おっさん、再び
なんて、現実逃避しても現状は変わらずアルマの部屋でぼっち。
魔王さんが今の現状と敵のことについて説明するらしいから、アルミラたちが害されることはまずない。アルマもいるし、その点は心配していない。
転移の魔法を使ったのも、きっとこの場所から魔王城まで遠く離れているからが理由だろう。もしくは普通の移動方法では行けない場所、とか。
さて、問題だ。……俺は、どういう方法で魔王城まで行けばいいんだろう?
俺には魔法が効かないから、転移の魔法ではいけない。場所を聞こうにも、案内役の人はさっきみんなと一緒に転移してしまった。そもそも普通の方法で行けるか怪しい。
「ふむ……」
前に魔王さんと会ったときは、この部屋に等身大の鏡があった。その鏡は、魔王城に行き来できる魔道具なのだが、今はそれがない。
はっきり言って何もしようがない。
だから、今から行う行動は仕方がないことなんだ。
「そう、何か手掛かりを探す。魔王城に行ける方法の手掛かりを。そのために必要な行為なんだ。決して下心があるわけではない」
そう自分に言い聞かせ、部屋に置いてあるタンスに歩み寄った。
アルマは大事な仲間だ。でも、状況が状況だ。少しでもいいから魔王城に関する情報が欲しい。だから、この部屋に置いてあるものは隈なく探す。仕方がないことなんだ。ひょっとすると魔王城に行ける魔道具とか出てくるかもしれないからな。それに探す場所的にベッドの下かタンスの中くらいしかない。そう仕方がない。説明されてないんだから、至極当然の行為だ。
……やっべ、ドキドキしてきた!
「いざ!」
タンスの取っ手に手をかけ、中身を確認するべく一気に引き出した。
「……」
中身は、空だった。三段全部が空。
いや、そうだろうなとは思っていた。本当に思っていたさ。
でも、少しくらい……!!
「貴様は何をしているのだ?」
「うへぇい?!」
タンスの中にお目当てのものがなく、一人落胆して地面に手をついていたら、いつの間にか人が入ってきていたようだ。声を掛けられた拍子に飛び上がり、奇声を発してしまった。
これは傍から見たら、下着泥棒に間違われてしまう!
つーっと頬に嫌な汗が流れた。
「い、いや、これは、ですね……」
バッと顔を上げ、即座に釈明しようと言葉を続けようとしたら、どこかで見た気がする顔の男性が開け放たれている窓の横に呆れた顔をして立っていた。
銀髪の髪にミリカとは違う感じの赤い瞳が特徴的で、黒のスーツっぽいものを着ていた。何よりも目を引くのが頭部から左右に突き出ているねじれた角だ。異世界なんだから、そんな種族もいるだろうと思うがどことなく嘘くさい。なんというか、作り物っぽいのだ。
総じてなんか、魔王のコスプレっぽい。
「……通りすがりの魔王、ですか?」
「我は魔王様ではない!」
うん、これまでに会ってきた中で、我という呼称を使っているのを俺は一人しか知らない。忘れようとしても忘れられない記憶を俺に残した。そう、その人物とは――。
「あの森で出合い頭に魔法をぶっ放そうとして失敗し、肉弾戦を仕掛けてきた割にあっけなく俺に吹っ飛ばされたおっさん」
「おっさんではない!! 我にはきちんと、ヴァラールという名前があるのだ!! それとあれは、我が油断していただけだ!! 今なら、貴様ごとき一瞬で葬ってくれる!!」
俺の説明に突っ込みを入れ、大きな声で怒鳴り散らすヴァラール。
隣の部屋にまで聞こえていそうな声は、もう少し抑えたほうが良いと思う。
「はあ、それでヴァラールさんが何の用ですか? まさか、あの時のリベンジに来たんですか? すいません、今は付き合っている暇はないんです」
「違うわ!! 魔王様から貴様を招待するようにと言われ、ここまで来たのだ。なんでも貴様には魔法が効かんらしいからな。だからこそ、我が来たのだ」
魔王さんから俺を招待するように? ということは、このおっさんは魔王関係者というか幹部だったりするのだろうか。
うーん、他の幹部と比較すると恰好はそれっぽいこともないが、いまいち見劣りしてしまう。幹部というオーラが無いうえに、やっぱり最初の印象のせいだろうな。頭のおかしいおっさんとしか思えなかったし。服もただのコスプレとしか。
しかし、このおっさんと魔王城まで一緒に行くことになるのか。……おっさんと二人旅。
「む、なんだ、その嫌そうな顔は。我が直々に案内してやろうというのだ。感謝の言葉くらい言ったらどうだ?」
「……ありがとうございます」
「うむうむ、もっと感謝するがよいぞ」
気持ちをあまり込めていない感謝の言葉に腕組みをして、うんうんと満足そうに頷いている。
この人、結構扱いやすそうだな。
と、心の中で思っていると、突然ヴァラールの頭の上にタンスの引き出しが出現した。
「……は?」
そして、重力に従って落下し、
「ふごぅ!?」
見事にヴァラールの脳天にクリーンヒット。
たまらずその場に崩れるようにして倒れこんだヴァラールに、今度は扉側から声が掛けられた。
「まったく、さっきから話聞いてると、一人で来たみたいな言い方して。あたしだって、いるっつの! てか、面識あるなら先に話せっての! そもそも、能力的にはあたしが主だろうが!」
顔を向けると、そこには銀髪の髪をカールさせたギャルっぽい女が扉を背に不機嫌そうに立っていた。




