掛け声
「じゅ、十二つ子?! ……って、見渡した感じ八人しかいないんだが?! 目の前のあんたと気絶してるこの子を足しても十人しかいないぞ。残りの二人はどこにいるんだよ?」
「あなたには関係のないことです。そんなことよりも、今あなたが腕に抱いている私たちの片割れを返してはもらえませんか、侵入者さん?」
目の前の少女が言い終わると、他の八人が腕を伸ばしながらじりじりとこちらを警戒するかのように迫ってきた。
同じ顔でこれだけの人数がいると、それだけでプレッシャーを感じる。無表情にこちらを見てくるものだから余計に。
「まあ、この子を引き取ってくれるのなら、ありがたいけど」
とりあえず、腕に抱いたこの子(そういえば、名前知らないな)を渡そうと近づいた瞬間。
「止まってください」
「……あ?」
「あなたは今、何をしようとしましたか? 私たちに近づこうとしましたね? 止まってください。信用なりません。その子を床に置き、三歩……いいえ、五歩下がってください、この変態」
俺が一歩踏み出すと、扇を描くように一定の距離を保ったまま、練習をしたんじゃないかと思うほどのシンクロでザザーっと八人が同時に後ずさった。
どんだけ警戒されてるんだよ、俺は。というか、侵入者から変態に格下げされているし。
「わ、わかったよ。なにもそこまで警戒しなくても……」
言われた通り、腕に抱いている子を静かに横たわらせ、五歩下がった。
「……いいでしょう。では、お願いします」
俺が静止したのを見計らい、代表の子が口を開いた。
そして、八人がわらわらと横になっている少女に群がり、均等に持ち場についた。
「では、せーのっ! で持ち上げますよ。――せーのっ!」
「「「「「「「「ふにーーーーーーーーっ!」」」」」」」」
どんな掛け声だよっ! 逆に力抜けるわっ!
八人が協力して一人を持ち上げようとしているのに、少ししか持ち上がっていない。床からだいたい寝ている人一人分くらい。
嘘だろ?! どんだけ非力なんだよ!
「ほら、頑張ってください!」
「もう」「無理」「限界」「腕が」「痺れて」「きた」「あなたも」「持って」
「……すごいな、一人一人は単語しか言っていないのに文章として繋がって聞こえる」
口を開いているのは個人個人なのだが、同じ声のためか一人が話しているように聞こえる。タイミングばっちりだ。
「……仕方ありません。私も参加するしかないようですね。あそこにいる変態の監視をしなければいけないのですが、背に腹は代えられません」
散々な言われようだ。別に何もしないってのに。それと、俺は変態じゃない。
「いきますよ。ふにっ!」
あ、その掛け声は一緒なんだ……。それでもわずかに浮き上がった程度で、今のまま移動するのは逆につらそうだ。仕方ない、さっきから警戒されているけど、ここで信用を培っておきますかね。
あ、また無造作に近寄ったら、今度はあの子を落とすかもしれないな。一声かけてからにするか。
「な、なあ!」
「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」
「ぎゅえっ!?」
……声をかけないほうが良かったかもしれない。
俺が声をかけたら全員が体を硬直させ、その拍子に持ち上げていた子を落とした。しかも、後頭部から落下したことで首が一瞬変な方向に曲がった気がする。あれは痛い。
「い、いきなり声をかける人がいますか!?」
「え、なら、どうしろと……」
「あなたはただ黙って見ているだけでいいんですっ!!」
「えー、全然持ち上がっていないようだったから、手伝おうかと思って」
「余計なお世話です!!」
あの光景を目の前で見せられたら、さすがに手伝おうという気持ちになるのだが。
「……ふーっ、……お見苦しいところを見せました」
ヒートアップしていた様子だったが深呼吸をして、冷静になったみたいだ。
「こほん、あなたは一体何者なのですか?」
「え、今それを聞く? 頭を床に打ちつけたその子は?」
「……この子は、後でなんとかします。それよりもあなたの正体です。どうやってここに侵入してきたのですか、変態侵入者さん?」
あの様子を見るに、なんとかできなそうだが。って、変態侵入者ってなんだ!? 合体させるんじゃない!!
「誰が変態侵入者だっ!! 俺の名前はソウイチ。あと、ここには侵入したわけじゃない。ほとんど拉致みたいなものだ。なんでも、この世界の前任者だとかいう存在に導かれたんだよ、言葉では表せないくらいすごいオーラを纏った爺さんに」
語彙力が貧相だが、他に形容できる言葉が思いつかなかった。神様的なオーラ……?
「そうだったんですか……なんて、納得すると思いますか? この世界の前任者様がこんなところにいるわけがないです」
「でも、確かに俺は会ったぞ。白装束に身を包んだ爺さんを! それで十六年前に行って、災厄を止めて欲しいって頼まれた!」
「っ!? 今が……と考えると、その十六年前……。良いでしょう、案内致します」
「はい?」
「案内する、と言ったのです。十六年前に行ける場所まで」
さっきの態度とは打って変わって、いきなり従順になったな。十六年前、というワードに感じるものでもあったのだろうか。
「ついてきてください。それと私の名前は、エレとお呼びください」
なんにせよ、このエレという少女の気が変わらないうちについていくことにしよう。
若干、さっきの子が心配だが……。
「い、痛い」
「大丈夫?」「ごめんね」「いきなり」「手を」「放しちゃって」「痛いの痛いの」「彼方まで」「飛んでけ~」
まあ、後方からそんな声が聞こえてきたし、大丈夫だろう。




