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信頼関係

 沈黙が続くかと思ったが、ミリカが静寂を破るように。


「私を誰だと思っているんですか? 世界に名前を広めなくても良くなったミリカですよ? 元々は魔王を倒すことを目標にしてきましたが、今ではその必要がありません。私の現在の目標はもっと別のことです。なので、私のことはソウイチに任せます」


 きっぱりと他人任せの意見を自信満々に発言した。


「え、俺任せなのか? 自分のことなんだから、もっと深く考えた方がいいんじゃないか?」


「深く考えた結果、私の意見はソウイチに任せることに決めたんです!」


 そんな断言をされるとは思っていなかったので、戸惑ってしまう。


「人類の敵側になる意味理解しているのか? もしかすると、もう二度とシンシアさんたちと会えなくなるかもしれないんだぞ?」


「大丈夫です。師匠たちもきっとわかってくれます。それに人殺しを率先してやるわけではないんでしょう?」


「確かに魔王さんからはそう言われたけど……」


「なら、問題ありません」


 本当にそうなのか? 結構問題だらけだと思うんだが……。軽く考えてるように見えて心配になるレベルだ。


 ミリカの目からは、意見を曲げないという強い意志が感じられた。


「……アルミラはどうする?」


 ミリカには何を言っても無駄だと悟ったので、会話に入ってこないで言葉を発していなかったアルミラに顔を向け問いかけた。


 難しい顔をして考え込んでいる様子からすぐの返答はないかもしれないと思っていたが、割と早く答えが返ってきた。


「行くわ」


 ぽつりと呟くようにただ一言だけだったが、狭いこの室内にはとても響いたように感じられた。これまた強い意志を感じられる目をしている。


「一応、聞いておきたいんだが良いのか? だって、アルミラの仲間は――」


「――そのことについては魔王本人にそこまでの恨みは無いわ。あくまで、あいつ個人に対してだけの感情だったから。でも、もしあいつ個人ではなく、魔王からの命令での行為だとしたら話は別だけど」


「もし、命令による行為だったら、どうするんだ? 即座に魔法をぶっ放す気か?」


「……わからない。けど、知りたいのよ。ソウイチの話を聞く限り、人類全体に対しての行為なのは理解したけど、だったらなんで私たちのパーティーを狙ったのかを。まだまだ駆け出しだった私たちを狙ったとしても、大きな影響力なんてあるわけないのに」


 ずっと疑問に思っていたことなのだろう。冒険者のパーティーは数多く存在するのに、なぜ自分たちのパーティーが狙われたのか。


「魔王本人に会える機会なんてまずありえないこと。だったら、直接会って話をしたいのよ」


「……わかった」


 と、頷いてはみたものの……もし魔王さんの命令だった場合のことを考えると、則戦闘になってもおかしくはないよな。理由はどうあれ、アルミラの仲間が殺されたことは覆らない真実だ。その時になってどう対処するべきか。


 魔王さんが言っていた能力については全然対策が思いつかないし、最悪アルミラだけを逃がすにしても気絶させられたらそこで終わり。


 さすがにアルミラを殺すようなことはしないと思うが、アルミラから攻撃を受けたらどうなるか。長い年月を生きて感覚が麻痺している可能性だって……。


「本当のことを言うとね」


 最近考えていることが増えてきているなあ、と感じているとアルミラが小さい声で話し出した。


「アルマが仲間になった時、最初は監視の意味で了承したのよ」


「え、豊胸ポーションに釣られてじゃなかったっけ?」


「あ、あれは、本当の目的を悟られないように、誤魔化しただけよ! 第一、魔王の幹部なのよ? 言葉だけでの辞めるなんて発言を、そんな簡単に信じることなんてできるわけないでしょ!」


「え、そうですか? 私は魔王の幹部を辞めるという言葉をすぐに信じましたけど」


 ミリカは例外だろう。普通はそんな言葉だけで信じられるはずがない。……あれ、俺はどうだったっけ?


「二人してそんなんだから私が……、はあ」


 言いたいことを飲み込み、ため息を吐き出したアルミラに若干の罪悪感を抱く。


 すいません、楽天的で。


「ソウイチがパーティーに誘った時は驚いたわ。でも、そんな心配は杞憂だった。一緒に活動している中でそこまでの危険人物にはどうしても思えなかったのよね。私たちを襲ったあいつのような禍々しさは感じられなかったし。それどころか、どこか抜けている感じがするくらい」


 抜けていたのは今まで引きこもっていて、世間のことに疎かったからだと思うが。


「そんなアルマがあいつと同じ魔王の幹部とは思えなかった。あそこまで違う人たちを纏めているのはどんな人物なのかを知りたい。だから、魔王に直接会って話を聞きたくなったのよ」


 長く話をしていたせいか、ふうと一息入れるアルミラに話の途中からふと沸いた疑問を質問することにした。


「ひょっとして、こうなるとわかっていたのか? アルマはずっと魔王さんとつながりがあって、直接会える機会が巡ってくることを」


「そうなる可能性は高いと思ってはいたわ。そのおかげで覚悟はできていたから、あまり取り乱さなかったのかもね」


 すごいな、ほとんど未来を予知していたわけか。


「アルマという存在を知らなかったら、私だっていくらソウイチが言ってきたとしても訝しんでいましたよ。魔王側に来ないかなんて、とち狂った発言をされたら」


 この世界に生きている人なら、そう判断するよな。……あ、聞きたいことが出てきた。


「二人に聞きたいんだが、俺の話を聞いて今回のことは判断してくれたんだよな? 信じてくれたのは嬉しいけど、こうは考えなかったのか? 俺が魔王さんに操られている、とか。良いように話を捻じ曲げて伝えた、とか」


 実際に操られているわけではない……と思いたいが、二人には聞いておきたい。俺のことを――パーティー仲間のことを信じてくれた根拠を。


「操られる? そんなことをしたら、一発でわかると思うわ」


「アルミラに同感です。師匠から催眠の魔法について教えてもらったことがありますから、そういう状態になればすぐにわかります。ソウイチならなおさらですね」


 おお、やっぱ持つべきは仲間だな! 会ってからの時間は短いが濃い時間を過ごした者同士、良い信頼関係を築けているということか!


「催眠にかかった場合は、あまり視点が動かなくなるんです。ですから、さっきみたいにいやらしい視線にはならないと思います」


「ソウイチは良くも悪くも単純で素直なんだから、取り繕うことなんてできるとは到底思えないのよね」


 良い……信頼関係、と言えるのか、これは。あまり嬉しく感じないんだが。

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