暗器
状況を整理してみよう。
敵であるロセルは魔法を無効化できる完全な天使化というのをしている状態らしい。その言葉が真実なら、魔術師の天敵だ。
俺たちのパーティー構成は、四人中三人が魔術師。数的有利のはずがその特性だけでひっくり返されてしまった。
それだけでも厄介なのだが、さらに怪力というおまけ付き。俺たちの攻撃は効かないのに相手の攻撃は一撃でも受ければ致命傷。唯一相手の攻撃を受けても耐えれそうなのは俺だけだが、有効打がない。
バーテルの時だって易々と拳が受け止められていたことを考えると、俺の力はあまり効かない気がする。
あれ、この状況詰んでないか?
みんなに目配せしてみたが、だれの顔も芳しくない。
「そろそろ理解した? あなたたちはここで終わりということが」
「……それはどうでしょうか」
「強がりはいい。私からすればあなたたちは雑魚同然。それは魔王の幹部であるあなたも例外ではない。唯一警戒すべき相手は、そこにいる男くらいだったけど聞いていた話よりも弱すぎる。さっきの一撃で理解した」
良い作戦が思いつかない。体調不良のクラリッサさんを置いて逃げることはできないし、やはり無力化または撃退するしかない。
バーテルの時と違って会話が成立するのが救いか。
……待てよ、会話ができる? これだ! これしか突破口はない! 俺の巧みな話術で切り抜けるしか!
「なあ、取引しないか?」
「しない。そちらが魔法を使わないというのであれば、もう待つ必要はない。さっさと殺す」
一蹴されてしまった。さらに容赦の無い発言まで出る始末。
ロセルが地面に降り立ち、体勢を変えたところでもう考えている暇はないことを悟った俺は――。
「ミリカ! 王都で使った魔法を撃ってくれ!! 後のことはなんとかする!!」
「わかりました! フレア・テンペスト・デトネーション!」
俺の言葉に疑問を持つことなく、ミリカが間髪入れずバーテルに効いた爆発の魔法を唱えた。その結果、周囲に爆風が吹き荒れ……ることはなく、
「そ、そんな……。確かに魔力は消費したはずです。それなのに魔法自体が発動する前に掻き消されました。これでは、まるで……」
「これで理解できた? 私に魔法は意味をなさない」
ミリカの目は完全に黒になっていた。自慢の魔法が効果を発揮する前に無効化され、魔力も空になってしまったことで不安になっているのだろう。その証拠にちらちらと俺の方に視線を向けてくる。
すまん。任せとけと言っておきながら、ここからは完全にアドリブなんだ。頼りにしてくれるのは嬉しいが応えられそうにない。
「アイスランス!」
ミリカの魔法が不発に終わった瞬間、アルミラが即座に魔法を唱えたが。
「無駄」
一本の氷の槍がロセル目掛けて飛んで行き、切っ先が当たる寸前に砕け散った。
翼で防御をするでもなく、避けることもしない。天使化による魔法無効という特性に絶対の自信があるからこその余裕。
どうすればいい。何かないか……!?
「まずはあなたから殺してあげる。大丈夫、痛みは一瞬」
アルミラに狙いを定めたロセルが少し浮いた状態で突進してきた。あの突進を受けたら、普通の人間は無事では済まないだろう。
「させるか!!」
だからこそ、俺は間に割り込みその突進を受け止めようとした。向こうもそれは予想していたようで、片手を腰の位置に引き完全に殴る体勢をとっている。
殴り飛ばされたらアウト。そのまま直進されてアルミラが危険だ。最善は拳をいなし、そのまま拘束または行動を阻害できるようにすること。
「邪魔です」
相手の拳の位置的に、俺の腹目掛けて振るってくることが予想できた。一番面積が大きく当てやすい、かつ躱しにくい箇所を狙ってくるあたり相手も俺を吹き飛ばすのが狙いだろう。
「なっ!? ぶっ!!」
だったら、殴られる前に止めてしまえばいい。前傾姿勢で飛んできている相手の顎目掛けて右手を突き出した。
「ぐっ、なんて衝撃だ!!」
リーチ的に相手の拳が届く前に俺の手の方が速く届く。ただ、ぶつかったときの衝撃が強く、右手が痺れてしまった。
「小賢しい真似を!!」
温厚そうな見た目から一変。俺に突進を止められたのが癪に障ったらしい。特に女性の顔に張り手をかましたのは、相手のボルテージを上げるのに一役買ったみたいだ。
……ちょっと怖い。さすがは兄妹、よく似ている。
突進を止めることに成功した俺は、相手が怒りに顔を歪ませている隙に左手にあるものをロセルの肩に突き刺した。
「……っ!? これは暗器!? くっ、離れろ!!」
「がはっ!!」
グレースさんから買っていた暗器がこんなところで役に立つとは思っていなかった。
いくら頑丈な体とはいえ、同程度の力による刺突は効いたみたいだ。しかし、刺した瞬間に蹴り飛ばされてしまった。
まずい、このままではアルミラが!!
焦った俺は腹部の痛みを堪え、急いでアルミラの前に走ったのだが。
「う、これは……!?」
ロセルの様子がおかしい。
肩に刺さりっぱなしになっていた暗器は容易に引き抜かれ、川へと捨てられた。そこまで深く刺さりはしなかったから、血の滲みが少ない。
行動を阻害できるほどの有効打を与えられなかった。と、思っていたのだが一応効果はあったらしい。
すぐに攻撃に移らず、その場から動かないでいるロセルを観察していると、
「……麻痺毒。まさか、人間から天使化した際の弱点を知っていた……?」
暗器を使用した本人も知らない情報が出てきた。
……あの暗器、毒が塗られていたのかよ。買わせるときに説明くらいしておいてほしかった。俺が触れて怪我していたら、どうするんだ。
「いや、ありえない。でも、おかしい。今の私は並大抵の毒程度平気のはず。なぜ……?」
「それは私の魔道具の効果です。あなたたちの弱点は知ってますから。事前にサーチの魔法でみなさんの持ち物を調べておいて正解でした。あとはどうやってあなたに気づかれず、ソウイチに伝えようかと悩んでいたんです。が、どうやら杞憂だったみたいですね」
「……そういえば、西の魔王の幹部には毒を扱うのに長けた人物がいるという情報があった。その魔道具はそいつと連携するためか」
ほっと安心しているアルマとは対照的にロセルが悔し気に呟いていた。




