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双子

 今まで無表情だった人が、ふと見せる笑顔ってギャップ萌えとでもいうのだろうか。そんな破壊力があるものだと思っていた。しかし、ディアナさんの浮かべた笑みに萌えという要素は皆無だった。


 冒険者ギルドで見た時の表情ともまた違う感じがするんだよなあ。顔は同じなんだけど、まるで別人みたいだ。


「あ、案内ありがとうございました。王都には一緒に行くことはできませんが、後で何かお礼させてください」


「いえいえ、お礼だなんてそんな気を回していただかなくて結構ですよ。それにまだアルマーティさんと合流できたわけではないですし」


「そうですか。それでは自分はこれで失礼しますね」


 遠慮するディアナさんに対して、それ以上しつこく言うことはせずにアルマを探すことにした。


 ちょっと、そうちょっとだけ、ディアナさんの笑みに不気味さを感じたが、決してそれが原因ですぐにこの場を離れたかったわけではない。今はアルマを探すことが優先だし、お礼に関しては後で考えることにしただけだ。


 ディアナさんに背を向け、錆びたオンボロ橋を渡っていると自分の足音と背後からも歩いてくる足音が聞こえてきた。


「……あの、ディアナさんも橋の向こう側に用事があるんですか?」


 振り返ると変わらない笑みを浮かべたまま、俺の後をついてきたディアナさんがいた。


「はい、そうですよ。ちょうど、この橋の向こう側に用事があったんです。私に構わずにアルマーティさんを探してください」


 俺の案内はそのついでだったというわけか。なら、背後にいないで並んで渡ればいいと思うのだが。


 小さい橋だが、人が二人通るくらいの幅は十分に確保されている。


 心の中で首を傾げながら橋を渡り切り、生い茂っている木々を眺めていると。


「え、ディアナさん?」


 目の前に生えていた木の後ろから笑みを浮かべたディアナさんが現れた。いつのまに移動していたのだろうか。ずっと背後からついてきていたはずだよな。


 一応、背後を振り返ってみるとそこにも笑みを浮かべたディアナさんがいた。


「案内ご苦労様。念のため聞いておくけれど、ソウイチさん一人だけで尾行はいないわよね?」


 正面にいたディアナさんからの問いに背後のディアナさんがこくんと頷くことで答えていた。同じ顔が二人……双子?


「あ、あの、これはどういう……」


「ああ、説明しないと混乱しますよね。私たちは双子なんですよ。そして、私が正真正銘のディアナで――」


「私が妹のロセルです。これから長い付き合いになると思いますので、よろしくお願いします」


 そう言った二人は、打ち合わせでもしていたかのように優雅にお辞儀をした。


 完璧なシンクロだ。俺はそこまで大男というわけではないが、人を挟んだ対面同士で息の合った動作をするのは難しい気がする。なるほど、双子だからできる技というわけか。


「ディアナさん……いや、ロセルさんの用事って、姉であるディアナさんに会うことだったんですね。あ、ならSランク冒険者は全員で六人だったということですか?」


「いいえ、私は正式に冒険者への登録を済ませていないので五人ですよ。それと私の用事はまだあります」


「登録を済ませていない? 違うご職業の方だったんですか? だったら、なんでディアナさんの名前を騙って」


「すいません、ソウイチさん。この場に長くいると感づかれる可能性があるので、そろそろ移動しなければいけません」


 感づかれるって、誰にだろう? 有名なSランク冒険者であるディアさんのファンにだろうか。


「お話は後で伺いますので、今は――スタン!」


「はい?」


 ディアナさんが俺に向かっていきなり魔法をぶっ放してきた。こんな至近距離で避けるなんて動作に移れるわけがなく。


「「え?」」


 もろに魔法を食らう羽目になりそうだったのだが、体に当たる寸前で弾けて消え去った。


「一体、何が?」


 ロセルさんから驚いたような声音が聞こえてきた。いや、それは俺の台詞なんですけど。


「すいません! どうやら魔法が暴走してしまったようで、お怪我はありませんか?」


 魔法の暴走! なんて、厨二心を煽ってくるワードなんだ。……というか、魔法って暴走するのか。俺的には魔力の暴走の方が響き的にカッコいいと思うのだが。


 この状況からしたら見当違いなことを考えていると、ディアナさんが心配そうな顔で近寄ってきた。俺の体に触れるか触れないかの位置で止まり、目を見つめてくるものだからドキドキしてしまう。至近距離で見ると、美人度がより際立つ。


「は、はい。だ、大丈夫です」


 だから、声が上擦ってしまったのも仕方がないことだろう。


 どぎまぎしていると握手会の時にも嗅いだことのある香水の匂いが漂ってきた。ただ、あの時とは違い少し不快感を覚える匂いだった。同じ匂いのはずなのに、感じ方が違う?


 あれ、この匂い……王都にいた時にも嗅いだことがあるような気がする。 


「ソウイチさん、何も考えず私に全てを委ねてください。気分を安らかにして、体の力を抜いて。受け入れてください」


 どこで嗅いだのかを思い出そうとしていると、柔和な笑みに戻ったディアナさんが艶やかな声で訳の分からないことを言ってきた。


 いや、訳はわかるのだが、なぜこの場でその言葉が出てきたのかが理解できない。まさか、外でそういうことを……? 


 王都に行かないということを妹さんからなにかしらの手段で聞き、色仕掛けをしようとしてきたという線が濃厚か。


 舐められたものだ。俺だって確固たる意志を持つ一人の男。色仕掛け程度で簡単に意見を変えるようなことはしない!


 ……で、次は何をしてくるのかな?


「ロセル、転移の準備をしてくれる? この男はもう私の言いなり、完全に術中に嵌まったみたい。さっさと撤収するわよ」


「わかった」


 しまった! 少し欲望を目に映しすぎたか! ……って、転移だと? 強制的に王都に連れて行こうってわけか! 


 やばい、とりあえず反論しておかなければ。このままだと取返しのつかないことになってしまう。


 さっきの視線は誤解ですよ、と言葉にしようとしたとき反対側から聞こえてきた仲間の声に遮られた。


「「ソウイチ!!」」


 橋の向こう側には、ここまで全力疾走をしてきたのか肩で息をしている三人の女性の姿が見える。


 アルミラとミリカ、それとなぜかSランク冒険者のクラリッサさんだ。特にクラリッサさんは青い顔をしていて、杖がなければ今にも倒れそうなほどだった。足が産まれたばかりの小鹿みたいでちょっと可愛い。

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