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おあいこ

「これで私からのお話は終わり。まだ話していないことはあるけれど、それはこちら側に来てくれると約束したらにしましょう。情報の価値を知らないわけではないでしょう?」


 こちらの世界に来る前の記憶を思い出そうとしていると、魔王の少女は手をパンと打ち鳴らし、話はこれでおしまいだと告げてきた。


 え、アルマとの関係についての説明は無しなのか? ぶっちゃけ、神とかの説明よりもそっちの方が気になるんだが。


 顔をじーっと見つめてみるも本当にこれ以上話す気はないらしく、口を閉ざしたままだ。


 本当に終わりなのか? 次から次へと疑問が出てくるのに解答は無しなのか?


「ま、待ってくれ。あんたたちの元に行くメリットとか、今まで俺を殺そうとしてきたくせになんで今更とか、アルマとの関係についてとか、説明してくれないのか? あれだけじゃ、納得することなんてできないぞ」

 

「勘違いしないで欲しいのだけれど、私が今日この場を設けたのはアルマのお願いを聞いたから。あなたを助けたくて、話をしにきたわけではないのよ。納得させる気も最初からない。ただ、選択肢を提示しにきたに過ぎないの。あとは、自分で考えなさい」


 自分で考えろと言われても、情報が少ない状態でどう考えれば良いんだよ。


 俺が悩んでいると、魔王の少女は荘厳な椅子から立ち上がり、ベッドの横に置いてあった等身大の鏡に移動してきた。


 いきなりどうしたのだろうか。


「あ、手伝いの内容を言ってなかったわね。すっかり忘れていたわ」


 鏡に向き合ったかと思ったら、顔だけこちらに向けた。位置的に見下ろされている状態だ。


「一番大事なことを忘れないで欲しいんだが」


「ごめんなさいね。でも、簡単なことよ。私たちの邪魔をしないことを約束してもらうのと、来るべき時の戦力として協力して欲しい、というところかしらね」


「戦力? その人工の神とやらと戦うためのか?」


「その部分もこちら側に来たら説明するわ」


 なんでもかんでもお預けの状態はよろしくないと思う。


「説明されないのを不満に思っているようだけれど、そんなぽんぽん情報が与えられると思わないことね。少しは考えることも大切だと思うわよ」


 言葉だけを聞くと厳しめに感じるが、目だけはなにかを期待しているように感じられた。


 自力で答えにたどり着けってことか。


「返事はアルマに伝えてくれればいいわ。では、ごきげんよう。今度会う時は敵同士でないことを祈ってるわよ。できれば、同郷の人を手にかけたくはないの」


 そう言い放ち、爪の手入れがきちんとされている指で鏡を突っついた。途端に、鏡はその場所から波打ちを始め、数秒して違う風景を映し出す。


 この宿屋と同じ木製の一室。けれど、明らかに違う雰囲気を醸し出しているその部屋は。


「日本の家?」


 そう錯覚させる懐かしさがあった。新築のような綺麗なフローリングの上に置かれているのは、どう見ても日本の一般家庭にある家具にしか見えない。こちらの世界には無い、高い水準で構成された洋室のように感じられた。


 俺の問いに答えることはなく、鏡の方に歩いていった魔王の少女はすーっと吸い込まれるようにして消えてしまった。その直後にまた鏡は波打ち、収まった頃には元々の機能に戻っていた。


 どうやらこの鏡も魔道具だったらしい。状況からして、転移の魔道具か。日本の家のように見えたのは、望郷の念から似せたのだろう。


 考察して気を紛らわしていたが、現実に戻らないといけない。なにより、これ以上の沈黙に耐えられない!


 いつもだったら、アルマと部屋で二人きりというシチュエーションにテンションは爆上がりだっただろう。しかし、さっきのことがあるとどうしても考えてしまう。


 自分で考えろ、か。


「なあ、アルマ。さっきの魔王のことだけど」


 自分の中で考えたことを整理しながら、アルマに問いかける。


「……はい」


 重々しい空気を携えたアルマの返答を聞き、


「お義母さんということは、お義父さんもいるのかな? 俺、胸触っちまったんだけど、大丈夫かな? 訴えられないか、さっきからすっごい不安なんだけど。もしかして、痴漢になるのかな?」


 考えていたことをぶちまけた。


 これだけは俺だけじゃわからないから、聞くしかない。考えるにしても限度がある。


「まずは不安要素から片付けていくべきだと思ったんだ。懸念事項があるとこれからの考えもまとまらないからな。どうなんだ? アルマ」


 アルマの顔はきょとんとしていた。きっと、言われるだろう内容が自信の予想していたものとかけ離れていたから、呆気にとられたのかもしれない。しかし、これを第一に聞いておかないといけないんだ。


「え、えーと、お義父さんはいません。私が知る限り、お付き合いしているなんていうお話は聞いたことがありませんから」


 ほっと、一安心だ。後で慰謝料とか請求されたら叶わないからな。他人の女に手を出すほど、落ちぶれてはいないつもりだ。


「あ、あの、他に言うことはないんですか?」


「他? えーっと、あの魔王さんとは血のつながりはないんだよな? まさか、未亡人とか」


「いえ、それもありません。男性経験はないと言ってましたから」


 おっと、すごい情報が飛び出してきたぞ。さっきの話から推測すると、年齢は軽く四百を超えているはずだ。にもかかわらず、純潔を守り通していたとは恐れ入る。


 さすが異世界だ。ロリババアならぬ、JKババアがいるとは。


「いえ、そんなことでもなくてですね」


「騙していたことを怒っているんじゃないですか、って?」


 こくんと頷くアルマに対して、


「俺の胆力を甘く見過ぎじゃないか?」


 入室前にも言ったセリフを告げた。


「人間、秘密の一つや二つは誰だって持っているもんだ。それに騙すって言っても、罠に嵌められたわけでもないし、怪我をしたわけでもない。なら、怒る必要はないだろ。むしろ、今の状況を考える良いきっかけになったと感謝すべきだ」


「ですが、秘密の大きさは――」


「秘密に大きいも小さいもないだろ。そんなに気に病むなら、俺の秘密をここで暴露するとしよう。それでおあいこってことで」


「え、えっと」


 アルマはおろおろしている様子で、言い返そうとしても良い言葉が見つからない状態になっていた。ならば、思いつく前に言ってしまえばこちらのものだ。


「実はな、俺は頭があまりよくないんだ。今まで必死に頭の言いフリをして秘密にしていたが、実際は馬鹿なんだよ」


「はあ……あ、はい。……え、ええ! そ、そうだったんですか!」


 今日一番、傷ついた反応をされたかもしれない。


 最初に「何を当たり前のことを言ってるんだ」という疑問顔から、驚かなくちゃみたいな無理矢理な反応は心をえぐった。


 なにより傷ついたのが、馬鹿だと見抜かれていたことだった。


 これまでに変な言動は、それほどしてなかったと思うんだが。

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