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十二つ子

 この不思議な空間を歩くこと数分、俺はあることに気づいた。


「逆回りで四時になりそうな時計が全然ない。というよりも本来、時計にあるはずのない文字があったんだが……、これはどういうことなの?」


 そう、俺の目の前にある人一人くらいある大きさの時計には、”XIII”の文字が含まれている。日本にあった文字の形と多少の違いはあれど、それが十三という意味を指しているのは理解できた。


 十三時――普通に考えれば午後一時のことだが、その常識は元の世界のもの。ここは日本の常識が通じないらしい。


 つまり、さっき爺さんが言っていた”十六の文字盤”というのは、そのままの意味で捉えろってことか。


「紛らわしい! 俺がこの時計を見つける前に四時ぴったりの時計を見つけていたら、危うく四年前に行っちまうところだったわ! あの爺さん、複雑なことを伝えるときにはもう少し詳しく話せってんだ」


 まあ、俺の発見と閃きで間違いが起こらなかったから良いものの、まったく……。


「はあ、にしても時計の数多すぎだろう。天高くまで積み上がってるものとか、どうやって確認しろと」


 一人で探すのにも飽き……、もとい時間がかかりすぎてしまうと感じた瞬間、ため息が出てしまった。


 そもそもここで経過した時間は、元々いた世界の時間にも反映されてしまうのだろうか。だとしたら、みんなには俺が神隠しにあってると心配されかねないな。転移の魔法がどういうものかは知らないが時間のラグが起きると仮定しても、さすがにかかりすぎだと思うし。


 それにしても神隠し、か……本物の神様だろう爺さんに隠されている状況だから、あながち間違ってはいないだろうが。自分で言っておいてなんだが、うまいことを言った気がする。


 ぷぷぷ、と心の中で一人笑っていたら、グイっといきなり腕が引っ張られた。


 何事かと思い振り返ってみると、そこには淡い緑色の髪を三つ編みにして、眼鏡をかけている女性がいた。白いワンピースのような服の裾を、俺の腕を掴んでいる逆の手でぎゅっと握りしめ、涙目でふるふると震えながら、こちらを睨んでいる。


「えっと、どちら様で? それになぜ、俺のことをそんなに睨んでいるんですか?」


「むきーーーーーーっ!」


 どなたかと問うてみれば、顔を赤くさせ「私大変お怒りです」を擬音語で表現してくれた。


 声に出して、そんな擬音上げるやつ初めて見たぞ。あ、もしかして、


「あ、眼鏡の度が合ってない、とか? だから、目を細めて睨んでいるように見えてしまったんですね」


「きーーーーーーっ!!」


 違ったようだ。動物が威嚇をしているみたいな感じになってしまった。


「違うわよ!! 私が話掛けているというのに、無視しまくっていたせいよ!! この侵入者!!」


「……侵入者? もしかして、それは俺のこと?」


「そうよ! あなた以外に誰がいるのよ! この空間にはね、神様と私たちしか出入りはできないのよ! それなのに、何の関係もないあなたがここにいる! それを侵入者と言わずして何て言うのよ! ぜぇ……ぜぇ……」


 息も絶え絶えに三つ編みをぶんぶん振り回しながらそんな言葉を吐く、淡い緑髪の少女。無理をして大声を発していたのか、さっきまで赤かった顔がみるみるうちに青くなっていく。


「お、おい、大丈夫か? 叫んだだけでそんなに苦しそうってことは、普段からそんなに大きな声出してないんだろ? 無理するなって」


「誰のせいよ!! ……げほっげほっ」


「わ、悪かったよ。無視していた件は謝るから、許してくれ。って、おい! 大丈夫かよ?!」


「……ひゅー……ひゅー」


 顔を真っ青にしながら、崩れ落ちていく体を寸でのところで抱きとめることに成功した。


 あ、柔らかい。じゃなくて! 


「どんな虚弱体質だよ。大声を出すだけで貧血みたいな症状になるなんて。おい、大丈夫か? 意識はあるか?」


「きゅ~……」


「駄目だ。気絶してる。どうすればいいんだ、この状況。こんな固い床に寝せるのも可哀想だが」


 いきなり現れたかと思ったら、大声出して気絶しやがった。新手の警報機か。


 でも、気になることを言っていたな。俺のことを侵入者と……。


「さっきの爺さんがここに俺を導いたのに、こいつは事情を何も知らないのか? いや、そもそも俺が勘違いしているだけで、爺さんが神様でもなんでもない可能性も……。だが、前任者って言ってたし、この空間には神様とこいつしか入れないって」


 あれ、今の言葉に引っ掛かりを覚えた。さっきの会話を思い出してみると、


「そうだ、私”たち”って――」


「何者ですか?」


「うわぁ!!」


 あ、危うく抱きかかえているこの少女を放物線運動させるところだったぜ。本当にこの世界のやつらは、後ろから声をかけてくるのが得意だな。


「あ、あんたこそ、何……者……」


「――何です?」


 今、話しかけてきた少女と抱きかかえている少女を交互に見つめる。


 淡い緑色の髪を三つ編みにし、眼鏡をかけている顔が二つ。二人の身長はほぼ変わらないだろう、俺よりも頭一つくらい下だ。


「双子?」


「いいえ、私たちは――」


 耳を澄ますと、コツコツとこの固い床を叩く音が聞こえる。それは、こちらに集まってくる足音のようで、一つや二つではなく無数に聞こえた。


 そして、前後左右、時計の中からも姿を現した女性たちが、


「「「「「「「「侵入者ですか?」」」」」」」」


 全員が同じ声で、同じ言葉を同じタイミングで発した。


「私たちは十二つ子です」

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