教会の相談所
アルミラには気が多い、と言われたが、美女がいれば目で追ってしまったり、女性が身に着けている服の露出度が高ければ凝視……とまではいかなくてもチラッと見てしまったり、ついつい妄想してしまうのは男として至極当然のことで。
異性に対して興味を持つのは生物学上、普通のことだと思うんだ。だから、そんなことを言われてもどうしようもないわけで。
「ということがありまして、男なら仕方のないことだと思うんですよ」
「ソウイチの言いたいことに共感できないこともないんだが、ここは教会の相談窓口であって、惚気話をする場所じゃないんだが」
あの後、二人から「教会には相談所があるんです、そこで煩悩を減らす相談でもしてくれば?」と言われて追い出されてしまった。
あんまりな言葉に心の中で涙しながら、こうして相談をしにきたわけだが、窓口――教会から少し離れた場所にある小屋で、一対一で面談ができるように椅子と机が用意されている――にいたのは、まさかのゴンドさんだった。
冒険者ギルドで相談を受け付けているのは、本人が言っていたのと実際に遠目から見ていたから知っていたが教会の相談所も兼任しているとは思わなかった。
人妻とはいえ、目の保養的な意味ではシンシアさんの方が良かったなあ。と、思ってしまうのは煩悩が多いせいか……。
「一応、俺だって仕事中なんだからよ。そういう話は歳の近い男の冒険者仲間なんかに言えば……。なんなら、夜一緒に飲むか?」
「途中で言葉を切らないでくださいよ。俺にだって、仲の良い男の冒険者はいますよ」
気遣ってくれるのは嬉しい。嬉しいのだが、人を友達のいない寂しそうな人間みたいに言わないで欲しい。
サラたちのパーティーにいる男性陣とは、あの早食い大会以降食事に行って情報交換をしたりしているし、会えば世間話をして交流を深めたりする仲になっていたりするのだから。……他の冒険者とはあまり話をしたことはないけど。
「そうか。なら、良いんだけどよ。お前のパーティーって女しかいないだろ? そういうのって、一見すると華やかではあるんだが、行動を共にしていると肩身が狭くなる時ってのがあるはずだ。だから、男の友達ってのは必要だぜ?」
ゴンドさんの言葉には重みがあるように感じられた。まるで、自分も体験したかのような。
「もしかして、ゴンドさんも女性に囲まれたパーティーだったんですか?」
「まあな。お前たちと同じ四人パーティーだったんだよ。シンシアと結婚することになった時に解散しちまったがな」
意外だ。シンシアさんと会う前は、男だけで活動しているイメージだったんだが。
「俺の話を聞きたけりゃまた今度にでも聞かせてやる。それで? ここに来たってことは他に相談したいことがあったんだろ? まさか、さっきの話で終わりとか言わないよな?」
ゴンドさんの言う通り、アルミラとミリカから勧められたから来た、というわけでは勿論ない。
だが、正直に話すというのも躊躇われる。さすがに、アルマの時みたいにはいかないはずだ。
「魔王さんからこちら側に来ないかと誘われていて、仲間にどうやって説明すればいいのか悩んでいます」なんて言ったら、どう思われるか。……魔王の幹部だったアルマが大丈夫だったから、この人相手なら、なにを話しても動じないで問題ない気はするが。
「……これは先輩の冒険者からのおせっかいだ。的外れなら、聞き流してくれればいい」
腕を組んでどう話したものかと悩んていたら、ゴンドさんが静かに語り出した。
「悩むという行為は大事なことだ。けどな、悩んでばかりじゃ物事は進展しない。行動をしない限り、何も解決はしないんだ。時間が解決するっていうのは、その時間が経過した後に行動するから解決するんであって、待っていれば何とかなるなんてことはない。で、だ。大切なのは自分の行動なんだよ。何に悩んでいるのかは聞かないし、言わなくてもいい。ただ、行動して悩むのと行動しないで悩むのじゃ違うってことを覚えておいてほしい」
そこで言葉を区切り、一呼吸置いてから――。
「つまり、俺から言えるのは『当たって砕けてこい』ていう言葉だけだな」
経験豊富な冒険者然とした雰囲気から一変して、砕けた感じの明るい口調でそう言った。
砕けちゃいけない気がするのは、俺の気のせい……?
でも、そうだよな。今までだって、考えるよりも先に体が動いていた。どうやって説明しようと悩むなんて、らしくないよな。
「ま、これは俺の師匠が言っていた言葉なんだけどな。『悩むくらいなら行動しろ』ってな」
その師匠とは気が合いそうだ。考えが俺と似ている気がする。いつか会ってみたいものだ。
「ありがとうございます。決心がつきました!」
「おう、お前の助けになれて良かったよ。なにをしようとしているのか知らないが行ってこい。男なら行動あるのみ、だぜ!」
「ゴンドさんに相談して良かったです」
「こんなことしか助言はできないが、駄目だったら愚痴にだって付き合うからよ。……あ、その時はお前持ちで頼む。シンシアに今月の小遣い減らされちまって、ちょっと財布が寒いんだ」
シンシアさんの権力が強すぎる。完全に尻に敷かれているようで、その話をしている姿にさっきまでの面影は皆無だ。
最後のが無ければ、カッコいい先輩の冒険者として俺の中で確立していたんだけどなあ。




