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子供

 急いで時計盤に飛び込み、過去の世界に来たは良いものの、


「……なんか、デジャヴ。この状況は前にも体験した気がする。人気の無いところで怪しまれない点としては完璧な場所だとは思うけど、路地の裏とかもう少し人のいる場所とかにしてくれても……」


 目の前には広葉樹だろうか、掌くらいの葉が茂っている木が群生していた。つまり、また森の中。……人里まで歩くしかないか。


「きゃああああぁぁぁぁ!!」


 とぼとぼと歩き出した途端に甲高い悲鳴が聞こえてきた。これは完全に誰か――美少女または美女――が何者かに襲われているということだろう。そうに違いない。ならば考える必要はない、現場に急行せねば!


 不純すぎる動機に突き動かされながら、木々を避けつつ疾走する。


「頼む、俺が着くまで無事でいてくれ!」


 ついでに、何かの物語の主人公っぽいセリフも吐いておく。特に意味はないが気合を入れるためだ。

 

 悲鳴の主が相対しているであろう敵が想定以上の強さだった場合は、相応の覚悟が必要だからな。最悪、彼女を逃がす時間くらいは稼いでみせ……?


 そんな覚悟を決めていると意外と早く、その現場にたどり着いた。


「子供……?」


 森の中の開けた場所。そこにいたのは、一本の木を背にした子供二人を囲う様に巨大な蟻――フォレスト・アントたちが顎をガチガチ鳴らしていた。

 

 子供は男の子と女の子の二人で、さっきの悲鳴の主は女の子のようだ。薄い紫の髪が特徴的な子供で、手には魔法の触媒だろう杖を持っている。


 そして、男の子はそんな女の子を守るように小さい剣を構えながら、フォレスト・アントたちを牽制している。


 あれ、この二人どこかで見たような……? おっと、悠長に考えている場合じゃない。


「おーい! 無事か!?」


「……なっ?!」


「……え?」


 とりあえず大きな声を出し、フォレスト・アントたちの注意をこっちに向ける作戦だ。案の定、四匹の頭がグルンとこちらを向いた。


「に、逃げろ!! 一人じゃ無謀だ!!」


 男の子がこちらの身を案じて、叫んでくるが問題ない。あの時のクエストと同じように頭部を蹴り飛ばせば……。


「「「「ギギィッ!!」」」」


 だが、俺を認識した途端にフォレスト・アントたちは蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていく。その逃げっぷりは、天敵に会ったのかと思わせるほど。


 あ、忘れてた。俺には魔物避けの体質があるんだった。最近、魔物よりも人間だったり天使だったり魔王ばかりに会っていたからなぁ。


「え、一体……?」


 俺の体質を知らない子供たちは、今まで危機的状況にいたはずなのにあっさりと助かったことが信じられないというようにポカーンとしている。


「大丈夫だったか? 怪我とかしてないか?」


 見た感じは外傷を負っていないように見えるが、もしかしたらということがあるかもしれない。怖がらせないようにゆっくりと近づきながら、心配して聞いてみたが。


「え、いや……」


「あ、ありがとうございます」


 男の子は不思議そうにこちらを見つつ、女の子は礼儀正しく頭を下げて答えてくれた。


「何事もなくてよかった。それにしても、ここはどこかわかる?」


「えっと……」


「あ、ごめん。自己紹介してなかったね。俺はソウイチ。未来から来たんだけど――」


 はっ、俺は何を言っているんだ?! いきなり未来人ということをカミングアウトしても、この子たちには意味がわからないだろう。なんか、さっきよりもぽかーんとしている気がするし。


「君たちのお名前はなんていうのかな?」


 半ば誤魔化すように名前を尋ね、さっきの言葉は無かったことにする。


「俺の名前はゴンド。冒険者志望だ!」


「私はシンシアです。さっきは危ないところをありがとうございました」


 さっきまで呆けていたが、気を取り直すように元気よく自己紹介をするゴンドとシンシアという子供たち。


「けっ、あんな奴ら俺一人でもなんとかなった」


「ちょっと、ゴンド! せっかく助けてくれたのに、なんでそんなこと言うの?!」


「そもそも、この兄ちゃんが助けてくれたのか怪しいぜ。こいつは戦ったわけじゃないし」


 わーわー、ぎゃーぎゃーと痴話喧嘩をして騒がしい二人は置いておいて、俺は名前に驚きを隠せなかった。


 そりゃ、過去に来たわけだし、その可能性もあるだろうと思っていた。だが、まさかゴンドさんとシンシアさんの子供時代の時に会うとは……。ひょっとして、未来で会っていたゴンドさんたちは俺のことを知っていた? そんな素振りあったかな。


「おい、お前ここでは見ない顔だな。どこの村の者だ!」


 考え事をしていると、子供ゴンドが俺に何者かを誰何してきた。その目は胡散臭いものを見るような目だ。


 困った。どう答えよう。村の者ではないし、未来人で異世界人で……。


「通りすがりの冒険者だ。良かったら君たちの村に案内してくれないか? 実は、今日の宿も決まって無くて」


 答えるのが面倒とかではなく、面倒ごとにならないよう配慮した結果こうなった。間違ったことは言っていない。


「兄ちゃん、冒険者だったのか?! 全然そうは見えないぞ。背も大きくないし」


 未来のあなたは大きいですもんね。


「これでも一応、ね。それと人を外見で判断しちゃいけないよ。痛い目に会うから。……本当に」


「ふーん、まあいいや。変な兄ちゃんだけど、冒険者なら俺たちの村に案内するよ」


「……ありがとう」


 村に案内してくれるのは嬉しいけど、変な兄ちゃんはやめてほしいな。

「赤い色の一輪の花」→「魔法の触媒だろう杖」に修正

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