理由
「それで本当に良いんですか? 王都に行く選択をしなくても」
「男に二言は無い」
思考停止して提案を受け入れたわけではない。提案してくれた仲間のことを信じて決めたことだ。
きちんと自分でも考えた結果、魔王の元に行く選択をした。……少しだけ、そう少しだけ未練はあるが。
「言葉だけを聞けば、格好いいことこの上ないわね」
アルマにしては言葉のチョイスが辛口。って、この声は!
この場ではありえない声に驚き、聞こえてきた方に顔を向けると、こちらからは死角になっている椅子の影から、居城に帰ったはずの魔王が姿を見せた。
「は? え、なんでここに?」
「今まで私たちの認識はあなたにとって敵だったんでしょう? 言葉ではなんとでも取り繕えるし、人間ならそう簡単に考えを変えるなんてできないと思って、帰ったフリをして待機していたのよ。二人っきりにしたときのあなたの反応が見たくてね。なのに、初めに聞いたのが痴漢の心配? 正直、私何やってるんだろうって気持ちになったわ」
再登場時の声に覇気を感じられなかったのは、やさぐれていたからか。
「そんなこといわれてもな。これが俺の素なんだから、どうしようもない。だから、そのことに対しては謝らない。でも、さっき胸を揉んでしまったことは謝るよ。遅くなったけど……、ごちそうさまでした!」
「……また気絶したい?」
ちょっとしたジョークのつもりだったんだが、そんなに睨まないでくれ。
明らかに気絶だけで済まなそうな気迫に態度を改める。
「すいませんでした。ちなみになんだが、さっきはどうやって気絶させたのか聞いても?」
「能力に決まっているでしょう。私たちは魔法を扱えないし、こんなにもか弱い私がそれ以外の力で頑丈なあなたを昏倒させられると思う?」
仮にも魔王と呼ばれている身で、か弱いとか冗談にしか聞こえない。
「か弱い女性には無理だと思う。ところで能力ってなんだ?」
「なにか含みのある言い方をしたわね。……まあ、いいわ。それにしても、今まで能力を知らないで生活できていたことに驚きだわ。よく死ななかったわね」
「おかげ様でな。死にかけたりはしたんだけど?」
「あの時は状況がよくわからなかったのよ。アルマから連絡は受けていたけれど、監視のために派遣した幹部のウルジナスが昇天してしまって、犯人であるあなたを怪しんでいた結果なの。いきなり森の中に走ってきたと思ったら、即戦闘をしたあなたが悪いわ」
やっぱりあれは俺の仕業だったのか。お酒に酔っていたからか、全然記憶に無いんだよな。
「能力の説明はまた今度してあげる。さて、男に二言は無いと言い切ったソウイチ君。誘った身としては私たちの元に来てくれるのは助かるのだけれど、そうなった場合の立ち場を理解しているのかしら?」
笑みを浮かべてはいるが、目を見てみると真剣そのものだ。椅子の肘掛け部分に腰を下ろし、そう問いかけてきた。
スカートの中が気になる。――いやいや、今はふざけてるような空気じゃない。しっかりしないと。
「人類の敵側になるってことだろ?」
「あら、その点は理解しているのね」
「そんなに目を見開いて驚かなくても良いと思うんだが」
「なら、どうして? 日本人なら人を殺すことに忌避感を持っているはず。そんな殺人者の元へ来る理由は?」
人殺しは良くない、いや絶対ダメなことなのは理解している。理解して考えた上で判断した。
「それでもその選択をしないといけないって思ったんだよ。理由は三つある。一つ目は世界を守るためだ」
「そんな高尚な考えを持っているとは思えないのだけれど?」
茶々を入れないで欲しい。自分でもおかしいとは思っているが、心の中に焦りにも似た感情があるのは事実なのだから。なにに焦っているのかは不明で、モヤモヤしている状態だが……。
三本の指を立てて、魔王さんに説明を始める。
「魔王さんが話していた時の言葉から推測した結果だ。自分たちのことを神の復活を止める側だって言っていたよな。つまり、違う勢力で復活させる側がいる。しかも、その勢力は魔王側と同等か、それ以上の力を持っている」
神がいるのなら、天使が存在するはず。王都で戦ったバーテルのような存在が。きっと、違う勢力はそいつが筆頭だろう。そんな相手に俺たちだけで立ち向かうには戦力的に厳しい。
「あの噂はデマだとしても神が復活したら、世界が危ないのは事実なんだろ?」
「ええ、そうね。そのためにも不足してしまった戦力が欲しいところよ」
好きで不足させたわけじゃない。こっちにだって理由があったんだ。
人差し指を折り曲げる。
「二つ目は、時間の問題」
「……へー?」
「アスト=ウィーザが復活するきっかけになったのは、その封印されている神が干渉したから。そして、その封印は解けそうになっているんじゃないか?」
「それは女神から聞いたの?」
「封印関係は聞いていないけど、あの剣野郎が復活した時に影響を受けた的なことを言っていた。完全に封印されているのなら、そんな干渉はできない。魔王さん方が人類の敵になって以降、他に神が創造されたとは考えづらいし、そんなぽんぽん神が封印されてるとは思えない」
これは確信を持って言え……あれ、どういった封印なのか知らないはずなのに、なんで干渉できないなんてこと言えるんだ? 自分のゲーム知識によるものなのか? ……でも、確信はあるし。
「そうね、少なくとも他に神が封印されているというのは聞いたことがないわ。質問良いかしら? なぜ、そこまでしてこの世界を守ろうという気持ちがあるの? この世界に来て、そんなに時は経っていないでしょう?」
自問自答して首をひねっていると、そんな質問が飛んできた。
確かにその疑問は最もだ。けど――。
「この世界で産まれたわけじゃないし、長く生活していたわけでもないけど思い出があるんだよ。異物はこの世界から消えないといけない。それは理解した。けど、元の世界に帰るにしても、めちゃくちゃにした後というのは嫌だからな」
「だからこちら側に来る、というよりも私たちと利害が一致しているから協力する、に近いということかしら」
中指を折り曲げながら、首肯する。
「それで、三つ目は?」
最後に残った指を折り曲げ――。
「なんとなく?」
「……理由は二つだけね」
「ソ、ソウイチ……」
二人とも呆れ顔になって、こちらを失望したような目で見てきた。
「ま、待ってくれ! 本当にそういう気持ちなんだって! なぜか、協力しないといけない気持ちがあるんだって! 自分でもよくわかってないんだけど!」
「はいはい。少し見直していたのだけど、錯覚だったようね」
人の目の前でため息をつかないで欲しい。この気持ちは偽らざる本心なんだよ。




