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男の性

「鎌をかけるなんてひどいと思うんだ。俺たち仲間だろ、少しくらい信じてくれたって……。あと石畳の上じゃなくて、椅子に座らせてください。床は脚が冷えるんだけど」


 嘘を吐いた罰として床に正座をすることになってしまった。痛みは感じないのだが、教会で正座をしているという図が嫌だ。


 目の前で仁王立ちをして腕を組んでいるアルミラを見上げながら、撤回を要求してみるが。


「嘘を吐く方もひどいと思うのは私だけかしら?」


「時には嘘だって吐かないといけない場面はあるはずだ。だから、今回については無罪を主張したい」


 言葉を重ねれば重ねるほどに要求が通り難くなっていってる雰囲気が漂い出した。


「言い分はわかりますが、今回は嘘を吐かないといけない場面ではないと思いますよ。正直に話していれば、少し怒られる程度で済んだんです。反省してください。ちょうどここは教会内部ですからうってつけの場所ですね。悔い改めてください」


 さらには、ミリカから聖職者みたいな追撃を受けることになってしまった。随分と態度が大きい聖職者に見えるが。


 まるで、いつも怒られていることを自分ではなく、他人がしたことで、怒られる側から注意できる立場に昇格して増長しているような……。


「そういえば、この前ミリカもシンシアさんに嘘を吐いて怒られていたって聞いたわよ。確か、花瓶を割ったとき」


「あ、あれは、その、仕方がなかったんです! 師匠は怒ると怖いので、回避したいと考えた結果で! 同じようなものを買って、すり替えておけば気づかれないで無かったことにできるかなあと思ったんです!」


 ミリカは語調を強め、捲し立てるように言い訳を口にした。


 さっきまでの態度に得心がいった。同類を見つけて安心したため、へこんでいた精神が浮上して気持ちが大きくなったとか、そんなあたりだろう。同じ穴のムジナなのによく言えたものだ。


 悪いことをした自覚はあるから、俺も人のことは言えないが。


「その後、簡単に見破られて『あなたが大金を持っていると碌なことに使わないので、私が預かっておきます。必要になったら言いなさい』と報奨金の残額が師匠の手に渡ってしまいました。反省していると言っても返してくれないんです」


 人の信頼は一度失うと取り戻すのに時間がかかるからなあ。


 目線が段々と下がっていき、ついには俯いてしまった。落ち込んだ姿を見ていると可哀想になってくるが、ミリカの家庭の問題なのでどうすることもできない。


 シンシアさんの教育方針に口を出せる立場ではないし、自業自得でもあるからな。


「……これからは師匠のものはよく見て、覚えておかないといけませんね。もしもの時に備えて」


 小さい声でぶつぶつと呟いているのが聞こえた。


 全く、反省の色が見えない。


 ミリカが座っている位置は俺の正面。円卓のテーブルを挟んだ向こう側だ。この位置からは俯いてしまった顔を見ることはできないが、声の感じからしてそう判断できた。


「そういうことだから、ソウイチもそのままね」


「いやいや、ちょっと待って欲しい。ミリカのことと俺のことは関係ないはずだ。反省はしているから椅子に座らせ……」


 ちょっと待てよ。今の状況なら、別に座らなくてもいいんじゃないか?


「どうしたのよ。途中で言葉を切って」


「いや、そうだよな。反省は必要だ。話し合いが終わるまで嘘を吐いた罰として、俺は床の上で座っていることにするよ」


「……何かしら。ソウイチが良からぬことを企んでいる気がするわ」


「そんなことを企むなんて滅相もない」


 ここ最近、アルミラの勘がおかしいほどに正確性を増している気がする。


「アルミラ、ソウイチのことはもう許して椅子に座らせてあげたらどうでしょう?」


「……そうね、嘘を吐かれて悲しかっただけでそこまで気にしていないし。もう床に座っていなくていいわ。悪かったわね、床に座らせるようなことをして」


 優しい言葉をかけられ、罰は免除されたがそうなると困ってしまう。せっかくの機会だ。有効的に活用したい。


「でも、けじめは必要だと思うんだ。大丈夫、少し離れれば顔を見て話せるよ」


 立ち上がり、テーブルから少し離れた位置に移動する。高低差を考え、離れすぎず、近すぎずを意識して最適な場所だと思う場所に腰を下ろした。


 普段と視線が変わるだけで見える世界が全然違う。


「良いことを教えてあげます。女性って、視線に敏感なんですよ。特に異性からの視線には」


 突然、ミリカが俺に向かって淡々と話し始めた。


「見るなとまでは言いませんが、もう少し配慮した方が良いと思います。私たちはまだソウイチのことを知ってますから仕方がない、と思えます。ですが、初対面の相手にはその視線を向けるのはやめてください」


「……悪かった」


 マジトーンで話されると結構効く。座るのを止め、立ち上がるとアルミラと目が合った。ジトっとした目を向けられ、


「反省の色が見えないわね」


 とある性癖を持つ人なら好むだろう声音でそう言われた。


 仕方がないんだ。目線の先に女性の生脚があれば見る以外の選択肢は無いのだから。しかも、スカートに似た服装をして座っているものだから、自然と目が吸い寄せられてしまう。この視えそうで視えないというのがいけないんだ。


 悲しいかな、これが男の性よ。本能に逆らうのはなかなかに難しいんだ。

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