超逆サバ
「な、なあ、もしかしなくても俺って常識人に見えなかったりする? 変な筋力を除けば、普通の人間としての行動をしているよな?」
隠し通せていたと思っていたのだが、周囲からはばればれだったのだろうか。
「え、えーっと。その……」
アルマの目が俺に向いていない。上に移動したり、下に移動したりと視線がバタフライみたいな泳ぎ方をしている。
オーケー、理解した。
「いや、やっぱり言わなくていい。言わんとしていることは、理解できたから」
「あ、はい」
俺たちの中で常識人側に位置しているであろうアルマから見て、異常だと思われていたのはなかなかにショックだ。
なにがいけなかったのかがわからないのは、俺が馬鹿だから故なんだろうな。
「それで、その、ソウイチはこれからのことをどう考えてますか?」
「ああ、うん、そうだな。王都で活動するか、魔王さん側の方に行くか、この街に残るか、はたまたどこか別のところに向かうかを考えないといけないんだよな。参考までにアルマの考えは……」
「王都に行くのだけは反対です。ただ、私としてはみんなで魔王さんの元に来て欲しいと思っていますよ」
まあ、そうなるな。でなければ、こんなタイミングで会わせる理由がないし。魔王さん本人から勧誘のお話を持ち掛けられるはずもない。
「そこまで反対する根拠を聞いてもいいかな? それとも、それも自分で考えないと駄目だったりする?」
元々、アルミラも不審に思っていたので頭の片隅には留めていた。だが、聞く限り王都での活動は魅力的だ。冒険者という組織におけるトップクラスからの援助を受けられるし、後ろ盾にもなってくれると言っていた。しかも、ディアナさんから好かれている。
正直、この選択は難しい。
「……この本を覚えてますか?」
アルマは少し悩む素振りを見せた後、近くにあったバッグからどこか見覚えのある本を取り出した。それは全体的に赤みがかった色と角部分に銀の装飾が施されている。
いきなりどうしたのかと疑問に思ったが、きっと意図があってのことだろう。
「確か、恥ずかしい過去を思い浮かべるとその内容がランダムなページに転写される本だったよな。王都への道中でカンナさんたちも交えて遊んだやつ」
「そうです。ですが、それだけの魔道具ではないんです。こちらにもう一つ同じ装飾の本があります。この二冊は対になっていて、まだ説明していない機能があるんです」
さらに取り出したのは、全体の色が青いことを除けば同一の装飾が施された本だった。
「赤い方は強く脳裏に描いた一つだけの秘密が書かれます。対して、こちらの青い方はこの世界での経歴が全て書かれます。試しにやってみた方が早いですね。ソウイチはこちらの青い方を持っていてください」
論より証拠ということで実演してくれるみたいだ。
「最初に中身が空白であることを確認してください」
「……全ページ真っ白だな」
「では、一度閉じてください」
青い本をアルマから受け取り、ぱらぱらとページをめくる。全ページが空白であることを確認した後、指示通り本を閉じた。
「では、早速」
赤い方を持っているアルマが目を閉じ、あの時と同じ光が本から発された。両方から。
え、俺は秘密を思い浮かべてないんだけど、なぜこちらの青い本からも光が?
「適当なページを開いてみてください」
「俺の持っている方で良いのか?」
「はい」
言われるがままに、適当なページを開くと文字がびっしりと描かれていた。
「今思い浮かべた秘密はこちらのどこかに書かれていますが、ソウイチの持っている本には私の経歴がすべて書かれています。わかりやすく言うと、赤い本でその人の情報を入手・送信し、青い本で受信・解析するといった魔道具だったんです」
「赤い本に一つだけ秘密を残すのは、この機構を隠すための偽装というわけか?」
「はい、その通りです。そして、このやりとりはどんなに離れていてもできます」
個人情報を簡単に盗めるとか、やばい代物だな。
「原理を説明しますと――」
懇切丁寧に原理を語り出してくれたアルマには悪いのだが、俺の頭で理解することはできなかった。魔力自体がちんぷんかんぷんの概念なのに、それを応用したものなんてわかるわけがない。
申し訳ない気持ちになりながらも、適当に相槌を打って誤魔化す。話を中断させる選択肢はありえない。なぜなら、さっき開いたページで偶然見つけた一文。
『実年齢二百十歳。ギルドカードに記された年齢二十一歳は、虚偽である』
年上のお話を途中で止めるとめんどくさいことに……失礼だからな。
それにしても、サバを読みすぎ。普通は2、3歳? 良くて10歳くらいなんじゃないのか? それが10倍って……。
うん、見なかったことにしよう。きっと、その方がお互いにとって幸福だ。
「――という事実がわかったんです。カンナさんたちの経歴がわかったからこそ、今の王都に行くのはあまり得策とは思えません。どうでしょうか、ソウイチ」
「はい、わかりました。魔王さんの元に行こうと思います」
「え? ……あ、はい。ソウイチが決断してくれて嬉しいです。ですが、どうして? 悩んでいたと思うんですけど」
「仲間を信じるのは当然のことですから」
「あの、どうしていきなり敬語に?」
「お気になさらず。あ、これ返します」
「は、はあ……あ」
あ、開いていたページをそのままに返却してしまった。
「すいません。ソウイチの敬語は気持ち悪いので、普通に戻していただけると。私は二十一歳でソウイチよりも年下なんですから。年下なんですから!」
「……お、おう」
有無を言わせない態度に頷く以外の行動ができなかった。
女性という生き物がわからない。どうしてそこまで年齢にこだわるのか。本当にわからない。




