シリアス
普通は人類の敵で世界を滅ぼすと神託があった魔王側につくなんて言ったら、正気を疑われるか冗談のようにしか聞こえないだろう。
聞かされた側は戸惑いながらも軽く笑い、「冗談でしょう?」と返すくらいがありきたりの反応だ。
その言葉を二人が発してくれたら、徐々に昨日の出来事も話題に混ぜつつ、ゆっくりと順序を踏まえてシリアスな雰囲気に移行していけるはずだった。
しかし、現実とはいつも予想通りにはいかないもので……。
「そんな気はしていたのよ。ソウイチが私たち二人だけを選ぶなんて、そんな中途半端なことするわけがないのよね。気が多いんだから、絶対アルマも交えてに決まっているわ。そもそも二人って何よ。そりゃ、大金を持っているのは知っているから甲斐性があるのは分かり切っていることだけど……、浮かれていて気が回らなかった過去の自分に一言教えてあげたい気分だわ」
「おかしいです。伝え聞いていた話と全然違います。そもそも男が女を個室に呼んで告白するのなら、そういうことだと思ってしまうじゃないですか。私だって造られた身ではありますが、人並にそういうことをする願望くらいあるというのに」
なぜ、こんな空気になってしまったんだろう?
二人ともむすーっとした顔でぶつぶつと何事かを呟いている。アルミラは腕を組んでそっぽを向き、ミリカは俯いていて俺の方に顔を向けないようにしているから、どうにも話しかけづらい。
ゴンドさんからどのように伝わったのか非常に興味を惹かれるがその話は後で確認するとして、この空気にはずっとさらされていたくないため、さっさと話を進めることにする。
「あのさ……」
俺が言葉を発すると、顔を背けていた二人が同時にこちらを向き、
「「はあ……」」
打ち合わせでもしていたかのように深々とため息を吐いた。
人の顔を見てため息を吐くなっていつも心の中だけで思っているが、今回ばかりは声に出して言っても良い気がする。
「わかったわよ。悪かったわね。勝手に勘違いして。だから、そのムスッとして不機嫌そうな顔をやめてもらえると助かるんだけど」
「……最近、顔についてよく言われる気がするんだが、そんなにわかりやすいのか?」
「ええ、そうですね。ソウイチの顔は独特というか表情の機微を察しやすいんです。付き合いの長さも関係しているかもしれませんけど」
これからは、少し表情に気をつけることにしよう。
「えーっと、ゴホン! 話を元に戻すけど、俺は魔王側につこうとおもっている」
「さっきも聞いたけど、冗談で言っているわけじゃないのよね?」
「俺はいつでも本気だ。それに冗談でこんなことは言わない」
「そうね、馬鹿なことをするか真っ当なことをするかの違いはあるけど、いつも本気なのよね。聞きたいんだけど、その話はここにいないアルマ絡み?」
本当に勘が鋭い。……いや、考えてみれば俺がそんなことを言うなんてアルマ絡み以外にはないか。
「確かにそうだが、この考えは元々俺の中にあったというか、昨日のことが原因なんだが――」
俺は昨日の出来事をそっくりそのまま、真剣な目で聞いてくれている二人に伝えることにした。仲間だから隠し事はしたくないし、四人でパーティーを組んだ時点で運命共同体みたいなものだと思っているからだ。
だけど、一つだけ懸念事項がある。
ミリカはもう魔王を倒して世界に名を広めることに執着していない。だけど、アルミラは仲間を魔王本人ではないとはいえ幹部に殺されている。
命令であろうがなかろうが、部下(魔王の幹部)の責任は上司(魔王)の責任でもある。
恨みは当然あるだろうし、許せないことでもあるはずだ。
「――以上が昨日の出来事だ」
だから、もし、アルミラがこの話を聞いて一緒にいたくないというのなら、その時は……。
「初対面の女性の胸を鷲掴みにして、勢いよく揉んだ……」
「やっぱり大きい胸が好きなんですね……」
「えっ、注目するところおかしくないか? 絶対思案顔になるのはそこの場面についてじゃないよな! これでも真剣な話をしていたつもりなんだが?!」
なぜ、胸を揉んだところに過剰に反応するんだ! こっちはかつてないほどと言っていいくらいに真剣な話をしていたというのに!
ミリカとアルミラは下を向いて、自分の胸の位置を確認しているようだ。
別に大きかったから揉んだというわけじゃない、十八歳以下の子たちには言えないものと勘違いしていただけだ。さすがにそこは話していないが。
いくら俺でも初対面の相手の胸をいきなり揉んだりなんて、そんな非常識なことはしないぞ。
ちなみにアルミラさん。今までリフェルのポーションを飲み続けたにもかかわらず、全く成長の兆しが見えない部分で手を上げ下げするのはやめてくれませんかね。見ていて悲しくなってくるから。
「すいません。アルミラの場を和ませようとする冗談に乗っただけですから、心配しなくても話は全て聞いていましたよ」
あれは冗談じゃないと思うんだが。
「そうか、それならいいんだけど。……なら、話を聞いたうえで問いかけるぞ。俺は魔王さんたちを元の世界に帰してあげたいと思っている。人間としてひどいことをしてきたのは分かっているつもりだが、それでも」
「一つ聞きたいんですが、その故郷にはソウイチも帰りたいと考えているんですか? 記憶がぼんやりとしかないと言っていましたが」
俺の言葉をミリカが遮る形で問いかけてきた。
故郷か。俺の記憶があやふやで細かい部分まで思い出せないことはさっきの話でちょろっとは伝えた。
この状態が異世界に来た作用か何かで一時的になっているだけなら、戻るまで待ってからその時に考えるのも手だ。だが、永久に失われたままだった場合は……。
「今の状態だと、どちらともいえないな。記憶が戻り次第、結論は出すつもりだ。その時はきちんと伝えるから」
「……そうですか」
答えになっていないと自分でも思っているが、ミリカはそれ以上追及をしてこなかった。
「まあ、そうなるのはまだまだ先のことだろうけどな。それで、二人はどうする? 俺は魔王さん側につこうと思っているんだが一緒に来るか、それとも」
言葉を止め、返答を待つ。卑怯かもしれない、けどその先の言葉を発するのは躊躇われた。
もしも言葉にしようものなら、現実になってしまうかもしれない。そんな気がしたからだ。




