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邂逅

 心に点在していた暗い闇の部分は、ミリカという同士を得たことですっかり吹き飛んでいた。


 痛みを共有することで、トラウマは成長への糧として昇華できる。なによりも、俺は一人じゃないことを認識できたのが大きい。孤独でなくなる、この気持ちはすさまじい力となる。


 あの毒女は魔王の幹部だし、次に遭った時は戦闘になるだろうが、私怨無しでの純粋な正義として戦えそうだ。世界を救うため、絆でつながった仲間と協力して魔王を倒す。なんて、熱い展開なんだろう。


「ソウイチたちがなんで感動していたのかは知らないけど、変な方向にねじ曲がっている気がするわ。勘だけど……」


 失礼な。今の俺はまっとうな思考回路をしているというのに。


 強敵に敗れて、あわや精神的に死ぬ――きっと、あのままでは闇落ちをしていた――ところを仲間の言葉で立ち直った主人公みたいな純然とした場面だぞ。


 よくあるバトルモノの漫画で恨みを持ったまま敵と戦闘すると、被害が増えるというお約束を未然に防げたんだ。けっして、変な方向ではないと断言できる。




 清々しい気分となり、お食事処を後にした俺は、その足で魔道具店に向かいたいことを二人に伝えた。


 王都勧誘の件における結論は出ていないが、俺たちだけで話し合っていても良い答えは出せないと思ったので、気分転換も兼ねての提案だ。


 アルマとの約束までまだ時間はあるし、実験台になるにしても魔道具について勉強しておこうという勤勉さも含んでいる。……少しだけ、どんなことを試されるかの恐怖心も混じっているが。


「いいわね。私も買いたいものがあったのよ」


「私もそろそろあれを補充しておきたいと思っていたところです。ちょうどいいですね」


 二人が何を買いたいのかが、手に取るようにわかる。意思疎通もカンペキな証拠だな。


「いらっしゃーい……って、話題の中心人物たちじゃない」


 昼間はがらがらの魔道具店に入ると、気だるげに挨拶をしていたリフェルがこちらを見るなり、にまーっと笑みを浮かべた。新しいおもちゃを手に入れた子供のような印象を彷彿とさせる、そんな笑みだった。


 今度は何を企んでいるのやら。


「あいかわらず、人がいないんだな」


「ちょっとー、私の店のことを、人気が無いみたいに言うのやめてよね。これでも、超黒字なんだから。王都にも支店出してるくらい儲かってるのよ。さすがに、魔王の幹部を倒した報奨金に比べたら少ないけど。あ、王都に行くなら、ぜひ利用してね。人の多い王都に進出したにもかかわらず、なぜかここよりも売り上げが少ないみたいなのよ。競争が激しいのは重々承知しているけど、不思議なのよねー」


 首を傾げて、心底不思議そうな顔をしているリフェル。


 あの弟さんが運営していたところだよな。理由は明白なんだけど、正直に言うと人の身体的特徴を非難することになってしまう。それは避けたい。けれど、他に悪い点は見つけられないし……。


 顔が怖いなんて、姉であるリフェルには言えないよな。


「やっぱり、顔が怖いからかしら。商売で必要なのは記憶に残ることだから、きっといけると思ってたのにー」


 わかってたのかよ! 記憶に残るったって、あれは下手するとトラウマものだぞ!


「……王都に行くことになったら、利用させてもらうよ」


 一消費者である俺から言えるのは、これくらいだ。


「それで今日は――」


「リフェル、これ頂戴!」


「私にもこれを下さい!」


 リフェルが俺に用件を聞こうとしていたのを遮り、二人は手に持った籠を、中の瓶が割れないよう配慮した動作でカウンターに置いた。


 もはや予想通りとはいえ、中毒になっていないか心配になってくるレベルだ。あのポーションには変な副作用とかないんだろうな?


