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いざ、過去へ!

「えーっと、質問!」


「なんでしょうか?」


 この空間内も異様といえるが、それ以上に異様なモノを前にした俺はエレに問いかけた。


「なんでこの文字盤だけこんなぶっとい鎖で雁字搦めになっているんだ? まさかとは思うけど、……暴れたりするのか?」


 鎖の太さは成人男性の腕くらいだ。それを幾重にも巻かれた文字盤を見て、ついそんなありえないような質問をしてしまった。


「文字盤本体が暴れることはありませんよ。この鎖は拘束用ではないのですから」


 いや、そんな馬鹿を見るかのような目で見ないでくれ。


「なら、なぜ?」


「鎖を解けばわかります。まだ少し時間があるようですね。できれば鎖を解いている時間を最小限にしたいので、少々お待ちいただいても良いですか?」


「え、ああ、わかったよ」


 時計の針が十六を指すまでにはまだ時間がかかりそうだ。さて、何か話題でも……。


「待っている間、時間を持て余しますね。さきほどのあなたからの問いに答えましょう」


「え?」


「あなたは、なぜ十六年前にこだわるのか、そう仰いましたね。その答えは目の前にある通りです」


 目の前にある通りと言われても、さっぱりわからないのだが。


「この空間において例外的に設定されている基準点を知っていますか?」


「基準点? そりゃ、現在なんじゃないか? もともと俺のいた――」


「あなたがいた時間は、この空間内では基準にはなりません。そもそも現在というのはその時間で過ごしている人が使う単語です。そもそもあなたがどの時間から来たのか、私には知る術がありません」


 そうなの? てっきり十六年前なんていうから、俺のもともといた時間から十六年前のことだと思っていたけど。


「? なら、いつの時間から十六年前になるんだ? 歩いてきた感じ、どこにも目印になるものなんてなかったと思うんだけど」


「あなたからは目印がないように思えたかもしれませんが、ここの管理を任されている私たちならわかるんですよ。ちなみにその目印は、この空間のある地点に存在しています」


「ある地点? それってどこに――」


「あなたと私たちが合った場所です。あそこから十六年前に遡るとするなら、ちょうどこの場所にあるこの時計盤が該当します」


 え、どこも同じような風景だったから、全然わからなかった。

 

「最初は驚きました。ちょうどその位置にあなたがいたものでしたから。そして、十六年前などと言うものですから、さらに」


 俺も十二つ子には驚きだったぞ。


「そして、その時間に何があるかは正直に言うとわかりません」


「わからない? 厄災が起きるって聞いていたけど?」


「前任者様から聞いたのですね。私たちもそれは理解しています。けれど、詳細なことは知らないのです。ここの管理を任されている私たちですら……。本来ならこの空間には、基準なんて存在すること自体が異常なんです。この空間は刻々と時間が変化するのですから」


 結局、わからずじまいか。これは実際に行ってみるまではわからないな。


 そうなると一つの疑問が出てくる。


「でも、目印はあるんだよな? 誰がその基準を設けたんだ?」


「それもわかりません。私たちを創造したエルドレーネ様が、この世界の神様になる前から基準は存在していたそうですから、おそらく前任者様かと」


 あの爺さん、もう少し説明する時間を用意できなかったのだろうか。これでは、本当に厄災を止められるか少し不安になってきたぞ。


「ただ一つだけ確かなことはあります。十六年前に行くものが現れた場合は、必ず案内すること。エルドレーネ様からの神命です。その者なら、必ず厄災を止められる、と」


「それが俺を信用してくれた理由なのか?」


「あなたのことは信用していません。エルドレーネ様からの神命を全うしたまでです」


「……そうですか」


 エルドレーネという神への信頼が半端ないな。まあ、生みの親なんだから当たり前か。


 それにしても、アスト=ウィーザの時もそうだったが、俺への信頼も結構あるみたいだな。


 もしかして、俺をこの世界に呼んだのってエルドレーネっていう神なんじゃないか? 前任者って線もあるかもだが。


 異世界転移した理由はこの問題を解決させること? うーん、わからん。機会があったらまた会おう的なこと言っていた気がするけど、あれ以来会えないままだし。 


「ちょうど良い時間のようですし、早速取り掛かりますが過去への行き方は大丈夫ですか?」


 謎は深まるばかりだが、そろそろ時間のようだ。今は目の前のことに集中しよう。


「えーっと、十六の数字に針が合った瞬間に、文字盤に飛び込めば良いんだよな?」


 そう答えると、エレは首肯し文字盤を拘束している鎖の一部に手を置いた。


「大丈夫だとは思いますが、一応言っておきます。気絶しても介抱はできませんよ? それと鎖を解除していられる時間は短いので、行動できるようなら迅速にお願いします」


 いきなり何を言っているのだろうか。……気絶しても介抱できない? え、文字盤は暴れないんじゃ……。


「覚悟は良いですね。――『リセジョン!』」


 エレが呪文――鎖の解除を示す言葉だろうか――を唱えた瞬間、甲高い音を響かせ鎖が弾け飛んだ。同時にドス黒い煙のようなものが文字盤を中心に吹き出し、エレと俺の体にまとわりつく。


「……は?」


 見るからに体に害を為すであろう黒煙を見て、遅いとは思いつつも鼻を右腕で隠した。そして、こんなことになるなら、事前に説明してくれと文句でも行ってやろうかとエレに視線を移したところ。


「マ、マジかよ……。おい! 大丈夫か?!」


 立ってはいるが、目は虚ろで体が痙攣している。そのあまりに異常な姿から、駆け寄ろうとしたが。


「私に、構わず、……行動、を……はや、く……」


 辛そうな顔をして消え入りそうな言葉で俺への行動を促してきた。はじけ飛んだ鎖も徐々にまた時計盤に絡みつこうとしている。時間がないことを悟った俺は、


「わ、わかった! 色々とサンキューな!」


 時計盤に向かって駆けだし、ちょうど針が十六を指したところだったのでそのままの勢いで盤に飛び込んだ。

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