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監視員

 喫茶店での食事が終わり、俺とミリカは再度冒険者ギルドに向かい、ギルドランクの再昇級試験の手続きを済ませた。試験を受ける前にギルドマスターの許可が必要とのことで、現在はテーブル席で二人して待機中である。


 ギルドにはまだSランク冒険者がいるかもしれないということで、アルミラとアルマはあのまま喫茶店で時間を潰すとのこと。


 店長から、「あの料理を食べてもらったことへのお礼がしたい。ちょうど、新しい甘味を考案中なので試食してみないかい?」と言われたのも要因だろう。食べたのは俺なんだが、パーティーメンバーである以上、功績は共有するもの……らしい。


 新しい甘味の試食に選ばれた二人は、さすが女の子ということもあり目を輝かせていた。一瞬前の罪悪感など吹っ飛んでしまったようだ。何か言ってやろうとしたが、さっさと試験に行かないと時間が無くなるわよと言われ、追い払われてしまった。


 ……俺の扱い雑過ぎない?


「はあー、あのお店の甘味は美味しいものばかりなので、私も試食してみたかったです。こんな時に限って再試験とか……、早く終わらせて合流するしかないですね」


 ミリカはそんなことを言っていたが、試験の時間が前回と同じなら、早く終わることは無いんじゃないか? 帰ってきたときには、試食会は終わってると思うぞ。


「早く帰ろうと思うのも良いがギルドランクの昇級試験なんだから、集中したほうが良いんじゃないか?」


「心配ありません、そのくらいは自覚してます。それに集中しすぎるのも視野を狭める原因になるので、自然体で臨みます。護衛試験というのは、周りに気を配ることが大事ですから。特に……」


 すごい、ミリカが熟練の冒険者のように事細かく語っている。護衛試験なんて、馬車とかの横を一緒に歩いて魔物に遭遇したら、退治すればいいものと思っていたがそんな簡単なことでは無いんだな。野営の時の注意点とか、初めて知ったぞ。


 年齢は俺よりも下のはずだが、冒険者としての経験や知識は上のようだ。実際に体験したことのように話す姿に、少し感心してしまった。


「……全部、師匠から今朝言われましたから」


 俺の感心を返せ。……いや、それを全部覚えてるのもすごいが。


 シンシアさんの実体験に基づく冒険者知識を聞きながら、ギルド員からの連絡を待つ。ミリカの話す内容はなかなかに面白く、冒険譚として本とか出せるレベルではないかと思うほどだった。


「なかなか監視役のギルド員が来ませんね。どうしたんでしょう?」


「さあ? 再昇級試験なんて異例のことだろうから、色々あるんだろう」


「それにしたって時間がかかりすぎな気がします。このままだと、試作の甘味が……」


 もうそれは諦めた方が良いんじゃなかろうか。


 ミリカには諭すように言ったが、心の中では首を傾げていた。受付の方に視線を向けるもこちらに来る気配がない。


 先ほどの握手会で賑やかだった冒険者ギルドとは違い、今は人もまばらで静かである。一般人は自分たちの仕事に、冒険者たちはクエストに出発したからだろう。


 ほんわかさんなんて欠伸をしているし、時間がかかるようには思えないのだが。というか、フリーダム過ぎるぞ、ここの受付嬢たち。人がいないときだからって、カウンター席に座りながら化粧を直したり、早弁してるのはどうなんだ。 


 人間観察を続けていると、受付嬢たちは何やら慌てたように身だしなみを整え始めた。一体……?


「やあ、ソウイチ君、さっきぶりだね」


「ほえ?!」


 ぼーっと力を抜いた状態でいたからか、突然背後から声をかけられ、驚いた拍子に奇声を上げてしまった。これは恥ずかしい。


 後ろを振り向くと、ダレン率いるSランク冒険者たちが全員集合していた。


 やばい、ディアナさんにかっこ悪いところを見られてしまった!


「話はギルドマスターから聞いているよ。ギルドランクの再昇級試験だけど、僕たちが監視員として随行するから、よろしくね」


「は、はい、よろしくお願いします!」


 取り繕って礼儀正しく挨拶をしてみたが、先ほどの失態は無くならない。ちくしょう、いつも人の背後から声をかけやがって。


「え、Sランク冒険者の方々が見てくれるんですか?」


「……そう。あの男から頼まれた」


 ミリカからの問いかけに、身の丈を超える杖を持っているショートカットの女の子が淡々と答えていた。透き通るような金髪をしており、西洋人形みたいな顔立ちでとても可愛い。


 ギルドマスターをあの男呼ばわりしているのは、さすがSランク冒険者といったところか。


「ああ、そんなに緊張しないでください。私たちのことは、ギルド員と同じように思っておいてください。厳し過ぎないように採点しますから、ご安心ください」


 見ているだけで少しイラっとするくらい美形の男エルフが、微笑みながらそんなことを言っていた。こいつは声まで完璧か、ならば性格はナルシストに違いない。こういうタイプはそうと相場が決まっている。


「……今回は二人だけだし、緊張しすぎないように頑張ってくれ」


 重低音ボイスを響かせる象の獣人が、俺たちを応援してくれた。口部分を動かしていないにも関わらず発声できるのは、なぜなのか不思議だ。


 実感はあまりないが、有名人ということで少し身構えてしまう。だが、Sランク冒険者に昇級試験を監督してもらえるなんてまたとない機会。これでディアナさんに俺強いんですよアピールができる。良いところを見せるチャンスだ。


「ソウイチ君はDランクへの昇級試験で西の森に生息しているポイズンバタフライの討伐。そして、ミリカさんは一次試験の免除により、即実地でのCランクへの昇級試験、間違ってないかい?」


 俺とミリカは同時に返事をする。


「ソウイチ君の試験の監視員は僕、ダレンが担当する。ミリカさんの疑似護衛試験は残りの仲間が担当する。疑似護衛試験は一人だと厳しいこともあるので、必要なことは適宜相談し合って欲しい。以上だけど、質問はあるかい?」


 ミリカは無いと即答するが、俺はすぐに返答できなかった。


 ……まあ、ですよね。なんとなく、こうなるだろうことは予想できたよ。

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