ディアナの本性(体)
「すごい。あの三人をいくら操られている状態とはいえ、こんな短時間で無力化するなんて……。今まで名前を聞いたことがないのが不思議」
まあ、魔王の幹部で世間から一歩引いて暮らしていたそうだからな。名前を聞いた事がないのも当然だろう。
「ちっ、また女。しかも、あんな大きな脂肪の塊をぶら下げているのはとっても目障りだわ」
後ろから聞こえてきた舌打ちが、今までの比にならないくらい怨嗟の成分を多分に含んでいたように感じられた。
どうやら大きな脂肪の塊に対して、結構な恨みを持っているらしい。
そういえば、さっき抱きつかれた時に女性特有の感触が無かったような……? アルミラと同種、ということなのだろうか。
「助かった。現状の説明を――」
「大丈夫です。全て把握していますので、クラリッサさんは後ろに下がって休んでいてください」
「……わかった」
アルマの口調は優しかったが、戦力外通告をされてしまったクラリッサさんの表情は悔しそうだった。
「あとはソウイチだけですね。ですが、一番厄介ともいえます。いつもと同じように力が出せるなら、まず私たちに勝ち目はありません」
「そうね、敵に回るとこれほど厄介な相手はいないわね。でも、さっきからディアナのフェロモンに対抗しているみたいだから、なんとかなると思うわ。アルマも来てくれたし、形勢逆転ね。はっきり言って少し不安だったのよ。あ、あと、これが片付いたら聞きたいことがあるから、そのつもりでいて」
「ええ、なんでも聞いてください。ただ、そう簡単に事が進めればの話ですが」
こちらに視線を向けたままで、アルマが不安そうに答えていた。特に俺の一挙手一投足に注目しているような視線を感じる。
二度ほど俺にゴーレムを粉々に砕かれているから、その視線もわからなくもない。
「それはどういうことでしょう? アルマのゴーレムがいれば楽勝な気がしますよ。現に、Sランク冒険者三人相手にして余裕で勝ったじゃないですか」
「……相手が、ただのSランク冒険者であればそうだったかもしれません。それに私が余裕を持って倒せたのは、普通の状態でなかったことが大きいと思います」
「その通りよ。いくらフェロモンで操れるとは言っても、一人一人を臨機応変に対応させるのは難しいの。それに三人を倒してくれたおかげで、この男を操るのに専念できる。だから、あまり調子に乗らないことね。特に、そこのダークエルフ! 女で、しかもそんな大きいものを持ってるからって勝った気にならないことね!」
指をビシッと突き付けている姿が、見えないにも関わらず容易に想像できるくらいの剣幕だった。
「大きいものって……。あなたに一つ言っておくけど、女の真価は……その、大きさとか関係ないのよ! 持っていないからって、そこまで目の敵にする意味がわからないわ」
「……何ですって?」
良いこと言ってるけど、その大きさを気にしているアルミラが言っても説得力に欠けると思うが。
リフェルの店で買っているポーションは何に使っているのか、答えてみろ。
「目の敵にする意味? ふふ、教えてあげるわ。私だって、昔から恨みを持っていたわけじゃない」
ディアナがゆっくりと俺の方に歩いてきて、再度腕を絡ませてきた。
「私には、将来を誓い合った男がいたの。彼とは一生を添い遂げると思って疑わなかった。それなのに……」
横にはいるが、顔を伏せており表情を見ることはできない。ぷるぷると震えていることから、その時のことを思い出したのか、泣いているのかと思ったが。
「あ、あの、クソ女が、クソ女が彼を奪っていきやがったのよ!! しかも、あなたみたいな意味不明な脂肪の塊で誘惑して!! 許せるわけがなかったわ。何が『もう君では、満足できなくなった』よ!! あ、あの時のことを思い出すと今でも怒りが収まらないわ!!」
そんなしおらしいわけがなく、それはもう激怒していた。
俺が普通の耐久をしていたら、抱き着かれている右腕がへし折られていても不思議ではないくらいの鬼気迫る様子だ。
「そ、そんなことで……」
「そんなことですって?! 小娘にはわからないことよ!! それ以来、異性は妹しか信じられなくなって――」
……うん? 今、おかしい言葉があったような……。
「あ、あの」
「話の途中で何よ?!」
「今、異性が妹って」
「そうよ。私には妹がいて、その時も慰めてくれて」
「あ、いえ、妹さんのことを聞きたいのではなく。妹を異性って言ったら、あなたは……」
「……あ。まあ、いいわ。どうせ、あなたたちはここで死ぬし。そうよ、私の性別は”男”よ」
――ふぁっ?!
「言葉が出なくなるくらい驚いているみたいね。それも当然かしら? あなたたちみたいな女よりも綺麗ですものね。ごめんなさいね、綺麗な顔で」
くすくすと笑っている顔は、どこからどう見ても女にしか見えない。
「そうなると不思議よね。フェロモンは異性にしか作用しないはずなのに、って思うわよね? 普通ならそうでしょうけど、私は特別なの。私のフェロモンは”同性”にしか効果が表れなかった。それだけのことよ」
だが、男。
なら、さっきまでドキドキしていた俺は同じ男に……、吐きそう。
そして、とても泣きたい気分になった。




