ゴンド少年とシンシア嬢
「ところで、なんで君たちだけで森の中にいたの? 大人たちとは来てなかったのかい?」
「そ、それは……」
村まで案内するというゴンド少年とシンシア嬢(未来の二人と区別するため、呼び方を変えてみた)について歩いている途中、この魔物が生息している森に二人だけでいたことを疑問に思った俺は二人に聞いてみた。
さっきの口振りからして、ゴンド少年は冒険心豊かなクソガ……子供だろう。
俺の予想としては、そんな冒険心から自分だけで魔物を倒すことは簡単だと思って森の中に入ったと推測している。未来のシンシアさんからして、そんなゴンド少年を止めたがあまりに強情だったため、仕方なく同伴した的な感じか?
どういった目的で森の中に子供の二人だけで入ったのかは知らないが、危険であるということを教えてあげなければな。今は、俺の方が先輩なのだから!
「ある場所に群生している花が目的だったんです。私が一人で行くのを見て、ゴンドは止めてくれたんですけど、どうしても欲しかったんです! そのせいであんな危険な目に……。だから、ゴンドは悪くないんです!」
「お、おい、俺だってあの花は欲しかったんだ! だから、そんな自分一人が悪いみたいに言うなよ! あれだ、俺たちは同罪だ! うん!」
「ゴンド、私を庇う必要はないのよ? 私が無理言って――」
「いやいや、俺だって――」
「……はいはい、事情はわかりましたよ」
シンシア嬢は自分一人が悪いと言い、ゴンド少年は自分も共犯だと言う。二人とも相手のことを想っての言葉だと思うが。
なんだ、これ。
まあ、反省しているみたいだし、俺から何かを言う必要はなさそうだ。決して、二人の痴話げんかで気持ちがげんなりしたとかじゃないけど。独り身としては、ちょっと羨ましい気がしないでもない……。
しかし、シンシア嬢の方から言い出したのか。何か意外だ。
大人のシンシアさんからはそんな無謀なことしなさそうな雰囲気だったんだけど、子供の時はやんちゃだったということかな。
「そういえば、お目当ての花は採れたのかい? 見たところ何も持っていないように見えるんだけど?」
まだ、あーだこーだと言い争い続けていた二人の間に割って入るように聞いてみると、一瞬で静かになった。
「それがまだなんです。どこに生えているのかもわからなくて、探そうとしていたら……」
「さっきの魔物に囲まれた、と」
「おい、シンシアは悪く――」
「わかってるよ、ゴンド少年。ちなみに聞きたいんだが、君たちが森の中に入ったことで村のみんなが騒ぎになってるとかは?」
「おそらくまだ大丈夫だと思います。ちょうど今はみんな仕事中だから、子供のことを気に掛けることはないかと」
大人が働いている時間は子供たちの面倒を見ることはないのか。それって、大丈夫なのか?
「大人たちが監視していなくても村には塀がありますから。通行できるのは門からだけなので、子供が外に出ることは難しいんです。今回は前々から準備していた抜け道から抜け出してきたので」
説明してくれたシンシア嬢の顔は苦笑している様子だ。
シンシア嬢はエスパーか?! 俺の考えていることを読み取るなんて!!
「なあ、変な兄ちゃん。他の人から考えてることばれやすいとか言われたことないのか?」
「い、いや、そんなこと……」
「結構表情に出てたぞ? 難しそうな顔で眉をちょっと顰めて、俺でもわかっちまうくらいに」
ゴンド少年に指摘され、苦笑される始末。
ば、馬鹿な。自分ではポーカーフェイスを維持していたはずなのに。大人状態ならいざ知らず、子供状態の時に見抜かれるなんて思ってもみなかった。
「変な兄ちゃんは面白いな、大人って感じがまるでしない」
「ゴンド、そんなこと言っちゃダメでしょ。でも、村の大人より話しやすいかも……ふふ」
なんか、笑われてるし。こっちは普通に大人として対応してたはずなのに、どうして?
「そんで、村のみんなが俺たちのこと知らなかったとしてどうするんだ? みんなに黙っていてくれるのか?」
ちょっぴり落ち込んでいる俺にゴンド少年が期待に満ちた顔で尋ねてくる。
問題がなければそれでも良いかなと考えたが、世の中そんな甘くしちゃいけない。抜け道を作ったり、大人をからかったりする悪い子供にはお仕置きが必要だ。このことは後できちんと保護者に話してあげよう。
「それはない。きちんと報告するよ。けど、まだ村には帰らない」
「「え?」」
否定したところでがっくりと落ち込んだゴンド少年だったが、次の言葉で顔を上げた。
「ここで会ったのも何かの縁ってことで、探している花を見つけるのを手伝うよ。せっかく村の外に出たんだし、何かしらの成果は欲しいでしょ?」
「ほ、本当?! 本当に本当?!」
すごい勢いで近づいてきたシンシア嬢の顔は、これでもかというくらいキラキラと輝いていた。よっぽど、その花が欲しいらしい。
「で、でも、また魔物が出てきたときはどうするんだ? いや、変な兄ちゃんに守ってもらわなくても俺だけで大丈夫だけど。一応、念のために。そう念のためだ!」
明らかに魔物に対して怖がっていることがバレバレだが……。人のことわかりやすいって言っていたが、ゴンド少年の方も大概だと思う。
「魔物に関しても大丈夫だよ」
「え、もしかして変な兄ちゃんはとんでもなく強いのか? まさかSランクの冒険者!!」
ゴンド少年もキラキラと顔を輝かせて、すごい勢いで近づいてきた。やっぱり、子供にとってもSランク冒険者は憧れの的らしい。
「いや、Sランクじゃないけど。俺の体質的に大丈夫って話」
「「体質?」」
「そ、俺は魔物を寄せ付けない体質なんだ」
ドヤ顔で放ったその言葉に二人はポカーンとしていた。珍しい体質らしいから、驚いているんだろうなと思っていたのだが。
「「それで冒険者ってできるの?」」
だよね、当然の疑問だと思う。




