 あー、なるほど。シスになってからずっと早口で話していた理由がわかった。意識がある時間が短く、担当する時間以外はいなくなるからか。


「作戦会議はまた明日かな」


 ちょうど日も沈み、辺りは暗くなっていた。

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