悪鬼
当時から冒険者の仕事は魔物を倒すことで、俺のいた現代から体系的には変わらないんだろうな。
「この体質については、仲間の魔法でどうにかなっているから問題ない。気配が影響しているらしいから、魔物を倒す依頼の時はその魔法をかけてもらっているんだ」
「え、気配を消す魔法!? しかも、依頼中にかけてもらっているんですか?! お仲間さんって有名な冒険者さんなんですか?! 今って、近くにいらっしゃるんですか?! もしそうなら、会わせていただきたいです!!」
シンシア嬢がさっきの比ではないレベルで距離を詰め、一気に捲し立ててきた。
さっきから思っていたが、このシンシア嬢と未来のシンシアさんは、実は別の人なんじゃないかってくらい性格が違う気がする。
こんなマシンガントークする人だったっけ?
「シンシアは魔法の制御が壊滅的なんだ。しかも、持続してかけるタイプの魔法は苦手中の苦手でさ。この前なんて魔力欠乏症一歩手前までいっちまったんだぜ。他にも威力の制御も全然で……ごふっ!!」
「……余計なことは言わないで!!」
俺がそんなシンシア嬢の態度にたじろいでいると、ゴンド少年が苦笑しながら補足してくれた。
ただ、それが恥ずかしかったからか、ゴンド少年が言い終わる前にシンシア嬢のキレの良いボディーブローが炸裂した。結構、勢いがありゴンド少年の体がくの字に曲がるほどだ。
将来、尻に敷かれているさまがありありと頭に浮かんだ。いや、現に未来ではそうなっていることを思い出した。うん、俺この二人の将来見てるな。
それにしても――、
「だってだって、魔物を倒せる威力があれば細かな制御はいらないでしょ! 逆に威力を加減して、トドメを刺せないことの方が問題でしょ!」
「わ、わかった! わかったから! 腹を立て続けに殴るのだけはやめ――ごはっ!!」
魔法の制御ができないというのは意外だったな。弟子が弟子なら、師匠も師匠ということか。……まるで誰かさんを見ているような気分だ。
どんどんヒートアップしていくシンシア嬢を必死に宥めようとしているゴンド少年だったが、全然聞く耳を持たない。
そろそろ止めたほうが良いかな。ゴンド少年がトドメを刺されてしまう前に。
「まあまあ、その辺でやめておいて。目的の花を探すんだろう? 日が暮れちまうぞー」
「そ、そうですね! 早くしないとですよね!」
仲裁に入り、夫婦喧嘩(今は夫婦じゃないから、ただの喧嘩になるのかな)を止めた俺はシンシア嬢に目的の花が咲いている群生地を探そうと提案した。
森の中ではあるが葉と葉の間から陽光が差し込んでいる。そんな明るい道のりをしばらく進んでいくと開けた場所に出た。
「おお、良い場所だな。ここらで休憩でもするか? って、中央に何か生えてる……」
「あ、あれだ!!」
「あれです!!」
開けた場所の中央を見てみると、白い絨毯でも敷かれているのかと思うほどに規則正しく並んだ花々が咲き誇っていた。
陽光を反射してキラキラと輝いている光景は幻想的であり、まさに神秘の体現。
二人して興奮気味に叫んでいたことから、あれが目的の花なのだろう。これで護衛任務はミッションコンプリートかなと思っていたのだが 前を歩いていた二人が一向に動こうとしない。緊張しているのか、体が強張っているように見える。
「……どうした? 疲れて動けないのか? だったら、俺が摘んでこようか?」
あれだけ群生しているんだったら、少し採っても問題ないだろう。奇麗な光景ではあるが、いつまでも見ているだけというわけにはいかない。
二人から返事がないが、俺は足を進めた。
「奇麗な花だな。……? 何か変な感じがする」
近くまで歩くと奇麗さが一層際立つ。この花を摘むという行為に若干の戸惑いはあるものの、仕方がない。
しかし、かがんで一輪摘もうとしたら変な感覚に襲われた。例えるなら、冷水を勢いよくぶっかけられたような感じだ。
顔や服などの状態を確認したが、特に濡れているわけではない。
「はて……?」
もう一度花を摘もうとすると、また同じ感覚に襲われた。
まさか、俺の良心が『こんな奇麗な花を手折ることはいけない』などと言っているのだろうか。もしそうなら、俺ってなんて優しい人間なのだろう。……冗談だが。
「……? おーい、この花を摘もうとすると変な感覚に襲われるんだけど。そもそもこの花の名前って何て言うんだ?」
普通の花ならこんな現象は起きないだろう。疑問に思った俺はゴンド少年とシンシア嬢の方に振り返り、声を掛けてみたのだが。
「ゴンド少年? シンシア嬢?」
二人は時が止まったかのように微動だにせず、立ち尽くしているのみだった。
「そこにいる、子供たちに、ハァハァ、話しかけても、無駄よ~。二人は、ハァハァ、今夢を、見ているん、だから~」
ゴンド少年でもシンシア嬢でもない間延びした声。ハァハァと薄気味悪い息遣いをしている女性の声が俺の後ろから聞こえてきた。
「な、誰だ!? ……ひっ!!」
白い絨毯のような花々を挟んだ向こう側には、息も絶え絶えで顔を青くした一人の女性がいた。右手をこちらに掲げて、左手を膝につき、必死な形相。
陽光を反射し、ギラギラとした目はまさに悪鬼そのもの。
「……ま、魔物か!!」
おかしい、俺の体質が効いていないのか。人型ではあるが、あれは完全に魔物――。
「誰が魔物じゃい!! 正真正銘の人間じゃわ!! あんたの抗魔力が凄すぎて、魔力欠乏一歩手前なだけじゃわい!!」
……さっきの声音は演技だったのかな? すっごいきったない語尾になったぞ。




