ドジっ娘
『望みを叶えてくれる本? そんな本初めて聞いたぜ』
前回拾った本のことを話してみたが、聞いたことがないらしい。
そうだよな。あんな本があると知られていたら、争いが起きていたかもしれない。
『ま、喋る本にあまり驚かない冒険者で良かったぜ。説明に時間取られないで済むからな。……じゃ、早速仕事してもらうか』
ということで、仕事を始めた。なんてことはない。ただ、倉庫にあった本を1階の棚に並べていくだけの力仕事だった。順番も整理されていてとてもやりやすい。
何往復したかわからないが、全然疲れない。
この分なら、すぐに終わりそうだな。
『……兄ちゃん、休憩なしによくそんな働けるな』
あれ? デジャヴ? 本にまで引かれるとは……。
そして、最後の本を棚に入れて一息ついていた俺の頭に何かが3回落ちてきた。
「……本?」
落ちたそれを見ると本だった。しかも、3冊ありとても分厚い。
「あれ? 棚から落ちたか?」
と、左右の棚を見ても本はびっしりと並んでいた。とても棚から落ちたようには見えなかった。
「……?」
疑問に思っていると、2階の方から女性の声が聞こえてきた。
「すいませんー!! 本が落ちてしまいましたが、大丈夫ですかー!!」
なるほど、2階からこの本が頭に落ちてきたのか……。それにしては、痛くないな?
この図書館は、中央が吹き抜けとなっている。俺がいるのは、その中央付近。運悪く本が落ちてきてしまったようだ。
「はーい、大丈夫ですよー」
「すぐに取りに行きますー!!」
俺が返事を返すと、女性は慌てたように言った。
しばらく待っていると女性がこちらに早歩きで向かってきていた。
「すいません。手から本が飛んで行ってしまって。お怪我はありませんでしたか?」
その女性は申し訳なさそうに謝ってきた。
「はい。大丈夫でしたよ」
「お怪我がなかったようで何よりです。すいませんでした」
彼女は腰まで伸びたストレートな黒髪に、これまたストレートな体……スレンダーな女性だった。
彼女に本を手渡そうとしたが、
「よろしければ、運びますよ?」
決して、下心があったわけではない。黒髪ストレートでとても美人だったからというわけではなく、俺は紳士だから提案したのだ。
「ええっ! そんな悪いですよ……」
彼女は遠慮してきたが、これも何かの縁ということで押し切った。これは、フラグの予感……。
「さっきは書棚の整理をしてまして、転んだ拍子にうっかり本を投げ飛ばしてしまったんです」
彼女はここの職員らしく、おじいさんとの会話で出てきたドジっ娘らしい。
うっかり本を投げ飛ばすって……おじいさんの言っていたことがわかった気がする。
2階に上がり、本を片付けたことで気付いた。まだ、自己紹介してない。あわよくば、お近づきに……。
「自己紹介がまだでしたね。俺はソウイチ、冒険者をしてます」
「あ、冒険者の方だったんですね。私は、司書見習いのリアといいます。ひょっとして、蔵書整理に来られた方ですか?」
「はい、そうです。もう終わってしまいましたが……」
「午前中からいらしてたんですか?」
「いえ、お昼過ぎてから来ましたよ」
「え?! 結構な量あったと思ったんですが……もう終わったんですか?」
今日はよく驚かれるな。
「ええ、体力には自信があるので」
「すごいんですね。ソウイチさん」
このくらいは日常的にこなしていると思ったが、そういうわけではないのか。
「そういえば、他の人は王都に行かれてるんですよね、蔵書整理はその方がやられてたんですか?」
つい、興味本位で聞いてしまった。
「ええ、そうですね。ただ、彼は体力が無いのですぐに疲れてしまうんです」
なるほど。これは、好印象を与えた感じか? その彼よりも体力があり、男らしさをアピール……。
「ただ、そんな彼にもすごいところがありまして……」
あれ? 雲行きが怪しい。
「おーい、リアー、ちょっときておくれー」
「あ、はーい。すいません。ソウイチさん、長話してしまって。私はこれで……」
おじいさんの呼ぶ声が聞こえ、リアさんからやっと解放された。
リアさんは、王都に行っている彼と恋人同士であり、延々と俺は惚気話を聞かされていた。
「……あ、蔵書整理終わったことあの本に報告してなかった」
またしても、フラグは即座にへし折られた。




