威圧
ゴンドさんから助言を得て、決心がついた。二人には昨日の出来事を嘘偽りなく全て話そう、と。そして、魔王さん側につくことも重ねて伝えてしまおう。
賛同を得ることは難しいかもしれないが、このまま黙っているわけにもいかない。もう後戻りはできないのだ。
「ここに入ってくる前より良い顔になったな。……ところで誰に告白しようとしてるんだ? さっきは聞かないなんて言ったが、相手のことはやっぱり気になるからな」
告白? ……ああ、そうか。秘密を打ち明けるんだから適切な言葉だな。
「アルミラとミリカの二人にです」
「は? ふ、二人同時にか?」
「はい、大事な仲間ですし。同時に伝えた方が良いと思うんです」
当然というように俺はきっぱりと自信を持って言った。一人ずつ伝えるよりもまとめての方が時間の節約にもなるしな。
聞かされた側のゴンドさんはなぜか驚きを隠せない表情で、口を半開きにさせていた。
特に変なことを言ったつもりはないんだが、そこまで驚くようなことだろうか。
「行動するようになったのは良いと思う。思うんだが、行動力ありすぎだろう。限度というか節度というかを守った方が最悪な未来を回避できると思うぞ?」
「一人ずつ言うのは手間じゃないですか」
「手間って……。大事なことを伝えるんだろう? なら、一人ずつにした方がいいんじゃないか?」
「それこそですよ。優劣をつけたくないんです。みんな対等でありたいんです」
「むー、それもアリなのか?」
今度はゴンドさんが腕を組み、うーんと首を傾げながら悩み出してしまった。
「その二人にはまだ伝えてないんだよな?」
「はい、この後行こうと思ってます」
「本当に行動力ありすぎだろう! 思い切りが良いのも考え物だな……よし、わかった! せっかく相談されたことだし、一肌脱ぐことにしよう。知らない仲じゃないんだ、御膳立てくらいはしてやる。ちょっと待ってろ」
そう言い放ち、相談所から飛び出して行ってしまった。流れからして二人に、俺から大事な話があると言いに行ってくれたのだろう。
そこまでしなくても自分の力でできる、とも思わなくもないがゴンドさんからの好意を無下にすることもない。ここは大船に乗った気持ちで待っていることにしよう。
……あれ、さっきも似たようなことがあって沈没した気がする。
いや、大丈夫のはずだ。ミリカは勘違いしていたがゴンドさんならきっと俺の意図を汲み取ってくれたはず。
ゴンドさんが出て行ってから暇になってしまった俺は、椅子に座りながらぼーっと天井を眺めていた。人というのは不思議な生き物で、思考というのを勝手にしてしまうようだ。
浮かんできたのは自分についての疑問で日本での記憶。
この世界に転移する前の白い空間で目が覚めた時、日本での記憶は確かにあったはずなのだ。上司に怒られ、帰宅した記憶。けれど、上司の顔や会社名を思い出せない。転移する直前なら覚えていたはずだが、あの時は気分が高揚していたせいもあって細部まで気に掛けることはなかった。
もしかすると、あの時すでに記憶は靄がかかったように思い出せなくなっていたかもしれない。
「でも、あの魔王さんに会ってからは自分でもわからない使命感にも似た感情が出てきたのは事実なんだよなあ」
日本に帰るために協力しなければいけないという感情。これはなんなのか。今まで敵だと思っていのに考えが百八十度変わってしまった。
「まさか、あの白い空間の前に神様的なのに謁見していて、四人の魔王を日本に帰す手伝いをしろと言われていたとか?」
だとしたら、なぜその記憶がまったくないのか。そもそもなぜ俺なのか。
考えれば考えるほど、訳がわからなくなってきた。
「……転移した時に偶然記憶が消えたとかだったら、怖すぎるな」
はははと乾いた笑いが出た。願わくば理由があって意図的に記憶が消された、もしくは一時的に封印されているといったことであって欲しい。
色々な考えがぐるぐる回り、答えが出ないまま過ごしていると、トントンと木製のドアをノックする音が響いた。
返事をして、ドアを開けた先にはアルミラとミリカがいた。ゴンドさんが見当たらないのは気を利かせてくれたからか。
「ぼ、煩悩は退散できたの?」
アルミラの声がなぜか上擦っていた。大事な話があると聞かされて緊張しているのかもしれない。
「俺に退散する煩悩は無いぞ。普通の男なんだから、少しくらいは許してくれ」
「普通とはかけ離れている気がするんですが……」
ミリカはこちらをチラッチラッと見てくるくらいで、目を合わせないようにしている。
女は男からの視線を敏感に察知すると言っていたが、男も女からの視線には気付きやすいものだな。
「立ったままなのも変だし、座って話そうか。ゴンドさんから聞いてきたんだろ?」
「ええ、そ、それもそうね」
「し、失礼します」
……ゴンドさんから何を聞かされたんだろう。二人の動きが普段と違い過ぎる気がするんだが。
ちょうど予備の椅子があったため、テーブルを挟んで二対一の状態で向かい合い、話を始める。
「聞いているとは思うけど、二人にはこれから大事な話をする。答えによっては今後の人生が変わるかもしれない。いや、変わると断言できる。だから、真面目に聞いて欲しい」
態度を改め、今までにないくらい真剣な顔をする俺に二人も真剣な顔になる。俺たちしかいない空間に緊張が走り、痛いほどの静寂に支配された室内で口火を切り。
「俺は――」
「ちょ、ちょっと待って!」
その瞬間に待ったがかかってしまい、出鼻をくじかれた。
「確認したいんだけど、ソウイチが私たちを呼んだってことはそういうことなの? 本気なの?」
「当たり前だろう。結構悩んでいたんだぞ。どうやって伝えようかって」
「そっか、悩んでくれていたんだ」
「ソウイチのことですから、悩みなどせずにすぐに言うものだと思ってましたよ」
人を単細胞みたいに言わないで欲しい。俺だって悩みの一つや二つ常にあるというのに。
「こほん、確認はもういいか?」
「うん、ごめんなさい。遮ってしまって」
「私も大丈夫です」
アルミラとミリカは身だしなみを整え、背筋が一直線になったかのように姿勢を正した。これから話される内容を一言一句漏らさないという気概が窺える。
そんな二人に対して、単刀直入に俺は言った。
「俺は――魔王側につこうと思う」
「「…………」」
……何も反応が返ってこない。時間が止まったかのように微動だにしない二人を不気味に思いながらも返ってくる言葉を待っていると。
「「……は?」」
同じタイミングで威圧が飛んできた。
あの言葉だけでは困惑させるだけだろうと思って、続く言葉を準備していたのだが、綺麗に吹き飛んでしまった。それくらい怖いのだ。二人が。




