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困難

 誰だ、今回は楽勝なんて考えていたのは! 滅茶苦茶やばそうじゃないか!


「魔法が通用しない? 本当にそうかしらね。うちのソウイチは変な体質を持っているから魔法は効かないみたいだけど、そうそうこんな人間がいるとは思えないんだけど?」


 少々言い方が気になるけどこの際それは置いておくとして、魔法が通用しないという言葉はブラフの可能性がある。現に半天使状態だったとはいえ、バーテルには通用した。

 

 アルミラの指摘はごもっともだ。


「なら、使ってみたらいい。無駄な魔力を消費するだけの結果に終わると思うけれど、動かないでいてあげるから。そして、先に言っておく。私の力はそこにいる男と同じくらいある。つまり、私が本気で殴った場合、あなたたちは一撃で死ぬ。その証拠に」


 パアーンという音とともに、ロセルの周囲にいた三体のゴーレムが粉々に砕け散った。


 アルマお手製のゴーレムは、操られていた状態だとしてもSランク冒険者という強者を簡単に無力化させられるだけの力があった。強度だって人間よりも硬く、相当なものだったはずだ。


 にもかかわらず、ただの腹パンのみで粉々にしたあの威力。


 ……俺、よく無事だったな。


 手加減されていたのかもしれないが、いまさらになってぞっとした。


 いくら動いてないからといっても、人間の形であり硬度はそれ以上のものをああも楽々壊せる姿を見せられてしまうと恐怖を感じる。しかも拳を振るう際のスピードも相当だった。


 ロセルが三体のゴーレムに囲われるような場所にいたのは、このデモンストレーションを行うためだったんだな。


 さて、この状況どうしよう……。


 ロセル本人も言っている通り、力が拮抗しているのなら、みんなが逃げる時間くらいは稼げる、か?


「タイム!」


「たい……む……?」


「一度、作戦会議をさせてくれってことだ。魔法を撃たせてくれる猶予を設けてくれるんだろう? なら、どの魔法を使うかみんなと話し合いさせてほしい。それくらいの時間はあるんだろう?」


「好きにするといい。けど、逃げる素振りを少しでも見せたら、その瞬間にあなたたちを殺す。死ぬまでの時間が少し伸びるだけ。最後に仲間に言っておきたいことがあるなら、今のうちに伝えておくといい。私はとても優しいから」


「……それはどうも」


 優しいなら、命を見逃してくれても良いと思うんですけど。


 ロセルから意識は外さないようにし、みんなと話し合うため、口を開く。


「ミリカ、バーテルに撃った時の魔法って使えるか?」


 あの爆発する魔法は半天使状態だったバーテルに効いていた。ならばロセルにも効くんじゃないか、と思って質問してみたんだが。


「使えはしますが、今日はあと一発しか魔法が使えません。バーテルを倒した時のように二発分は無理です。完全な天使化というのがどんな状態なのかはわかりませんが、少なくとも二発以上は必要になるんじゃないですか?」


 厳しい答えが返ってきた。


 ミリカの目を見てみると、もうほとんど黒になりかけている。


「……参考までに、あの魔法を二人は使えたりする?」


 バーテルと戦った時のことはその時にいなかった二人にも話してあるので、どんな魔法を使ったのかは知っている。


「ソウイチの言いたいことはわかったわ。けど、私じゃ無理よ。ミリカが王都で使った魔法は炎系統の最上級に位置している魔法なの。とてもではないけど、私じゃ扱えない」


「すいません、私も余力が残ってません。ゴーレムに魔力を費やしてしまったせいで、最上級魔法は撃てそうにないです」


 申し訳なさそうに言う二人に強く言うことはできない。第一、撃てたとしても効かない可能性がある。

 

 なら、俺がなんとかしないとな。相手が女だからって手加減していると、こちらの身が危うい。


「……よし、作戦を考えた。みんな聞いてくれ」


 俺の言葉をみんなが静かに聞いてくれている。


 だからこそ、相手にも伝わるように声を大にして言った。


「まず、ミリカがバーテルを倒した時に使用した魔法をロセルに放つ。次に俺が橋を渡り、ロセルに殴りかかる。と同時にアルミラとアルマでこの橋を落としてくれ」


「ちょ、ちょっと待って! そんな作戦受け入れられないわ。橋を落としたら、ソウイチは……」


「俺のことは構わなくて良い。みんなが逃げ切れるだけの時間は稼いでみせるから」


 アルミラだけでなく、ミリカとアルマ、クラリッサさんまでもが俺を制止してくる。無謀なことはやめろ、と。


 俺は死ぬかもしれない。でも、みんなを守れれば……! いや、でも一人で戦うのは心細いな。いやいや、魔術師の天敵相手にアルミラたちをぶつけるわけには……! しかし、さっき殴られたときは痛かったなぁ。だけど、ロセルの一撃に耐えられるのは俺くらいだろうし。


 仕方ない。俺だって、できる男の部分を見せなければ!


 そんな風に覚悟を決めたときだった。


 ふわっ、だろうか。そんな擬音が聞こえた気がした。


「言い忘れてましたが短時間なら飛行はできるんですよ、私。ですので、橋を落としたところで無意味だと思いますが」


 見ると、ロセルが地面から浮いていた。


「……まあ、天使っていうくらいだから飛べるよな。伊達に翼は生やしてないってことか。それにしても、わざわざ教えてくれるなんて親切すぎじゃないのか?」


「これくらいの情報を教えても、なにも問題ないと判断しただけ」


「そうかい」


 さっきの作戦は一から練り直さないといけないが、危ない橋を渡ることがなくなってほっと安心してしまった。


 やっぱり、誰かが犠牲になるのは良くないな。全員で乗り切ってこその困難だ。

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