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ディアナの本性

 いや、可愛いとか思ってる場合じゃなさそうだ。魔術師であるということを考慮しても、Sランク冒険者が走っただけで死にそうな表情を見せるわけがない。その証拠に、


「はあ……はあ……、ディアナ!! ……う、おろろろろろろ」


「ちょ、ちょっと、大丈夫ですか!?」


 大きな声を出した拍子に色々限界に来たのか、川に向かって吐いていた。


 おいおい、大丈夫なのか? 口元を抑えているから直接見えたわけじゃないけど、下流側に運ばれていく物体の中に赤いものが混じっているように感じられるんだが。


「え、これって、もしかして血……?」


「げほっ、違う。……さきほど食べた料理の残骸だと思う」


 アルミラの呟きに律儀に答えなくても良いと思う。


「あら、ごきげんよう。あの料理のお味はどうでしたか? お気に召していただけましたか?」


「……おかげさまで、こんな有り様」


「ふふふ、でも驚きましたよ。今日一日は夢の中にいると思っていたんですけど、案外回復が早かったですね。でも、その有り様では私を止めることなんてできないでしょ? まさかとは思うけど、そちらのBランク冒険者ですらない二人に期待しているなんて、言わないわよね?」


 これはどういう展開? なぜ、Sランク冒険者同士でいがみ合っているんだ。


「……そうだと言ったら?」


「舐められたものね。二人を相手にしたとしても私一人で対処は簡単よ。でも、面白いことを思いついたわ。そちらの二人の相手は彼にお願いしようかしら?」


 そう言って、俺の方に流し目をするディアナさん。


 流し目されても話についていけてないから、何のことだかさっぱりわかりません。


「あの、これはどういうことなんでしょう。ここに来るまでに軽く説明はされましたけど、状況が飲み込めてないのですが」


 困惑していると、俺の心を代弁するかのようにミリカが疑問を口にしてくれた。ナイスだ!


「あら、強引に連れてくるなんてクラリッサってば、人使いが荒いのね。良いわ、私から説明してあげる。もう隠れ蓑は必要ないし、これから私たちは本格的に動きだすから黙っていてもすぐに知ることになるでしょうし。あと、クラリッサは勘違いしていると思うからその訂正も含めて、ね」


 クラリッサさんの目が鋭くなったのを橋の向こう側とはいえ、容易に感じ取る事ができた。


「勘違い? あなたは帝国のスパイで……」


「確かに私は帝国にいたけれど、属している組織はもっと大きいの。なんせ世界を創り変えることを目的にしているのだから! 今の帝国は魔王の幹部を倒せる人を使って世界を征服することしか考えてない小さい野望を持っただけの国よ。王国もそういう意味では同じかしらね」


 世界を創り変えるっていうと、王都で変な実験をしていた組織のことか? でも、あいつらは全員意識不明で組織は壊滅したはずだ。


「クレアシオンの残党が残っていたわけですか。ですが、あの組織は王都での事件で壊滅したはずですが……」


「クレアシオン……? あー、あんな都一つで実験をしているような小さい組織のことね。私利私欲のために行動していた人たちと一緒にしないで欲しいわ」


 別の組織なのか。それにしても、みんなして世界規模の計画を立てすぎ。この世界の人たちは上昇志向が強いな。


「簡単に説明すると私たちは戦力を集めているの。崇高な願いを成就するためには魔王たちが邪魔だから、倒せる戦力をね。そのためにSランク冒険者に紛していたんだけど、そこで這いつくばってる王国の犬に感づかれたから、ここらで引き上げることにしたの。で、最後に持っていけるものは全部もっていこうってところかしらね」


 魔王さんが言っていた組織って、まさかディアナさんたちが属している組織……?


「あなたがどの組織に属しているかなんて情報、どうでもいいわ。それよりも、私たちが知りたいのはソウイチをどうするかってことよ! ぼーっと突っ立ってる状態になってるそこの男に何をしたの?!」


「……へー、面白い関係になっているようね。私、そういう関係については人一倍敏感である自負を持っているの。ここにいても匂ってくるわ。発情したメスの匂いが」


「は、はつ……!!」


「でも、残念でした! この男はもう私の虜よ! あんたはそこでハンカチでも噛んでなさい! 哀れな女!」


 突然、豹変したようにディアナさんがアルミラを指さしながらケラケラと笑い出した。


 さっきからディアナさんの言動がおかしい。初対面の時に感じた清楚な感じが欠片も感じられない。これが素なんだろうか、女って怖い。


 その言動に軽く引いているとディアナさんは俺の方に歩み寄り、蛇のように腕を絡ませると同時に体を擦り付けるように当ててきた。体と体がとても密着している状態に。とっても密着している状態に!!


「「なっ?!」」


 向こう岸でアルミラとミリカの表情が驚きに染まった。それを見て、恍惚とした表情になるディアナさん。


「その表情たまらなく好きよ。好意を寄せている男性を盗られた時の女の表情が何よりも好きなの!」


 この人、サイコすぎないか?! 返して、俺の最初に会ったときの清楚で優しい雰囲気のディアナさんを返して!


「この男をどうするかだったわね。簡単な話よ。私の奴隷として使うの。死ぬまで私の手となり、足となり一生を捧げてもらうわ。だから、あなたたちとはここでお別れ。これから私たちの組織のために力を使ってもらうの」


「そんなことさせるものですか! そこで待ってなさい! 今すぐ取り返してやるから!」


「あら、注意した方がいいわよ。その橋を渡ろうとすると――」


 アルミラが怒気を放ちながら橋を渡ろうとした瞬間、踏み出した手前に矢が突き刺さった。


「今のは警告の意味よ。こちらの戦力は私たちだけじゃないの」


 ガサガサと音を立てながら、武装した男たちが木々の間から現れた。双剣、ハンマー、弓といった多彩な武器を携え、これから一狩りにでも行きそうな構成の三人。問題なのは、その男たちが全員Sランク冒険者であるということだ。


 弓を使っているのはあのエルフだから、矢を放ったのはこの男だろう。


「……これは想定外。まさか、全員を一気に操れるなんて。しかも正確に命令ができるみたい」


「あはははははは! どうかしら? 私の奴隷たちは優秀でしょう? あなたたちにもう用はないから、ここで消えてもらうわ。お互いに仲間だったものに殺されるなら本望でしょう? ああ、私ってなんて優しいのかしら!」


 高らかに声を上げるディアナさ……ディアナの顔が狂喜に歪んだ。

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