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トモダチ

「えーっと、つまりここに群生しているムスブ草は採っちゃいけないのか?」


 ヒプノさんにお願いし、ゴンド少年とシンシア嬢に掛けられた幻覚魔法を解いてもらった。そして、ムスブ草のことを説明したのだが、予想通りの返答がゴンド少年から発せられた。


 まあ、そうなるな。俺だってそう思ったし。


 幻覚魔法から解けたばかりの時は二人とも良い夢を見たからか上機嫌だったが、探し求めていたムスブ草を採ってはいけないことを聞いた瞬間、機嫌は急降下してしまった。


 ゴンド少年は口を尖らせ、シンシア嬢は残念そうな雰囲気だ。


 採ってはいけないって言ってるのもヒプノさんが逸話を信じているからだけど……。


「ごめんなさいね~。でも、私の運命の相手が見つかったら採って良いからね~」


 なんて大人気ない台詞だ。


「いえ、そういうことなら仕方ないですよね。他を探してみます」


 なんて大人な対応だ。


 シンシア嬢……、仕方なくはないから、もっと反論しても良いと思う。


「おばさん、大人気ないぞ。一輪、二輪くらい譲ってくれても良いじゃんか。だから、相手ができないん――」


「――ああん!?」


「……っ!!」


 ゴンド少年が最もらしい反論をしたが、子供相手にも容赦ないドスの効いた声を発し、相手を射殺すレベルの眼光を向けるヒプノさん。マジ、大人気ない。


 未来のゴンドさんならいざ知らず、今のゴンド少年はまだ子供なんだから、そんな眼光を向けられたら萎縮するのは当然だ。


 ビクッと体を震わせていたぞ、可哀想に。


「ヒプノさん、その辺で勘弁してやってください。まだ、子供なんですから」


「……コホン! そうよね~。まだ、子供なのよね~。ごめんなさいね、怖がらせてしまって。でも、教訓になったでしょう? 女性を怒らせると怖いってこ・と・が!」


 にこやかな感じを出しているが、どことなく険がある。……あまり怒ってると小皺が増えますよ。


 ギロリ!! って感じの視線が飛んできた。


 嘘だろ。俺言葉に出してないのに。


「いえ、小さな声で呟いてましたが……」


 シンシア嬢は耳が良いな。

 

「そういえばお姉さん、疑問なんだけど。そもそも、なんでムスブ草を探していたの~? 誰かと結ばれたいとか、結婚願望があるの?」


 子供相手に何を聞いているんだ、この人は。


「あ、いえ、私たちではなくて、贈り物として欲しかったんです。私の師匠が結婚するので」


 うわっちゃー、タイムリーなネタが飛び込んできたぞ。


 今、ヒプノさんのコメカミがピクッと動いたし、さっきの話の流れからしてこの話題はまずい気がする。


「へ、へえ……、贈り物としてもこのムスブ草は有名なのか?」


「ほかの村や街では知りませんが、私たちの村では有名なんですよ。このムスブ草を誓いの日に交換し合った男女は末永く結ばれる。だから、ムスブ草なんて言われてるらしいんです」


 純粋な笑顔で説明してくれるのはありがたいんだが、シンシア嬢とは対象的にヒプノさんがどんどん渋面になっている。


 これ以上、この話を続けていると鎮静化した炎に再び燃料を投下する事態になってしまうので、さっさとこの場を離れたほうが得策だろう。早く他の群生地も探さないといけないしな。


「そうだったのか。なら、なんとしても見つけないとな。じゃ、このあたりで他の場所に……」


 探しに行くか、と継ごうとした言葉が出る前にシンシア嬢が爆弾を投下した。


「師匠はちょうどヒプノさんくらいの年齢ですね。衣装合わせをした時なんか、とっても綺麗だったんですよ。普段では着れないような服で、憧れちゃいました!」


 結婚を夢に見ているから憧れなんだろうなとは思っていたけど、今はまずいって。


 話をしているシンシア嬢の瞳がキラキラと輝いていく反面、ヒプノさんの目がどんどん光を失っていく。


「ちなみに、俺の兄ちゃんと結婚するんだぜ!」


 最後のゴンド少年の言葉が決定打になってしまったようで、ヒプノさんが爆発した。


「ふふ、ふふふ、だから、なんじゃい!! 人の幸せよりもまずは自分が幸せになることが大切なんじゃい!! そうしないと、他の人の幸せを喜べんからのう!! 年齢? そんなもんに意味なんか無いわい!! きっと、すぐにでも運命の相手が……相手が……」


 堰を切ったように言葉を並べ立てるヒプノさんだったが、どんどんと尻すぼみになっていってしまった。


 ダメだ、掛ける言葉が見つからない。


「「だ、大丈夫だって(よ)。きっとすぐに見つけられる(わ)」」


 子供の言葉って悪意が無い分、ダメージが大きいことってあるよね。きっとゴンド少年もシンシア嬢もヒプノさんを慰めようとしているだけだろう。本人にとってはつらい言葉になっているかもしれないが。


「……もう聞き飽きたのよ、その言葉は」


「案外、身近な人で運命の相手がいるかもしれないぜ?」


「身近な人……?」


 なぜ、こちらを見る?


「そうですよ、独り身の人がいないわけじゃないんですから。まずは友達から始めてみるのも良いと思います」


「独り身……トモダチ……」


 ……この後の展開が容易に想像つく自分が嫌だ。


 俺の目を真剣な眼差しで見ているかと思ったら、急に態度を一変させ、もじもじとしだした。そして、こちらを上目遣いで見ながらヒプノさんが言葉を紡いだ。


「ソウイチ君。良かったら、トモダチ(トくにモてない私ダけど、チょっと結婚を前提としてお付き合いをする関係)になってくれませんか?」


 想像した通りの言葉が来たけど、友達のワードに暴きたくない秘密が隠されている気がするのは自分だけだろうか。

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