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解説クラリッサ

 生身の人間相手に俺の全力をぶちかますとスプラッタな光景になる。だから、できるだけ力を抜いて、意識をこちらに向ける程度に抑えたはずだったのだがそれでも俺の力は強すぎたらしい。


 横っ面を俺に張り飛ばされたディアナは勢いよく手摺まで吹き飛び、白目を向いて気絶していた。


 もう少し手加減しておいた方が良かったかな。美人顔(男だけど)なせいで、ギャップがひどくて見れたものじゃない。


「え、いつの間にこんな距離まで近づいて?」


 アルマたちは突然のことに目を丸くして、吹き飛ばされたディアナの方を見ている。何が起きたのか理解できていないようだ。


 かくいう俺も現状をまったく理解していない。


 ただ、アルマの身に危険が迫っていると感じたから張り手をかましただけだ。


 悲惨な顔になっているディアナを全員で見ている中、「噂程度の信憑性だけど」と顎に手を当てて考え込んでいたクラリッサさんが口を開いた。


「ある有名な暗殺者は本物と見分けのつかない幻影を相手に見せることができる、と聞いたことがある。しかも、フェロモンを自在に操ることのできる獣人で男を誑かす魔性の女だとか。暗器を自在に使いこなす最強の殺し屋だとか。その瞳に睨まれただけで死に至るとか。そんな話を裏の世界に住んでいる友人に聞いた。ただ、あまりにも目撃者がいなさすぎて情報がなかったから、今の今まで気づけなかった」


 すっかり解説役として定着したクラリッサさんからの情報により、ディアナが何をしていたのかが理解できた。


 みんながおかしくなっていたのは、幻覚を見せられていたせいだったということだ。


 それにしても、魔性の女だとか、最強の殺し屋だとか、誇張しすぎな気もするな。……まあ、わからなくもないんだけど。さすがに睨まれただけで死ぬとかは冗談だろうが。


「この魔力の感じはそういうことでしたか。私たちは幻を見せられていたというわけですね。見分けられなかったなんて不覚です。ソウイチ、ありがとうございました。前衛で戦ってきたソウイチだからこそ、敵の動きに違和感を?」


「……ああ、うん、そうね。そういうことにしておいて」


 まさか、まったく幻を見ていませんでしたなんて言えなかった俺は言葉を濁した。多分、言ったら「気づいていたならさっさと教えなさい!」と怒られていただろう。


「幻影を見破るには相当の実力と知識が必要となる。相手が手練れならなおさら。それを見破れるのはすごいこと。もう少し、自信を持ってもいいと思う」


「……はあ、ありがとうございます」


 クラリッサさんからにこやかな顔で褒められ、若干の後ろめたさを感じつつも一応お礼を言った。


 幻影に関する知識とか皆無なんだけどね。


 ……あれ、ならなんで俺にはディアナの幻が見えていなかったのだろう。フェロモンが効いていなかったのと何か関係があるのか?


「見直したわ、敵の幻影を見破るなんてやるじゃない。周辺の魔力の流れが複雑になっていて気づけなかったわ。私たちに言わなかったのは、敵の油断を誘うためね?」


「まあ、そんなところかな」


 伝えようとはしていたんだけどね。あと、別に見破ったわけじゃなく最初から見えてなかっただけなんだけど、これは言わなくてもいいか。


「何はともあれ、これで解決したってことでいいのかしら? 急いできたけど、特にやることはなかったわね」


「私の出番は後であるとか言ってましたけど、ソウイチが全部持って行ってしまいましたね。とても残念です」


「一時はどうなることかと思っていたけど、被害なく終わってよかった」


 ……あちゃー、これは完全なフラグだ。


 アルミラ、ミリカ、クラリッサさんの三人はため息を一つ、完全に事が終わったと思って脱力している。敵はディアナだけだと思っているからだろう。


 だが残念なことに、まだ妹が残っているんだよな。


「みなさん、落ち着くのはまだ早いですよ。本番はこれからみたいです」


 アルマがディアナと対峙していた時よりも、余裕の無い顔で忠告を促した。注視しているのは橋の向こう側で生い茂っている木々。

 

 アルマの言葉に続き、俺が妹の存在を伝えようとするよりも先に、


「デュアルマジック――ハウウェツヤー、リプレイスメント!」


 瞬間、気絶していたディアナが忽然と消え、代わりに白く輝いている球体が現れた。大きさはだいたいバスケットボールくらい。


 これは何、と聞く間すらなく、


「アブソリュート・プリヴェント!」


 ミリカが焦りと共に早口で魔法を唱え、俺以外のみんなの体を覆うように透明な膜が形成された。それはいつぞやにも見た防護結界という身を守るための魔法。


 え、俺には?!


 なんて突っ込みを入れる前に白い球体は輝きを増し、直視できないほどの光量となった。嫌な予感がしつつも目を開けていられなくなった俺は腕で顔を覆い、来るであろう衝撃に備えた。


 防護魔法を使うくらいだ。さぞ、凄まじい衝撃が襲ってくるのかと思っていたのだが……。


「……あれ?」


 そんな俺の思いとは裏腹に、光が収まっても周囲の状況に変化はなかった。変わった点といえば、ディアナがいなくなったくらいだ。


 一体、何が起こったんだ。


「……やっぱり、魔法が通用しない」


 声の聞こえたほうに顔を向けると、ディアナの妹ロセルが無表情のまま三体のゴーレムたちの間に悠然と立っていた。

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