疑問
「でも、俺の言い分も聞いてほしい」
勢いよく頭を下げ、謝罪の言葉を大きな声で言ったわけだが、今回ばかりは俺にだって言い分がある。
「確かに操られている状態を演じていたけど、これはディアナを油断させて不意打ちをするためであって、決して故意にやったことじゃない。それにアルミラとミリカは教会で話した時に操られていれば即座に看破できると言っていたじゃないか」
「そ、それは、その……焦っていたというか、慌てていたというか」
下げた時と同じ速度で面を上げ、毅然とした態度でそう告げたのだが、アルミラは口を尖らせていた。
「だいたいわかりやすいように合図を送っていたのに、気づかなかったそっちにも非はあるはずだ」
「え、合図?」
「こう片目を瞑ったり、口パクしたりして必死で合図を送っていたじゃないか。それなのに気持ち悪いだとか、不気味だとか言いたい放題言いやがって。悲しくなったんだぞ!」
「そんなこと言ってもあんな奇怪な行動を取っていたら、みんなそう感じますよ! 実際、少し気持ち悪かったんですから!」
な、なにおう! こっちだって必死だったというのに!
あんまりな言葉を言うミリカに詰め寄り、今回ばかりは俺のせいだけじゃないと言ってやった。
俺の言葉にミリカが文句を言い、返す言葉でさらに……とヒートアップしていたら、
「もういいかしら? お別れの挨拶は済ませた?」
「「もう少し待ってくれ(ください)!!」
呆れた感じでディアナが問いかけてきた。
戦闘中なのは重々承知しているが、ミリカとは一度白黒つける必要がある。この場で言いたいことはまだあるのだ。
「二人とも喧嘩は後でしてください! 今は目の前の敵に集中しましょう!」
とはいえ、時と場所は弁えないとな。
普段温和で優しい人が怒鳴ったりすると超怖かったりするが、今回はアルマの剣幕にビビったわけじゃない。この場の空気を読んだだけだ。
「「……はい」」
ミリカも渋々頷いていた。
「では、先手必勝です!」
俺たちの返事を聞いたアルマが三体のゴーレムたちに突撃の命令を下した。橋の上を猛スピードで駆けていく様は、さながら弾丸のようだ。
確かに相手はSランク冒険者を操れるほどのフェロモンの使い手だろう。けど、ディアナのフェロモンは同性にしか効かない。そして、同性の俺に効かないことは証明済みで他の男たちは気絶中。ならば、この場で操られて敵が増えるなんていう心配はないはずだ。妹もいるにはいるが、アルマは知らないはず。
それなのに、アルマの顔が緊張で強張っている気がするのはなぜなのだろう。
実は、俺みたいに身体能力が凄まじかったりするのか?
疑問に思っていると、すぐにその答えは俺の目の前で展開された。
「!? そ、そんな、あんな動きができるなんておかしいわ!!」
「あの猛攻を軽やかに躱すなんて、あの人は一体何者なんですか?!」
「……くっ」
ゴーレムの一体が拳を放ち、もう一体が相対した状態で蹴りを放つ。さらにもう一体が拳と蹴りの間を縫うように突進をしていた。
「あらあら、どうしたのかしら? 威勢の割に大したことないのね」
「あの動きはソウイチに匹敵するんじゃないの?! しかもあの体の柔軟性は異常だわ!!」
「え、援護をしたいんですけど、速すぎて当てる自信が……」
戸惑っている様子のアルミラとミリカを見ながら、ディアナが不敵な笑みを浮かべている。
……えーっと、一体?
「な、なあ、アルマは何してるんだ?」
「何って……。見てわからないの!?」
わからないから、聞いているんだけど。そんな本物の馬鹿を見るような目はやめてほしい。
「ゴーレムの制御というのは大変難しいと聞きます。そのゴーレムを三体も制御できているのは、アルマの力が凄まじい証拠です。ですが、あの速度で動かすには相当の集中力を要するはず。だから、無言になって制御に集中しているのでしょう」
いや、ゴーレムの制御をしているのは見てればわかる。俺が聞きたいのはそれではなくて。
「あーはっはっは。どうしたのかしら? その程度の実力なの?」
「……話には聞いていましたが、これが恩恵の力ということなんでしょうか」
戦慄したように呟くアルマに一つ質問したい。
――何と戦っているんだ、と。
周囲の様子を見るとみんな真剣でふざけている様子はないのだが。
何故、アルマは三体のゴーレムで演舞をしているのだろうか。
ディアナに攻撃をしたいのなら、もう少し手前に移動したほうが良いと思うんだ。
「……な、なあ」
「ソウイチ、アルマの集中を乱さないで」
アルマに隣まで近づき話しかけようとしたら、アルミラから注意をされてしまった。
どうすればいいんだよ。
最初はディアナ目掛けて走っていったゴーレムに続き、俺も加勢しようとしていた。しかし、ディアナの横を通り抜け、奥で演舞を始めてしまったせいで頭の中は疑問符だらけだ。
誰か、俺にこの状況の説明をしてくれ。
「さて、もういいかしらね。こちらからも攻撃させてもらうわよ」
「できるものなら、やってみてください。さっきから避けてばっかりではないですか。攻撃する余裕がないのでは?」
うーん、俺にはただ突っ立っているだけにしか見えないんだが。
「うふふ。さあ、どうかしらね」
こちらにゆっくりとディアナが歩きだした。その姿はそこらへんを散歩しているような気軽さで悠々と橋を渡っている。まったくの無警戒だ。
ゴーレムたちはいまだに演舞を繰り返しており、一体も応対する素振りを見せないし、アルミラとミリカも魔法を放とうとしない。
――もう意味がわからない。
「一撃で体を壊してあげる。これでも人体には詳しいのよ?」
「……一応忠告しておきます。そのゴーレムたちは人間の形をしていますが、構造までは一緒ではないですよ」
「そうでしょうね、ゴーレムですものね」
「? どういう……」
どこかずれた会話をしていると、ディアナがとうとうアルマの目の前に来てしまった。
「覚悟はいいかしら?」
ディアナがおもむろに右手を振り上げると、その手には細長い針のようなものが。
あれって、暗器? 最近、見た覚えがあるからなんとなくわかってしまった。
いや、それよりも目の前に敵がいるのに無防備に突っ立っているのはどうかと思うんだが。しかも凶器を振り上げているし。
……まさか、気づいていない?
「さような……がふっ!!」
その手をアルマ目掛けて振り下ろされると困るので、ディアナの横っ面を引っ叩いてやった。




