アルミラの過去
「まずは、自己紹介からしてもらうか」
席に着いたと同時にゴンドさんが発言する。ちなみに、シンシアさんがいない理由は、教会を留守にはできないとのこと。
「……ねえ、これはどういうことなの?」
アルミラは、ジト目でゴンドさんを見ている。
何も説明されずに連れてこられたのか。
「おまえらでパーティーを組んでもらおうと思ってな。先輩からのちょっとしたお世話だ」
「余計なお世話よ。私はパーティーを組まなくてもやっていけるわ。有益な情報があるって言われたから来たのに、そういうお話ならお断りよ」
アルミラはそう言うなり、席を立ち去ろうとするが……。
「おまえ、Bランクの昇級試験落ちたんだって?」
「……だったら、何よ」
ゴンドさんの一声で立ち止まった。
というか、アルミラはCランクなのか。すごいな。
「ソロでの活動は限度があるってことだ。Cランクまでなら、才能と努力次第でソロでもクエストを達成することはできる。問題はその上だ」
「……で、でも、ソロで活動してる人達だっているわ」
「確かに、ソロで活動できてるやつはいる。それでもBランクが精々だがな。それに、クエストの種類もソロではできないやつがBランクから上は多数ある。護衛依頼なんかがいい例だ。お前は、Bランクよりも上を目指してるんだろ?」
「……」
「何で、そんな頑なにパーティーを断るんだ? この前のことが原因か?」
「……この前のことについては、確かに悪かったと思ってるわ」
「何度も言ってるが、そのことについては……」
「ええ、気にしてないってことくらい理解してる。……言い方はカチンときたけど」
「なら、何でだ?」
ゴンドさんが問いかけた後、アルミラは無言になってしまった。
「ま、無理にとは言わないが……」
「この街への護衛クエストを受ける前、私はパーティーを組んでいたわ」
アルミラはゆっくりと語り出した。
「同じ村の出身でみんな仲が良かった。冒険者ギルドに登録して、みんなでSランクパーティーを目指そうと切磋琢磨して成長していった。けれど、私たちがCランクになった時……あいつはすべてを奪っていった」
「あいつ?」
俺は、つい言葉を挟んでしまった。
「西の魔王の幹部で”アスト=ウィーザ”と名乗っていたわ」
「「!!」」
ゴンドさんとミリカが息を飲んだのがわかった。
どうでもいいが……西? 魔王は1人じゃないのか?
「パーティーは私以外、全滅……これがパーティーを組みたくない理由よ」
また失うくらいなら、最初から組まなければ良いってことか。
「そんなことがあったのか……」
「……」
ゴンドさんもミリカも暗い顔をしている。
「なんで、私だけ見逃したのかはわからないけれど……きっと、気まぐれなんでしょうね。あいつの強さは圧倒的だった。魔法の威力も半端じゃなかった。私なんて、殺そうと思えば殺せたはずなのに……」
アルミラはとても悔しそうに拳を握りしめていた。
「アルミラ……さんは、そのアストなんちゃらに復讐する気ですか?」
「アルミラで良いわ。それに口調も普通で良い。その方が気楽だし。……アスト=ウィーザは、私の手で絶対殺してやりたいと思う相手よ」
その目は覚悟をした目だった。死ぬ覚悟……。
ここは平和な日本ではなく、過酷な異世界なんだとこの時初めて思い知った。
ゴンドさんがアルミラのことを危なっかしいと感じていたのは、こういうことか。
「でも、今の私じゃ絶対にあいつを殺すことなんてできない。悔しいことにね」
「アルミラ、そのアスト=ウィーザってどんな姿だったんだ?」
「……金髪の男だった。目は灰色で、武器はおぞましい剣を持っていたわ」
金髪に灰色でおぞましい剣か……。あの森で会ったおっさんとは別人のようだな。いきなり、攻撃してきたという点は共通しているし、案外あのおっさんも魔王関係者なのかもしれない。
「何か、心当たりがあるの?」
「いや、人違いのようだ」
「そう……」
「そういや、自己紹介がまだだったな。俺はソウイチ。昨日、登録したばかりのひよっこだ。こう見えて、体力には自信がある。よろしく」
この暗い雰囲気をなんとかすべく、自己紹介をしてみた。
「私はさっきも言ったけど、アルミラ。ランクはC。得意項目は魔法よ」
「私はミリカです。ランクはD、得意項目は同じく魔法です」
あれ? なんか、この構成でパーティー組むと偏りがあるように感じる。
「まったく、若者の切り替えの早さは目を見張るものがあるな」
ゴンドさんが復活した。
「私はパーティーを組む気は無いから、これで失礼するわ。同じ冒険者仲間としてお互いに頑張っていきましょう」
アルミラはそう言うなり、冒険者ギルドを後にした。




