誘い
「ちょっと、扉の前に立ちっぱなしだと私たちが入れないわよ」
愕然としていた俺は、アルミラの言葉で現実に戻った。
いや、考えすぎだ。あの眼光に不穏なものを感じたのは、きっと俺の被害妄想でしかない。現に今は何も感じないし。
思考を頭の片隅に追いやり、ギルドマスターとSランク冒険者たちの前に置かれていた椅子に座る。俺たち全員が座ったのを確認すると、ダレンが口を開いた。
「さて、まずは昨日の昇級試験の結果から報告しよう。……二人とも合格だよ」
昨日の段階で聞いていたので、俺はさして驚くことはなかった。対して、ミリカはふうと安堵の息を吐いた後、平常時よりも口角が二割増しくらい上がっている状態で話の続きを待つ姿勢となった。
自信の塊ともいえるこの魔術師の少女がほっとしてにやけているなど、珍しいこともあるものだ。いつもだったら、「当然です」とか言って胸を張りそうなものだが。
「ソウイチ君は文句なしでDランクだね。きっちり魔物の情報を調べていたし、強さも十分過ぎるほどだ。……最後のは、もう少し頑張りましょうということで」
「ミリカも十分な知識を保有していた。詠唱無しの魔法もすごい……問題無しのCランク」
俺の評価をダレン、ミリカの評価をクラリッサさんがした。自分の尊敬している人物に高評価をもらえたことはミリカにとって、余程嬉しかったようだ。見たこともないくらい顔が赤い。
……ミリカの雰囲気がいつもと違う。というか、王都から帰ってきてからというもの、過剰な自己広告をしなくなった。
「二人が合格するのは信じていたから、当然の結果ね。けど、おめでとう。私も負けてられないわ。ミリカは同じランクだし、どちらが先に昇級できるか競争ね」
「ありがとうございます。アルミラには負けませんよ?」
「こっちこそ、ミリカよりも先にBランクに昇級してみせるわ」
二人の間で火花が散っているのを幻視した。険悪という雰囲気は微塵も無く、お互いに切磋琢磨している様は少年漫画のような熱い展開だ。
「おめでとう。これからの活躍を期待してるぞー」
そんな熱い少女たちとは対照的に冷めたような声音で語ったギルドマスターを見ると、こちらには一瞥もせず、手に持っている紙の冊子を眺めていた。
Sランク冒険者の方々は笑顔――象の獣人の表情は読み取ることができないが、雰囲気的に笑顔のはず――でこちらに拍手を送ってくれている。人望の差というのは、こういう積み重ねが大事だと思うんだ。
「さて、では本題に入らせてもらおうかな。もう聞き及んでいると思うけど、噂についてだ。遠回しな言葉は好きじゃないから、単刀直入に伝えるよ。僕たちと一緒に王都で活動してみないかい?」
真剣な顔になったダレンから、噂にもなっているお誘いの話がきた。
「一緒に活動するといっても、パーティーを組むというわけじゃない。拠点を王都に移して欲しいというのが正解かな。王都に来てくれれば、君たちが冒険者を行う上で不都合が無いよう便宜を図ると約束する。これでもSランク冒険者だ。色々と手助けできると思うけど、どうかな? 今なら、手続きは簡単なもので済ませられるよ」
あまりにも破格すぎる待遇だ。トップの地位についてる人たちが援助してくれるなら、これはもう出世街道まっしぐらで左団扇の生活まったなし。
ちらっと右横を見ると、ミリカも顔がにやけている。考えてることは一緒のようだ。
「……どうして、そこまでの好待遇なんですか?」
おや、珍しい。アルミラが敬語を使ったぞ。なぜか、表情からは警戒の色が見える。
何か気になる点でもあったのか。
「そんな身構えないで欲しいな。魔王の幹部を倒せるほどの実力者を迎えるのなら、これくらいは当然のことだろう? 君たちなら、僕たちが手助けをしなくても活動できると思うけど、違う土地では多少の苦労はするんじゃないかな。それに、これは強制というわけじゃない。蹴ってくれても構わない。ただ、国の中心で活動ができる、しかも僕たちの後ろ盾を得られる機会が目の前にあると思ってくれればいい」
訝しんでいたアルミラだが、ダレンの言葉と顔から裏がない事を悟ったようだ。先ほどよりも警戒の色が薄れたように感じる。それでも、まだ少しは警戒しているみたいだが。
「金銭に関しても、今は問題ないだろうけど、あるにこしたことはないだろう。ここも良い地域ではあると思うけど、王都の方がより稼げると思うし。クエストだって、ここよりは豊富で難易度の高いものもある。自分の可能性を広げるのにもつながると思うよ」
……ここは異世界なのに、なにこのすごい既視感。言われた内容は垂涎ものだが、日本人としては足踏みしてしまうような勧誘だ。アルミラほどじゃないにせよ、少し考えてしまう。
大丈夫だよな? 言ってる内容と王都に行った後の内容に違いは無いんだよな?
「ここにいるのは私たちだけですが、アルマも一緒ですよね?」
「当然。僕が誘ったのは、君たちのパーティーだ。全員一緒じゃないと困るだろう。今日はいないみたいだから、明日にでもお話はしたいと思っている。予定を開けておいてくれるように言っておいて欲しいな」
ミリカの確認に当然と頷くダレン。
アルマには今日の夜に会うし、伝えておこう。
「仲間と相談して、じっくり決めると良い」
「……もし、断った場合は?」
「どうもしないさ。機会を逃しただけになるかな。僕としては、ソウイチ君。君が欲しいというのが心の声だよ」
含みがある言い方をしないで欲しい。せっかく脳の片隅に追いやった思考が舞い戻ってきたじゃないか。
「私からもできれば一緒に活動したい、と伝えておきますね」
そして、ディアナさんからの言葉にその思考は脳内から完全に消え去った。
王都での活動も悪くないよな!




