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案内

 アルマを見かけたというディアナさんの後について歩くこと数分。俺は非常に困惑していた。


「今日はいい天気ですよね。こんな天気の良い日はいつも何をしているんですか?」


「……色々です」


「歩いているだけでも汗ばんできますね。その服装暑くないんですか? だいぶ厚着のように見えますが」


「……特には」


 全然、会話が続かない。


 二番目の質問は、あわよくば薄着を見れるかもしれないという下心が多分に含まれていたから警戒されたのかもしれないが、もう少し喋って欲しいというのは俺のわがままだろうか。それに終始表情が動いていないのも気になる。冒険者ギルドでの柔和な雰囲気はどこへいってしまったのだろう。


 しかも、一度もこちらを見ようともしない。ずっと真正面を見据えたまま歩みを進めているので、何か悪いことでもしたのかと不安になる。


 まさか、王都行きを断るくらいで不機嫌になるなんてことはないだろう。


 もしかして、話しかけ過ぎてウザがられているのか? うるさい男とでも思われていたら、少しショックだ。


 せっかくの機会を無言で歩くだけはつまらない。弾んだ会話を提供しようと意識したのだが、逆効果になっているようだ。


 おっ、あれは話のタネになりそうだ。これを最後にして反応が返ってこなかったら、一度口を閉じて静かに歩くことにしよう。


「あ、あのお店に売っている花、面白い形していると思いませんか? 花の部分が人間……というよりも尻尾がついていて獣人みたいですね。角度によって見える位置が違うから、尻尾が隠れているのに気づきませんでしたよ」


 あははと笑う俺の言葉にびくっと体が震えたディアナさんが立ち止まり、無表情を維持したままでこちらを見てきた。


 もしや、花の話題で興味が芽生えたのだろうか。女性だし、そういう話が好きという可能性もあるか。


「ディアナさんはどんな花が好みなんですか?」


「……偶然? それとも」


「え、なんですか?」


「……いえ、何でもない。特に好みはないです」


 ぼそぼそとディアナさんが呟いた声は、ちょうど通りを歩いていた人たちの喧騒でかき消されてしまって断片しか聞こえなかった。しっかりと聞こえたのは、花の好みは特にないということくらいだ。


 もう話は終わりなのか、また前を向いて歩き始めてしまった。


 話のタネになるかなと思っていたが、そこまで興味を惹けなかったのを少し残念に思いながら、口を結んで後に続くことにした。


 ディアナさんから話しかけてくれれば、そこから話を広げてと計画していたのだが。


「あれ、このまま歩いたら東門に着いてしまいますけど、アルマは街の外にいたんですか?」


 進行方向にエルストの街の東門が見えた。さすがに外に出るとは思っていなかったので、質問をせずにはいられなかった。


「はい、そうです。私が見た時はちょうど東門を出て行くところでしたから。東の川の周辺に自生している植物でも採りに行ったのかもしれないですね。水場の近くに生えている薬草は、有用なものが多いと聞きますし」


 しまったな、街の外にいる可能性を失念していた。アルマはポーションも作れるんだから、素材の採取をしている可能性だってあるよな。道理で街の中を探し回っても見つからないわけだ。


「そうだったんですね。薬草についてはまったくの知識不足でして。やっぱりSランク冒険者ともなると様々な知識が必要になるんですね。これは勉強が大変そうです」


「慣れの問題でもあると思いますよ。それにソウイチさんでしたら、好待遇で迎えられると思いますけど」


「好待遇で迎えられる? あの、王都に行く話は」


「あ、お疲れ様っす! Sランク冒険者のディアナさんっすね! 自分、ファンなんすよ! 外に出るときにギルドカードの確認をするのが規則なんすけど、今回は特別に免除するっす! 代わりに握手してもらってもいいっすか?! 自分、あの時当番でギルドに行けなかったんすよ」


 いつの間にか、東門のすぐ近くまできていたようだ。


 会話の最中に大きな声を出しながら話しかけてきたのは、東門を担当していた衛兵だった。


 見た目は真面目そうだが、軽い口調と簡単に規則を破っている発言から人は見た目に寄らないという言葉が脳裏をよぎった。


「私でよろしければ……」


「うわー! 感激っす!」


 いくら有名人が相手だからって、仕事を省略しちゃ駄目だろう。職務怠慢は良くないと思うんだが。


「そちらの男性はもしかして、今エルストの街で有名な黒髪、黒目の冒険者ソウイチさんっすか! すごい実力を持っているって、俺たちの間で専らの噂っすよ! 握手してください!」


 まあ、有名人なら顔パスで通ることも珍しくは無いよな。


 握手を終え、俺までも「あ、ディアナさんと一緒なんでギルドカードの提示は良いっすよ」なんて言われ、顔パスで東門を通らせてくれた。通って少し歩いてから気づいたが、衛兵にアルマが帰ってきていないかを確認しておけば良かったと若干後悔した。


 この街でダークエルフはアルマくらいなので、記憶には残るはずだ。


 すれ違いになったら、また歩き損になってしまう。


「あの、ディアナさん。アルマが東門から帰っていないか確認を」


「大丈夫だと思いますよ。エルストの東に流れている川までは距離がありますし、採取する植物も限られていますから、探す時間も考慮に入れると時間はかかると思います」


 普通の人ならそうなんだろうが、アルマなら植物の場所がすぐにわかるような魔法を使えてもおかしくはないんだよな。ゴーレムを使役できるから、採取スピードも速そうだし。


 そして、しばらく歩くとエルストの東に流れる川に到着した。初めて訪れたその場所は年季を感じる錆びれた橋が一本あり、対岸には森とまではいえないが木々が生い茂っている。


「さあ、ソウイチさん。薬草が自生しているのは、橋を渡った先ですよ。アルマーティさんはきっとまだ採取をしていると思います」


 そう言ったディアナさんの顔は無表情から一変して、笑顔が浮かんでいた。

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