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真実

「見た目というのは年齢だけじゃないんだけど、まあいいわ」


「人の心を勝手に読まないで欲しい。俺ってそんなに顔に出るタイプかなあ?」


 ベッドの横に置いてあった等身大の鏡に顔を映しつつ、思案気な顔を作ってみる。


 うーん、よくわからん。


「あなたがお気楽脳であることがわかったから、長くお話はせずに簡単に伝えることにしたわ」


 誰がお気楽脳だ。変な造語にするんじゃない。


「理解しやすいようにまとめると、王都に行かずに私たちの元に来て手伝いをしなさいってこと。そして、一緒に日本に帰りましょう。いきなりこんな世界に来てしまったんだもの。あなただって故郷が恋しいでしょう?」


 目の前の魔王は優しく問いかけてきた。頭が悪い子供を諭すような感じではない。同じ志を持つ者として、迎え入れるという雰囲気だ。


 さっきまで散々な言葉でなじっていたくせに、いきなりそんな様変わりされると反応に困る。


「要約してくれたおかげで、すんなりと理解することができたよ。だけど、誤解とやらがあるんだろ? 今のままだと、了承することなんてとてもじゃないができないぞ」


「そうだったわね。ちなみに、あなたは私たちの存在をどう思っているの?」


「邪神を召喚して、世界を滅ぼそうとしている悪者。あとは、幹部を使って人を殺しているといった認識だな」


 アルマの手前、はっきりとは言いたくないが仕方ない。誤解を解かないことには、信じることができないからな。


 ちらっとアルマの様子を盗み見るが、俺の言葉を聞いても特段変わった感じはない。お義母さんと言っていたくらいだ。ひどい言葉を言えば傷つくのではという心配があったが、どうやら杞憂だったようだ。


「まず、邪神というものが『あれ』のことを指すなら、答えは否よ。私たちはどちらかというと復活を止める側ね」


「『あれ』?」


「その昔、人々の祈りによって産まれてしまった人工の神、名称が無いから私たちは『あれ』と呼んでいるわ」


 人工の神……絵本に描かれていた存在は実在していたのか。そういえば、クレアシオンという組織のリーダーもそんなことを言っていたな。実例があるって。


「それと、世界を滅ぼそうとしているのは私たちではないわ。神託を聞いたからだと思うけれど、あれはこちら側が意図的に流したデマよ。さっきも言ったけれど、私たちの願いはただ一つ。日本に帰ることのみ」


 平坦な声音を意識しているようだが、日本に帰るという言葉には強い意志があるように感じられた。


「魔王は全員が日本人で、四人とも帰郷を望んでいるってことで良いのか?」


「その通りよ」


 嘘は言ってないみたいだけど、さっき忠告されたばかりだからな。判断に迷う。


「次に人を殺している理由については、過去の出来事を再現しないために、が適当かしら。デマを流したことにも起因しているけれど、人同士の争いを極力避けるためよ。そのために魔物も作ったし」


「……え、魔物を作った?」


「正確には、元いたこの世界の生物に干渉して巨大化させただけ、だけれど。それでも普通の人からしたら、十分脅威足りえる存在になった」


 今のような魔物は元々この世界には存在していなかったのか。……あれ、この話どこかで聞いたような。


「王都でカンナさんがおすすめしていた本の通りということですよ、ソウイチ」


 疑問に思っていると、アルマが答えてくれた。


 あ、なるほど。と納得できれば良かったんだが、タイトルしか知らないんだよな。結局、読めなかったし。


「その本なら私も読んだけれど、よく考察されていたわ。過去の文献はほとんど消失しているはずなのに、答えを導ける人間の好奇心には驚かされたものよ。私たちのいた世界とこちらの世界、人の根源的なものは変わらない証拠ね」


 そういった少女の目はどこか遠いところを見ているように感じられた。だが、それも一瞬のことで。


「あなた、ソウイチって名前だったわね。突然だけど、クイズよ。私たちが極力人同士の争いを避ける必要があったのはなぜか、わかるかしら? 今までのことから、推測できると思うのだけれど」


 気分を変えるかのように明るい語調で問いかけてきた。


 突然のことに戸惑い、考え込む。


 いきなりそんなことを言われても。


「……人同士でなく、敵意を魔王側に集中させる必要があった。それはなんでか。人工の神は人々の祈りで産まれる……。新しい神の創造か!」


 絵本が真実なら、昔に造られた神は封印されているということ。目には目を、神には神を。新しく造った神で戦おうとしていたんじゃ……。


「違うわ」


 良い推測だと思ったんだけどな。


「敵意をこちら側に集中させてはいたけど、多くの人間に絶望を与えないように注意していたのよ。正解はあなたの考えとは真逆。これ以上の神を創造することへの抑制よ」


 そんな馬鹿を見るような目はやめて欲しい。これでも、一生懸命考えたというのに。


「この世界は未だに不安定なの。だから、簡単に神を造ることができてしまう。戦争なんて起きようものならすぐにね。それもこれも、異物が紛れ込んでいるから」


「異物?」


「私たちのことよ。この世界の住人でないのに、ここに存在しているのはおかしいでしょう?」


 俺たちのせいで世界が不安定になっているなんて、そんなことあるのか? たった五人の日本人が影響を及ぼすなんて。


「事実よ。なによりも封印されている神がいる。あなたには知覚できないでしょうけれど、私たち四人は『あれ』のことを知覚できる。創造されてしまった場に居合わせ、戦ったことでつながりができてしまったからでしょうね。名前を盗られたままなのも一因でしょうけれど」


「名前を盗られた?」


「さっき言ったでしょう? 今は本名を名乗ることができないって。思い出そうとしても、無理なのよ」


 あれはそういう意味だったのか。にしても、名前を盗られるって……さすがは神、なのか?


「疑問に思ったんだけど、そのつながりがあるままで日本に帰れるのか?」


「帰れないわね。だから、今の女神に協力してもらってるの。なんとかつながりを絶つことができないかを調べてもらってるわ。それまで復活を阻止しているのが現状よ」


 女神様も忙しいんだな。アスト=ウィーザの一件以来、お守りに話しかけても音沙汰がないのはそのせいか。


「つながりを絶ち、名前を取り戻せればそれで終わり。元いた世界に帰るの。もちろん、あなたも。この世界にいてはいけない。あなただって、故郷が恋しいでしょう?」


 故郷、か。日本の知識はあるのに、なぜかそこで生活していた記憶が無いんだよな。

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