濡れ衣
「はあ……、ソウイチが変態なのは今更よね。それで、アルマの伝言も嘘なの?」
アルミラは、目を閉じてこれ見よがしにため息をついた。
俺が変態だということに対して、少しばかり異論を唱えたい衝動に駆られたが空気を読んでその点に関しては触れないことにした。話が進まなくなるからであって、決して容認したわけではない。
「伝言の内容は本当のことだ。今日集まることを伝え忘れただけで、王都には行きたくないって言ってたぞ。証拠もある。ほら、俺が持ってきた赤と青の本」
伝言の内容については真実であることを告げた。そして、両手で持っていた赤と青の本を二人に見えやすいように掲げ。
「この本に見覚えはないか? 王都に行く道中で遊んだ魔道具だ」
アルマから受けた説明をそのままに話し、本来の効果を二人の目の前で実演してみせた。百聞は一見に如かずともいうし、実際にやって見せた方が理解しやすいはずだ。少なくとも俺はそうだった。
「そんな隠された効果があったとは、さすがアルマですね! これさえあれば師匠の好みなんかもわかるかもしれません。いえ、どこで買ったのかもわかれば、まったく同じものを用意できるじゃないですか!」
「やっぱり、そうだったのね……って、これはどういうこと?」
単なるゲームとしての役割しか持っていないと思っていたものが、凶悪な効果を持っているということに驚く反応をするかと思いきや、目の前の少女たちは別のことに注目していた。
ミリカについては何もいうまい。まるで学習していないみたいなので、この本についてシンシアさんに後で説明しておこう。アルマも事情を知れば、貸さないだろうけど念のためだ。
問題はアルミラだ。最初はどこか納得した様子で俺の話を聞いていたのだが、ある部分を見てから目つきが鋭くなった。
すべてを記載する青い本は一日経つと、まったくの白紙に戻るリセット機能が備わっている。これは一日以上の記憶を保持できないとか、容量がどうとかの説明があったのだが、原理は理解できなかったため、詳細は不明だ。そういうもんだと覚えるしかない。
しかし、今問題になっているのは、日をまたがずに二人以上の情報を取り込むとどうなるか、ということで。
「これはどういうことかしら? 目次にソウイチの名前があるのはさっき実演したからわかるけど、リアさんの名前があるのはなぜ? しかも、今朝の時間帯。リアさんの個人情報を何に使うつもりなの? 彼氏がいる女性の情報を……」
「ち、違う。誤解だ。それは今朝偶然通りがかったリアさんに本を渡したときに発動しただけで!」
まるで、浮気をしたことがばれて、妻に問い詰められているようだ。結婚をしたことがないので、実際は違うかもしれないがそんな気分を味わった。……冤罪だけど。
青い本は一日に二人以上の情報を取り込むと、目次に人名と取り込んだ時間が記される機能がついている。情報を見たい場合は、個人の名前を頭の中で念じるだけで閲覧ができる仕組みだ。
「なんで本を渡す必要があったのよ」
「それはあの人の性質的なやつみたいで、珍しい本には目がないと言われたんだ。手に取って見てみたいって言われたから渡しただけで、故意に渡したわけじゃない。俺にだって、守らないといけないことくらいわかる。人の女を盗ろうとするほど、飢えてないぞ!」
さっきまでの流れが無ければ、こんなあらぬ疑いはかけられなかったはずなのに。……かけられないよな?
「本当のようですよ、アルミラ。ほら、ソウイチの最新のページに書かれています、読んでいないって」
仲間がストーカーになってはたまらないからだろう、不穏な空気になっているアルミラにとりなしてくれたミリカには感謝しかない。俺自身から言うことは簡単だが、第三者の意見であれば信じてくれる可能性が増すからな。
シンシアさんにはこの本の説明はしないでおこう。
「わかったわよ。……そうよね、ソウイチはちょっと変態なだけで行動には移さないわよね」
暗にヘタレと言われてるのか? 俺は、やるときはきちんとやる男だぞ。ほっと一息ついて安堵している様子のアルミラに言う気はないが。
「こほん、まとめると今回の王都には行かないということで良いのね?」
「そうだな。王都に行くだけなら、いつでもできるしな」
「そうですね。ちょっぴり残念な気もしますが、もう名前を世界に響かせる必要はありませんから。ただ、歴史に名前を刻むくらいはしたいので最終的には魔王を倒して、世界を救うことにしましょう」
「あ……」
そうだった。まだ魔王さんについての説明を二人にしていなかった。
「……? どうしたの?」
つい、ミリカの言葉に反応してしまった俺にアルミラが疑問顔で問いかけてきた。
どうしよう。この勢いのまま、魔王さんからこちら側に来ないかって直々に勧誘されてることを伝えてしまうべきか?
「もしかして――」
悩んでいると、またもやミリカが助け船を出してくれた。おお、今日のミリカは一味違うみたいだ。昨日の宿屋でのことを切り出してくれれば、その勢いで……。
「もしかして、ディアナさんのことを考えていたんじゃないですか? 王都に一緒に行きたいとか言ってましたよね」
助け船は泥船だったようだ。浮上した俺の評価が、再度水の中にぶくぶくと沈んでいくように下降していく。
「……気が多いのね、ソウイチって」




