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獣人

『おう、随分遅かったな……どうした?』


「いえ、世の理不尽さを思い知っていたところです。……蔵書整理終わりました」


『おう、ご苦労さん。カウンターの方に行けば司書のじいさんがいるはずだから、報告しといてくれ』


「了解しました。では、失礼します」


『何があったか知らねーが、元気出せよー』


「ありがとうございます」


 本に励まされるという貴重な体験をしつつ、倉庫を後にした。


 司書さんにクエスト完了の書類を貰い、外に出たら夕方になっていた。


「結構長い時間図書館にいたんだなー」


 もう、今日はクエストの達成報告して宿で休もう。


「あ、衛兵さんに借りたお金返しておこう」


 とりあえず冒険者ギルドに向かうか。



 冒険者ギルドに向かう途中で昨日の衛兵さんに偶然出会うことができた。ちょうど良かったのでお金を返金した。


 そして、冒険者ギルドで無事クエストの達成報告が終わった俺は宿に向かっていた。


「えーっと、こっちだったか」


 冒険者ギルドにおすすめの宿の場所を聞いていたので、迷うことなく歩いていく。


「……あった。”くつろぎの宿”」


 苦労なく見つけることができた。


「さて、定番では綺麗なお姉さんか恰幅の良いおばちゃんが受付だが……」


 綺麗なお姉さんであることを祈ろう。もうこの際、既婚でもいい。目の保養になるのなら……。


 少し期待して宿の扉を開けると、


「いらっしゃいませ。当店”くつろぎの宿”へようこそ!!」


 普通の男性が受付をしていた。


 ……ですよねー。


 とりあえず、1週間お世話になることにした。




 そして、翌日冒険者ギルドに来た俺だったが、まだゴンドさんたちは来ていなかった。


「早めに来すぎたかな? まあ、待ってればいいか」


 冒険者ギルド内に設けられている椅子に座り、他の冒険者を観察することにした。


「こうして見ると、色々な人がいるんだな」


 昨日は登録したてということもあり、ゆっくり見ていなかったが。


「剣、弓、槍、杖……異世界の定番がそろってるなあ」


 装備を見ているだけでも、その人の個性が出ているようでおもしろい。


 それに。


「おい、聞いたか。西の森でポイズンバタフライが蛹から羽化した痕跡が見つかったらしい」


「それは知らなかった。気を付けておいた方がいいな。毒消し多めに買っておくか」


「そういや、昨日教会からすごい轟音が響いていたな」


「教会……また、あの魔術師さんが何かやらかしたのか?」


「北の小高い丘で不審な人影を……」


「図書館で魔導書が暴れて……」


 朝のギルド内は冒険者同士の情報交換の場になっているようで、ただいるだけでも色々な話が聞けてとてもお得だ。


 ネットなんてこんな異世界には無いし、必然的にみんなで集まっての口頭伝達になるんだろうな。


 ……なぜか、聞いたような話ばかりだが。


「ねね、そこに座ってる君」


 他の冒険者の話を聞いていると、突然呼びかけられた。


「はい?」


 視線を話しかけてきた人物に向けると、獣人の女性がいた。


 獣人! 異世界テンプレキター!


 その女性の頭には犬の耳があった。顔は人間のそれと変わらないのに、頭にあるというだけでこの破壊力。さすが、異世界。


「君、見ない顔だけど、新人? 良かったら、私たちと一緒にパーティー組まない?」


 なんと、魅力的なお誘い! この後の約束がなければ即決でパーティーに入ったのに。


「すいません。待ち合わせしている人がいまして……」


 くっ。断るしか選択肢がないなんて。


「そうなんだ。何かあれば先輩冒険者として頼ってね。私は、サラ。よろしくね」


「俺はソウイチです。これからよろしくお願いします」


 軽く自己紹介をした後、彼女はパーティーメンバーとクエストに行ってしまった。


 他のパーティーメンバーにも自己紹介されたが、獣人のサラのインパクトが強すぎて野郎の名前は覚えられなかった。


 目の保養になったな。眼福、眼福……。


 と、癒されていた俺にまた声がかかった。


「お、もう来てたのか。若いのに感心だな」


 アルミラとミリカを連れたゴンドさんが歩いてきていた。


「おはようございます」


「おは……? 何だって?」


 挨拶をしたが、こっちの世界にはないらしい。


「あ、気にしないでください。……村の風習で挨拶みたいなものです」


「ほーん」


 4人いるので、テーブル席に移動してから話し合いを始めることになった。

2017/7/3 誤字・脱字修正しました。

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