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ムスブ草

「……はっ!? んん、コホン! いきなり幻覚魔法をかけて悪かったわね~。でもね、お姉さんにも色々と事情があるのよ~。だから、今回は見逃して欲しいな~」


 俺の顔はわかりやすいと評判らしいから、きっとドン引きしているのが相手にも伝わったのだろう。


 いきなり魔法をぶっぱしてきた目の前の女性は、声音や語尾を余裕のありそうなお姉さん口調に戻し、謝罪してきた。ただし、顔は蒼白で今にも倒れそうなほど、余裕は無さそうだが。


「あなたは……」


「あ、そうだったわね~。いきなり目の前にこんな美少女が現れたら――」


「美、”少女”?」


「――ああん!?」

 

「……いえ、なんでもございません」


 明らかに少女ではない年齢だったから、疑問に思って反復したら、ドスの効いた声と鋭い眼光が返ってきた。


 ……この女性、裏表がありすぎて超怖い。


「コホン! そうよね~。いきなり目の前にこんな超絶美少女が現れたら、誰だってその正体に疑問を持つわよね~」


 テイク2。一部表現が変更になった。


「良いわ~。私の正体を教えてあげる~。私は”ヒプノ”っていう名前よ~。よろしくね!」


 言い終わった後にウィンクしてくるのは、キャラ作りのため? ……ちょっと、きついんだが。


「それで、私の幻覚魔法を易々と打ち破ったあなたは~? 高名な冒険者さんかな~?」


「……俺の名前はソウイチ、です。高名ではない冒険者、です」


「へぇ~、ソウイチ君ね~。……今、彼女いる?」


 藪から棒になんだ、この人。しかも、最後のフレーズだけ、素の声に戻ってるし。キャラがブレブレなんだけど。


「いえ、いませんけど」


「そうなんだ~」


 今、悪寒がしたぞ。このヒプノって女性、終始にこやかな顔を作ってるようだけど、目が全然笑ってない。猛禽類が獲物を狙う目、のような感じがする。


「えっと、ゴンド――あっちにいる少年と少女に掛けた幻覚魔法って、害のある魔法なんですか?」


「いいえ、害なんてないわよ~。ただ、夢を見てもらってるだけなの~。そっちの僕は有名な冒険者になって活躍してる夢で、そっちのお嬢ちゃんは……結婚してる(チッ)、のようね~」


 ……舌打ちが聞こえたような気がするけど、無視しよう。


「ようねって、あなたが掛けた魔法なのに夢の内容は指定していないんですか?」


「ふふふ、夢の内容を指定するなんて野暮な真似はしないわ~。そんなの三流がやることよ~。こちらの都合で無力化するのだから、相手の望んだ夢を見させてあげる。それが一流の幻覚使いなのよ!!」

 

 いや、そんなドヤ顔で「なのよ」って力説されても……。


「あ、そうそう。聞くのが遅くなったけど、君たちは何をしにここへ来たのかな~? まさかとは思うけど、ここに群生しているムスブ草を採りに来たの~?」


 ヒプノさんが白い絨毯のように群生している花を指さしながら、問いかけてきた。


 この花、ムスブ草って言うのか。よく見ると花弁の形がハートっぽいな。


「はい、そうです。俺たちが来たのはその、ムスブ草っていうのを採りに来たんです」


 嘘を言っても意味ないので、正直に答えるとヒプノさんは時が止まったかのように動かなくなってしまった。


 もしかして、ムスブ草は採ってはいけない花なのか?


「……ふふふ、それは駄目よ~。少なくともここに群生しているムスブ草は採ってはいけないの~」


 マジか。ゴンド少年とシンシア嬢はムスブ草が目的だったと思うが、二人はそのことを知らなかったのか。


「なぜ、駄目なんですか? 何か採ってはいけない理由があるんですか?」


「そうよ~、大切な理由があるの。それはね、この花々は私のためだけにあるんだもの~」


 まさか、ここはヒプノさんの土地ってことか? ということは私有地に勝手に入ってしまった俺たちが悪い……。


「偶然、こんなにも群生しているところを見つけたんですもの。これは神様から私への贈り物なのよ~」


 違った。野生の群生地のようだ。

 

 ここに群生している花は自分だけのものと主張しているように大きく両手を広げ、まるで子供のような理論で言い放っているが、誰のものでもないと思う。神様もそんな贈り物するほど、暇じゃないだろう。


「このムスブ草には言い伝えがあるのよ。百輪の花咲きし時、運命の相手現れ、結ばれる。だから、今採られるわけにはいかないのよ~。この花にはね、私の人生がかかっているのよ~。だから、お願い。この子たちを採らないで! あと一輪なのよ!!」


 すごいなこの人、あと一輪ってことはここに群生しているムスブ草を全部数えたのか。


 両手を合わせ、お願いしてくる姿に必死さが伝わってくる。


「ん、人生って……?」


「そう、人生。私はこの花の力を借りてでも、運命の相手を見つけ出す。もう『きっと良い人見つかるよ』『綺麗なんだから、すぐに結婚できるよ』なんて、そんな言葉聞き飽きたの! なんで、私だけ行き遅れるの! 友達は全員結婚して! 私の何がいけない! 何がいけないのじゃい!!」 


 この上なく面倒くさい。ていうか、色々な事情って自分の婚活のことかい。……どうしよう、この花が目的なんだけど、他にも群生している場所ってあるのかな。


 ヒプノさんは興奮している様子で、今までに言われてきたであろう励ましの言葉をぶつぶつと呟きだしてしまった。


「あ、あの~、そのお話は一度置いておいて」


「置いておけるかい!! 私にとって一番大事なことなんじゃい!!」


「あの子たちに掛けた幻覚魔法を解いてもらえませんか? ムスブ草のことは俺から説明してみますので」


「え、ああ、コホン! そうだったわね~。ごめんなさいね~。つい熱が入ってしまったわ。おほほ」


 結婚したいなら、まずそのキャラをどうにかした方が良い気がする。いや、人の好みはそれぞれだとは思うが……。

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