ギャル魔王
また、濃そうなキャラが来たな。
ヴァラールのキャラも大概だが、この世界でギャルって……。
緩く締めたネクタイに上着だろうセーターを腰に巻いたスタイル。そして、ルーズソックス。暗い感じの銀髪なのを除けば、どこからどう見ても女子高生ギャルだ。
「つーか、あんたがソウイチ?」
「お、おう!?」
ギャルの観察をしていたら、いつの間にかズイっと近くまで寄られてしまっていた。いつ移動したのか不思議に思うも、値踏みするかのような視線にそんな疑問は消え去った。
至近距離からジロジロと見られ、どこかこそばゆさを感じていたら、
「……ふーん、ぱっとしない顔」
「なっ?!」
心にグサっとくる言葉を浴びせられた。一言で切って捨てられた感がある。
「ちょ、いくらなんでも初対面の相手に……」
「つーか、いつまで寝てるつもりかっての! 秒で起きる!」
俺の抗議は華麗にスルーされ、またもや一瞬で移動したギャルがタンスの引き出しを脳天にクリーンヒットさせられ、床にうずくまっていたヴァラールの腹を蹴り上げた。
「ほぐぉっ!!」
ドスっという音とともに体がくの字(……この場合はへの字か)に折り曲げられるレベルの強烈な蹴りだった。
すごく痛そう。いや、そもそもいつ移動したんだ? まったく目で追えなかったんだが。
「ま、魔王様。さすがの我でも今の蹴りは痛いのである。もう少し加減を……」
「うっさい! 一人で調子こいてるあんたが悪いっつの!」
ヴァラールがギャルを呼んだ時に魔王と言っていた。やっぱり、このギャルも転移者ということなのか。
「なあ、あんたらは魔王とその幹部ってことでいいのか?」
「当――」
「今までの会話を聞いていれば、それくらい理解できるであろう? 頭が悪くなければ……ぐぇっ!?」
「人の言葉を遮るなし! あたしが話しかけられていることくらい、理解しろっての!」
ギャル魔王に問いかけたところ、それを遮るようにヴァラールが答えたため、ギャル魔王から鉄拳制裁を食らっていた。
なんというボケとツッコミ。この人たち漫才をしに来たんじゃないだろうな。
「ったく、魔王って言っても他の連中がそう呼んでるだけで、あたしらは魔法とか使えないからね。それに王でもなんでもねーし」
そういえば、西の魔王さんもそんなこと言っていたな。……あれ、そういえばこの人たちって相当昔に転移したきたんじゃなかったっけ。にもかかわらず、ずっとギャルの格好をしているのは――。
「今、なんか失礼なこと考えてなかった?」
「……いや、なんでもないです」
急に素の声を出すのはやめていただきたい。明るくふざけた感じから一転、底冷えするかのような声で一瞬誰が発したのかわからなかったぞ。
年齢のことを考えるのは、もうやめよう。
「もう、話を戻すよ? 今からあんたをあたしの能力で”西”がいる家まで送る。そしたら、あんたの仲間たちがいるから合流して、そこで修行してもらうから」
しゅ、修行?! まさかの少年漫画展開!!
「……は? え、修行? なんで? いや、それよりも西って。あの魔王さんのこと?」
「質問が多いっつの! 良い? 今のあんたらじゃ足手まといなわけ。天使もどきと戦ったならわかるっしょ? あたしら的には、あの天使もどき一人とあんたらが互角に戦えるようになってもらわなくちゃ困るの。あと、”西”のから聞いてると思うけど、あたしらは名前がない。だからお互いを適当に呼び合ってるわけ。あたしは、”北”」
名前が無いのは知っていたが、そんな風にお互いを呼び合っているのか。いや、待て待て。今天使もどきって言ったか? まさか、ロセルのことなのか?
「天使もどきって……?」
「はぁ? 実際に――」
「お主の脳みそは筋肉でできているのか? 天使もどきは……ごっふぉぇ!!」
「だから、あたしの言葉を遮るなっての!」
また、タンスの引き出しが頭上に出現し、ヴァラールの脳天に直撃した。この男は、どうやら学習しないらしい。
「んで、天使もどきのことだけど、戦ったっしょ? 背中から一対の翼を生やしたやつ。あいつらのこと。本物の天使から加護みたいなものを授かってなってるだけだから、”もどき”って呼称してんの」
「本物の天使……。強さ的にはやっぱり本物の方が強いのか?」
「だんち!」
なるほど、段違いなのか。
「天使は神を創造したときに生まれるものだと思っていたけど、加護みたいなものでもなれるのか。一人一人に対応する神がいるのかと思ってた」
「んなわけねーっつの。この世界は不安定なのに、さらに神が増えたらそれこそ世界崩壊なんてことにもなりかねないし」
考えてみれば、現在この世界で封印されている神は一柱だけだ。他にもいたら、封印されているだろうしな。……うん? まただ。なんで俺はこの世界で封印されている神が一柱だけ、なんて断言できるんだ? ……どうにも頭の中がスッキリしないような。
「さ、説明は終わりにして。さっさと移動させるよ。あたしだって暇じゃないんだから。ほら起きる!」
「ひぎぃ!!」
「え、ちょっと待った! 最後に一つ聞かせてくれ」
話を終わりにし、俺を移動させようとするギャル魔王さんに対して待ったをかける。またもや、ヴァラールが蹴られていたようだが、無視する。
「なに?」
「ギャル魔王さんは――」
「変な呼び方するなっての! ”北”のとかでいいから」
変な呼び方なのだろうか。的を得た良い名前だと思うのだが。
「……”北”のさんは、元の世界に帰りたいと思ってるのか?」
「当たり前。そのために行動しているんだから」
「そのためには人を殺すのも仕方がない、と考えているのか?」
「……必要なら、ね。はい、じゃ移動するよ。ヴァラール」
「……承知!」
「え、ちょ――」
パンパンと手を打ち合わせ話を区切ると、魔王さんが能力を使ったらしく俺の意識はブラックアウトした。




