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髪留め

「わ、悪かったよ。そこまで気にするとは思ってなかったからさ。ごめん」


「……謝ってくれたし、もうそのことは気にしない。けど、女性に向かってあんなことを言うのは、少し配慮に欠けると思うから、気をつけてよね」


「……はい、心に刻んでおきます」


 サラから許しを得られたものの、まだ顔は赤く、こちらを見る目が変態を見る目のままだ。


「と、とりあえず今日はこれで帰ろうかな。というわけで、失礼します」


「……またね」


 負い目もあったせいか、敬語になってしまった。


 そそくさと出口を目指し、退店しようとしたのだが……。


「おーい、小金持ち様。まだ、何も買っておりませんが、どちらに赴かれるおつもりですか?」


 グレースさんの平坦とした声音がカウンターから聞こえてきた。


 どうやら、入店した時の言葉は冗談ではなかったようだ。顔は本に向いているが、横目でこちらを見ている姿からは、とても敬語とは思えないような圧力を感じる。さながら、草食動物をロックオンした肉食動物か。


「でも、買うものが……」


「なら、これを買っていけ。結構うまく作れた自信がある」


「……それは、リボンですか?」


 グレースさんが持ち上げた手にあったのは、水色のリボン。蝶々結びされている明らかに織物だとわかる、この店に似つかわしくないものだ。


「髪を纏める装飾具だよ。気分転換に加工したんだ。一応、言っておくが加工したのはこの部分だからな」


 そう言って、リボンを裏返すと髪を留めるための金具を指さす。


 なるほど、理解した。


「俺に女装の趣味は無いですよ?」


「唐突に会話をぶった切って、何言ってんだ? 誰もお前が着けるもの、なんて言ってないだろ。そもそも、お前に女装趣味があったら気持ち悪いぞ」


 白けた目で見られてしまった。おかしいな、てっきり俺に着けさせるために薦めてきたのかと思っていたんだが。いや、つける気は毛頭無いんだけどな。縛れる髪の量もないし。


「ぷ……くくく、ソウイチの女装」


 後ろで何を想像したのか、サラのかみ殺し切れてない笑い声が聞こえてきた。


 勝手に想像して、笑わないで欲しい。




 結局、買わされてしまったわけだが、このリボンをどうするべきか。


 グレースさんに強制的に買わされたリボンを手に持ちながら、エルストの街の大通りを歩く。到底、武器屋に行ったとは思えない買い物をした気がする。


 しかし、今にして思えばなぜ一つだけを買わされたのだろう。俺たちのパーティーメンバーで女性が三人いるのは前回来た時に知っているはず。なのに、リボンは一つ。


 普通に考えれば、これは誰かにあげるためのプレゼント用。だが、一人だけに渡したとなれば、贔屓している、もしくは気があるのではないかと勘繰られてしまう可能性が否めない。


「うん?」


 まじまじとリボンを見ていると金具部分に違和感を覚えた。他の髪留めを手に取り、真剣に見たことはないため、はっきりと違いがわかるわけではないのだが。


「少し、大きい……か?」


 リボンと金具部分のバランスが合ってないような……。


「うおっ?!」


 金具部分をいじっていると、装飾の一部が跳ね上がり、髪留めと分離した。せっかくお金を払って買ったものをまた早々に壊してしまったのかと心配したが、どうやらそういう仕様らしい。分離した一部をまた髪留めに嵌めるとぴったりと元通りになった。


 横にある突起を下に動かすと、外れるみたいだ。


「こういう仕組みがあるのなら、先に言っておいてくれてもいいのに。しかも、中に小さい針みたいなのがあるし。これで手を刺したら危ないじゃないか」


 良かった。早めに気づいて……。


「まさか、この髪留め暗器か?」


 怖っ。なんてもん買わせるんだ。もう、女性が身に着けてるアクセサリーの類が全部こういうものに見えてきたぞ。あの時か、サラとそんな話をしてたからなのか。


「……うーん、女性に暗器をプレゼントするのもどうなんだ?」


 どうせなら、ベルトとかの方が良かった。男がリボン持ってるのはおかしいだろ。


 そんなことを考えつつ、歩を進めていると魔道具店の前でうろうろしているミリカの姿が見えた。

 

 入るべきか、入らないべきかを迷ってるように店内を覗き込もうと窓に顔を寄せたり、扉の方に歩いたり、挙動不審な動きをしている。


「何やってるんだ?」


「はうっ!!」


 もはや、この世界の常識と言っても過言ではない背後からの声かけをしてみたら、これまた可愛らしい悲鳴みたいな声が聞こえてきた。


「な、何ですか?! 急に背後から声をかけないでくださいよ!! 驚くじゃないですか!!」


 そして、怒られた。これ、前にもあった気がする。デジャヴ?


「まったく、女性の背後に立つなんて……」


「悪かったよ。それで、何してたんだ?」


「むう、慣れてる対応に釈然としない気持ちもありますが、良いでしょう。私が魔道具店を前にして何をしていたのか、何に悩んでいたのか……それは」


「新商品でも出たのか?」


「な、なぜ、先に言うんですか!!」


 なぜって、ショーウィンドウにでかでかと書かれてるからな。予想しただけだ。


 それにしても、新しい商品を開発したのか? あのポーションだけでも十分稼げる勢いだったはずなのに。


『新商品! これであなたの悩みも解決! 夢の知能上昇ポーション!』


 今度のは前回のよりも胡散臭くなった気がする。しかも、フレーズが使いまわしだし。

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