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天然

 翌日の朝、俺は宿屋で頭を悩ませていた。


 起きて隣を向いたら、産まれた時の姿で寝息を立てているアルマがいた、なんて妄想が現実に起こったわけではない。昨日のことが原因だ。


 あの後、夜も遅いからそのままお泊りして、あわよくば添い寝とかできるかなと期待に胸を膨らませていたら、


「お泊りなんてさせないわよ? 不純異性交遊なんてしている暇はないの」


 魔王さんの有無を言わせない一言で即座に叩きつぶされた。


 変なことをしようと思っていたわけじゃないのに! 二人で寝ようとすると体が密着しそうな少々狭いベッドで、アルマと寝たかっただけなのに! 不純じゃなく、純粋な気持ちなのに! 

 

「あなたとアルマを同じ空間で二人きりにさせたら、どんな危険があるかわかったものじゃないわ。だから、さっさと帰りなさい」


 俺の目が訴えていることを察知したようで、追加の言葉が飛んできた。


 人を理性の無い獣みたいに言いやがって。無理矢理なんてことを俺がするわけないじゃないか。文句でも言ってやろうかと口を開きかけたのだが、それよりも先に魔王さんが威圧してきた。

 

「い・い・わ・ね?」


 女の威圧って怖い。


 反論なんてできようはずもなく、すごすごと帰路につくしかなかった。都会みたいに深夜も営業している店なんて無く、昼間のように人もいなかったため、月の照らす夜道を一人寂しく歩いたのは記憶に新しい。

 

「はあ、アルマと一緒のベッドで寝てみたかったのになあ」


 起き抜けに出てきたのがこの言葉だ。


 一応普段アルマが寝ているであろうベッドの香りを嗅ぐことはできたけど、無臭だった。きっと、宿の人が洗濯した後だったんだろう。お客様への配慮が行き届いている良質な宿で、とても悔やまれる。


「魔王さんの件どうしよう。冷静に考えてみると会ったばかりなのに即了承するとかおかしいんだよな。思い出せない記憶となにか関係があるのか?」


 朝食を済ませ、自室に戻ると悩んでいたことが自然と口から出た。


 いくら考えても、アルミラとミリカの二人にどう説明すれば納得させられるのかが思いつかない。この世界の実情を知ることはできたけど、他の人に話しても信じて貰えないことは容易に想像がつく。


「あー、どうしようかな」


 室内にいても良い考えが出て来そうにないと悟った俺は、教会へ行く道すがら妙案が出てこないかなと楽観的に考え、身支度を軽く済ませ向かうことにした。




 二人に昨日の話をする以前に、重要なことを忘れていると気づいたのは、教会にたどり着いてからのことだった。


「アルマに今日のことを伝えるのすっかり忘れてた」


 教会の目の前で顔を覆う姿は、懺悔に来た人にしか見えないだろう。


 歩いている参拝客がこちらを見ている気はするが、気のせいだ。きっと、気のせい。


「あれ、あなたは……ソウイチさん? どうしたんですか? 教会の目の前で顔を覆ったりなんかして。懺悔にでも来たんですか? 」


 教会の前で顔を覆っている不審な人に話しかけてきたのは、司書見習いのリアさんだった。


 自分で言うのもなんだが、俺だったらそんな不審者に声をかけたくない。それなのに、よく話しかけることができるなと素直に感心してしまった。


 俺の名前を呼ぶときに、少し間が空いていたのは久しぶりに会ったからだろう。


「いえ、ちょっと壁にぶち当たっているだけで、懺悔する罪なんてありませんよ」


「壁、ですか? どこにも見当たりませんけど……」


 物理的にぶつかっているわけじゃないですからね。


 リアさんはきょろきょろと辺りを見回して、小首を傾げている。その様子からドジっ子属性だけでなく、天然も兼ね備えていることを確信した。


「リアさんはいつもこの時間に教会を訪れているんですか?」


「今週は特別なんです。王都から彼が帰ってくるので、道中が安全でありますようにって女神様にお願いをしにきてるんです」


 ああ、あの王都で会ったエルフの彼か。健気な彼女がいて羨ましい限りだ。


「ソウイチさん、聞きたいことがあるんですけど良いですか?」


 リア充を心の中で妬んでいると、リアさんが遠慮がちに問いかけてきた。


「はい、どうしました?」


「その手に持っている二冊の本は、なんという名前の本なんですか? 見たことがないので興味を引かれてしまって」


 実は昨日、説得の材料として相手の経歴がわかる本を預かっていた。今日の話し合いで使うだろうと、持って来たものだ。


 さすがは司書見習い。知らない本には興味津々のようだ。


「これはまだ中身が白紙なんで、本の名前も無いんですよ」


 製作者のアルマに聞かないと、名前なんてわかるわけがない。この場は適当な嘘で乗り切ろう。


「そうだったんですか。赤と青の本なんてあまり見かけないもので。すいません。手に取って見てみたいんですけど、良いですか?」


「構いませんよ。けど、本当に白紙ですよ?」


「良いんです。白紙というのも趣がありますから。それに、私の夢は本を一から作ることなので、まだ何も書かれていない本を手に取ることができるのは、貴重な体験になるんです」


 目をキラキラさせて夢を語る彼女が、純粋に眩しく見えた。


 夢を持っているのは良いことだな。


「この赤い本の手触りは素敵ですね。装飾も色に合っていて……」


 純粋に見えていたのに、どんどん不純物が混ざっていってる気がする。目のキラキラがギラギラに変化しているし、傍から見たら完全に危ない人だ。


「あの、そろそろ良いですか? 行くところがありますので」


「ああ! これはすいません。つい興奮してしまって。本の作成は彼との夢だったんです。懐かしいです、あの時は――」


 まずい。これは長時間コースだ。強引にでも本を取り戻して、離脱しないと。


 と思っていた時だった。アルマが見せてくれた時のように両方の本が光ったのは。


 え、恥ずかしい過去でも思い浮かべたのか?


「今、本が光ったような」


「あ、朝日に反射して輝いたように見えたんでしょうね。ちなみに、今恥ずかしい過去とか思い出したりしました?」


「え、いえ、彼との思い出に恥ずかしいことはありませんから」


 普通に惚気られた。これも天然なんだろうな。


「すいません、時間を取ってしまって。本は返却します。ありがとうございました」


 本を俺に返したリアさんは、足早に教会の中に入っていった。


 急いでいたせいもあるのだろうが、その短い距離で何度か転んでいた。


 舗装されている道で転ぶとか、さすがドジっ子。天然に負けまいとアピールするその姿勢は立派だ。故意ではないのだろうけど。

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