 リフェルは俺の懐疑的な視線から逃れるように、この店の売り上げに貢献している二人に顔を動かし、微笑みながら、


「まいどありー」


 ゆっくりとした動作で、しかし手際よく精算を済ませていた。


「ソウイチ、アルマからは一人で来て欲しいって言われてるけど、くれぐれも変なことはしないようにね。あと、王都に勧誘されたこともきちんと伝えるのよ。また明日にでも話合いましょうって、ちゃんと言うのよ?」


「そこまで念を押されなくても、忘れずに伝えるつもりだ。魔道具の実験をする前に言うから、問題ない」


「明日の話合いの場所は教会の個室にしましょう。師匠に言って、貸してもらえるように頼んでみます。きちんとした飲み物も出ますから、そこのところもアルマに伝えておいてくださいよ。あと、変なことはしないでくださいね」


「わかった、わかった」


 おまえらは俺の母親か。そして、なぜ二人して俺がアルマに対して、変なことをしないか心配するんだ。俺は仲間を大切にする男だぞ、節操のない変態じゃないんだぞ。


「いやー、青春してるね。若者たち」


 はははと笑いながら、言葉を口にしているがリフェルも十分に若く、前に言っていた情報が確かなら二十代だ。全然、現役で青春だろうに。


 「また明日ね」と魔道具店を後にする二人を見送り、本題である魔道具の基礎知識をリフェルに聞いてみたが、さすがに無料でとはいかなかった。知識は財産なのだから、当然といえる。


 お金ならあるし、多少高くても問題は無いと言おうとしたら、


「お金の代わりに、Sランク冒険者の人たちの話が聞きたいなー」


 と所望された。会って間もないから大した情報は持っていないのだが、直に会った人からの話が聞きたいとのこと。

 

 それならと話し出したら、意外にも盛り上がってしまい、お客が来る時間帯になってしまった。


「ごめんね。魔道具のことについては、また今度教えたげるからー」


 一気にお客で溢れかえった魔道具店から出るときに、奥からリフェルの忙しそうな声だけが聞こえた。今日の夜までに必要だったのだが、仕方ない。

 

 良い時間になったことだし、アルマの宿を訪ねることにした。


 夕食は食べていないが、もしかしたら実験の最中で食べることになるかもしれない。よしんば、アルマの手料理でも食べられたらいいなと考え、抜いていくことにした。


 魔道具に関しては知識ゼロだが、呼んだ本人から説明を受けるだろう。悲しいが俺に対してはそういった知識は期待していないはずだ。


 宿の従業員さんに取り次いでもらうと、やけに真剣な顔をしたアルマが階段から降りてきた。危険な実験でもするのかと、身構えてしまうほどだ。


 え、ちょっと待って、もしかしたら基礎知識くらいはあった方がよかったの? 今日の夜に指定してきたのは、勉強時間を設けたから?


「よく来てくださいました。私の部屋はこちらです」


 異様な雰囲気のアルマに気圧され、導かれるままに着いていくと、二階の奥にあった部屋の前に到着した。危険そうな実験である可能性にドキドキしていた心臓は、今度は違う意味で早鐘を打つようになった。


 女性の部屋である。私室兼寝室である。そして、夜である。


 たとえ、変なことは起きないとしても、ドキドキするのが男という生き物だ。


「どうぞ、入ってください」


「う、うん……」


 ごくりと生唾を飲み込み、深呼吸をしてから扉に手をかける。返事が俺にしては、控えめなのは緊張しているからに他ならない。


 ガチャリと、扉を開けると、目の前には……。


「初めまして、ソウイチ君。同じ日本人として、少しお話の機会を設けてくださるかしら?」


 紺色のブレザーに身を包んだ、見た目女子高生の少女が椅子に座って、こちらに笑みを向けていた。足を組んでいるため、魅惑の白いふとももが眩しい。


「ああ、自己紹介がまだだったわね。今はまだ本名を名乗ることはできないけれど、肩書だけでも伝えておきましょうか」


 突然のことに固まっていた俺に、その少女は笑みを絶やさぬまま自己紹介をした。


「この世界では、『西の魔王』と呼ばれている者よ」


 仲間が泊まっている宿屋の部屋を開けたら、世界を滅ぼそうとしている魔王に遭遇した件。

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