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握手

 あの二人がギルド内に入るのを敬遠していた理由は、単に人が多かったからか。こんな大人数の中で待っているのはさすがに疲れそうだ。


「握手会は少し時間がかかりそうだな。一度ギルドから出て二人が向かった喫茶店で待ってようぜ。人がいなくなってから昇級試験を受けに行けばいいだろう」


 大人数ではあるが握手だけならそんなに時間はかからないだろうし、こちらも急ぎというわけではないので喫茶店で一服していよう。そう考えたのだが……。


「……そうも言ってられないみたいですよ」


「ん? それはどういう……」


「握手会は現在ギルド内にいる方全員を対象として行います。今、入られた黒髪の冒険者で締め切りとさせていただきます。場内の混乱を避けるため、握手が終わったら一度裏口から退出をお願いします。それでは前列の方から順番にどうぞ」


 嘘だろ、強制的なイベントなのか! 


 黒髪の冒険者って俺のことだよな、ということは予約制というわけでもなく、突発的に行われたのか? それにしては人が集まりすぎだろう。噂を聞きつけたにしてはこの集まりは早すぎる気がする。この街の情報伝達の早さに驚きを隠せない。


 いやいや、問題はそこじゃない。綺麗な女性と握手するならともかく、お金を取られる上に男と握手なんてしたくない。


 逃げようにも、いつの間にか外に繋がる扉は二名のギルド員に塞がれている。

 

 どうしようかと周りの人たちと同じく視線を前に向け、……再度考える。

 

 無理矢理出て行きたいところだが、Sランク冒険者はみんなの憧れであり、そんな大物と握手できるなんてめったにないことのはず。それを面倒だからといって退出するのは、客観的に見てよろしくない。例えるなら、超人気アイドルの握手会に来ておきながら、何もせず帰ってしまう場の雰囲気を読めないどころか何しにきたんだと思われるやつだ。


「なあ、Sランク冒険者のパーティーにはもちろん女性もいるんだよな? ちょうど受付の前でこちらを向いているこの街では見慣れない黒髪の女性とか。正直に言って、男と握手しただけでお金取られるなんて嫌なんだが……」


「黒髪の女性は、ディアナという名前の人ですね。私の身長では前の様子を見ることはできないですが、黒髪の女性なら間違ってはいないはずです」


 ふむふむ、黒髪ロングの女性はディアナさんか。遠目にちらっとしか見えなかったが、かなりの美人とみた。……いや、決して美人だからではなく、場の空気を読んで――。などと、誰にするでもない言い訳じみた言葉を心の中で繰り返す。


「私は多種多様な攻撃魔法を使いこなすクラリッサさんと握手してきますので、終わったらさっきの喫茶店で待ち合わせしましょう。それではまた後で」


 ミリカはこちらの返答を聞かず、やけにキラキラした顔で混みあっているはずのギルド内を移動していった。人と人の間を縫うように移動していく姿を見送りながら、こちらもディアナさんと握手できる列に向かう。


 他の列と比較すると、どうにも男率が高い気がする。……いや、男しかいない気がする。




 最後にギルドに入ったこと、男が予想以上に多かったこと、他の列よりも進みが遅かったことなどがあり、ディアナさんと握手ができるまで相当時間がかかった。並んでいた人たちは誰もいなくなっており、がやがやしていたギルド内は嘘のような静けさだ。


 ちょうど、俺の前で握手を済ませた男が裏口から出て行き、ついに俺のターン!


「君が最後みたいだね。どうかな、最後特典ということで僕たち全員と握手してもいいよ?」


 Sランク冒険者は五人組のパーティーで、リーダーを務めているのはダレンという人間の男性だ。そんな大物から他の冒険者目線でいうと、羨ましいだろうことを爽やかな顔をして言われたが。


「いえ、お構いなく」


 今回の握手会は人数が多かったこともあり、握手できるのは一人までという説明もあった。これで俺だけ特別扱いは不公平というものだ。


 というわけで、即答した。


「そ、そうかい……」


 ダレンという男は少し引いている顔をしているようだ。もしかして、ディアナさんとしか握手したくないと思われているのだろうか? 


 ギルドのカウンターの前に並んでいる五人を眺める。


 爽やかそうな人間の男性、ごつごつとした肉体を持つ暑苦しそうな象の獣人、すました顔をしている少し敵対心を覚える小憎らしい男のエルフ、身の丈を超える杖を持ち無表情に立ちながらもどこか可愛さのある少女。


 心外だ。もう一人いる女性とは握手してみたいと思っているのに。


「俺の名前はソウイチって言います。さっきファンになりました!」


 考えるのはやめて、さっさと握手してしまおう。右手を差し出すと、ディアナさんは苦笑気味に手を取ってくれた。


「え、ええ、嬉しいわ。同じ冒険者として、切磋琢磨していきましょう」


「はい!」 


 女性にしては高い身長をお持ちのようで、ちょうど俺と同じくらいの目線だ。遠目から見ても分かっていたが、近くで見ると美人度が際立つ。微かに漂ってくるのは香水だろうか、強すぎず弱すぎずで男心をくすぐってくる。

 

 これが千ルド! 安すぎる!

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