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真っ黒

「ということがあったんだよ。みんなの憧れであるSランク冒険者からの提案だったが、やっぱり不公平だもんな!」


「……そう。普通に引くお話をどうも」


 握手をし終わった後、ミリカとの約束通り待ち合わせの喫茶店に赴き、ギルド内に入ろうとしなかった二人に何があったかを説明した。特にリーダーであるダレンからの提案をきっぱりと断った俺の平等精神は褒められても良いはず。だが、アルミラの態度は真逆だ。


「握手くらいで不公平も何もないと思いますけど……、最後で誰も見てないんですし。それにそもそも一人一回までなのは向こうが決めたことですから、別にしても良かったと思いますよ」


 ……日本とこちらではアイドル的存在に対する認識が違うようだな。贔屓されていると思われたら、恨みでも買うものとばかり思っていた。


「そんなに特別な存在、というわけでもないのか」


「他の冒険者よりは特別だと思うわよ? 噂でしかないけど、ダレンという男は王族と懇意にしてるって話もあるくらいだから」


 王族か。庶民の俺からすると、漠然と偉いんだろうなという程度の認識しかない。……会うこともないだろうし、気にするほどでもないか。


「それにしても、どうしてアルミラたちはギルドに入ろうとしなかったんですか?」


「Sランク冒険者といえば、最前線で魔王軍とも戦っている人たちだから、アルマと会わせるのは不味いかなって。元とはいえ、一応ね。握手なんかして、ないとは思うけど感づかれたりしたら、面倒でしょ?」


「会わないで済むなら、ということか」


 ミリカの問いかけにアルミラが小声で回答していた。エルストでも人気な喫茶店なだけあり、お昼前でも盛況なようで誰が聞いているかわからないからだろう。


 てっきり、ここに早く入って席を確保しておきたいという理由だと思っていた。または、アルマの性格からして人ごみを避けていただけとも。


「それも理由の一つなんですけど……、一番の理由はあんなに人の多い中にいたくなかったからなんです。熱気とかで、人酔いになりそうでしたので。ソウイチ達が来る前にどこかで待てないか頼んでいたんです」


 コーヒーのような飲み物が入ったカップを両手で持ちながら、アルマはどこか恥ずかしそうに本当の理由を話した。


 そんなに恥ずかしがることでもない気がする。人なら誰にだって苦手なものはあるのだから。


 そう、なぜか俺の前に運ばれた料理なんかがそうだ。


「……こほん、今まで触れなかったけど、俺の前に置かれたこの料理は?」


 俺の発言と同時にさっと顔を逸らす、対角に座ってる褐色肌の耳が長い女性と横に座ってる赤い髪をポニーテールにしている女性。


 店員と打ち合わせでもしていたのか、ちょうど俺が座った瞬間に運ばれてきたのだ。その店員の顔が若干引き攣っていたのを覚えている。


 気にしないように努めていたが、もう限界だ。この料理は普通じゃない、黒い得体の知れないものがお皿の上に六つ、鎮座しているのだ。


「お金はとらないって。無料だって言ってたわよ」


 タダほど怖いという言葉を知らんのか。


「感想が欲しい、とのことです。ある公爵令嬢さんが考案したレシピだそうですけど、誰もこのメニューを頼まないので、そろそろ報告の期限が近づいてきて焦っていたそうなんです」


 誰が考案したのか想像がついた。


「形からして……お肉ですか?」


「お、ミリカは興味があるのか? 食べても良いんだぞ?」


「え、遠慮しておきます!」


 この後は昇級試験が控えているというのに……。


 いや、待てよ? 別にあの公爵令嬢本人が作ったわけじゃないんだよな。ここの店員は良識人のはず、命を脅かすほどのものをお客に出すわけがない。つまり、そんなに危険なものじゃない? 

 

 よくよく考えたら、このお店には黒い飲み物があるじゃないか。


 それに匂いは良いくらいだ。見た目で判断しちゃいけないな。


 意を決した俺は、ちらちらとこちらの様子を窺っている三人の前で黒い料理を箸で掴み、口の中に入れた。


 周りからは息を呑んだような音が聞こえ、さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返っている店内に、咀嚼音だけが響いているような錯覚を覚える。いや、実際に店内にいる人全員が俺の方を注視しているのを感じる。まさか、全員グルだったりするのか?


 その中で俺は次々と黒い料理を口に運び、ついに完食した。


「……普通にうまい」


 この味は知っている、唐揚げだ。どういった鳥の肉を使っているのかわからないが、柔らかく非常にさっぱりとした味わいだった。


 俺のコメントと同時にパチパチとなぜか拍手が巻き起こった。この喫茶店内にいる人全員からだ。


「ありがとう。君にはまた救ってもらったね。感謝してもし足りないよ」


 いつの間にか厨房から出てきた店長から、お礼の言葉を贈られた。


 今、またって言った?


「前回のコフィといい、本当にありがとう」


 コフィって確か、黒い飲み物の名前だよな。……まさか、あれも人柱の類だったのか?! 通って顔を覚えられたから、店長からサービスで貰ったものと思っていた。元々コーヒー自体は飲み慣れていたから、すんなりと飲めたけれど。


 あれ以来、コフィに限っては無料でお代わり自由と言っていたのはこういうことか!


 人の良い顔をしてこの店長、腹の中は真っ黒だ。


「だ、大丈夫だったの? お腹とか痛くなってない?」


「一応ポーション持ってますけど、飲みますか?」


 俺を人柱にしたことで罪悪感を感じているのか、二人が妙に優しい顔で言ってきた。


「あ、すいません。私にもソウイチが食べたものと同じものを注文したいんですけど」


 安全が確保されたからか、ミリカが嬉々として料理を注文している。他の人たちもそれに倣えと次々に注文をし始めた。


 さっき握手した時に、天使のように微笑んでくれたディアナさんが恋しい。

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