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帰宅

「ギルドカードにこんな機能が付いてるなんて知らなかったな。身分証明の役割しかないと思ってた」


 俺はギルドカードを大事に両手で持ち、落とさないように注意しながらそう呟いた。


 現在の俺の所持金は、一億と数千万。西の魔王の幹部であるアスト=ウィーザを倒した分と、先日の事件を解決した分である。


「一般の冒険者は、こんな大金を持ちませんからね。知らなくても、しょうがないですよっ」


「そうだよな。一億なんて大金持ってるんだよな、俺たち。なんていうか、心に余裕が出てくるな」


 数日前までは財布の中身を心配してびくびくしていたが、今はそれが嘘のように消え去り、何でもできるかのような多幸感に包まれている。


 お金の力って、偉大だなー……。


「だけど、実際に手で持ってないと実感があまりないな」


「それは仕方ないですよ。あんな量のお金を持ち運ぶことなんてしたくありませんからっ」


 大金をそのまま持ち運ぶのは荷物になる。どうにかならないかとギルドマスターであるイヴァンさんに相談したところ、この便利機能を教えてくれた。

 

 ギルドに一定以上の金額を預けることで、ギルドカードにある特殊な機能が追加される。買い物などをした際にカードを提示すると、その預金から決済が可能になるというものだ。


 ……この機能、日本にもあった気がするな。


「私もこの機能を使うのは初めてね。エルストの街だと、使えるお店は少ないし」


「もしかしなくても、エルストって王都から遠いし結構な田舎なのか?」


 王都なら多くのお店でこの機能を使えるらしいが、エルストなどの都会から離れた場所ではそこまで普及していないらしい。


 まあ、その都度ギルドでお金を下ろせばいいだけだから、問題無いといえば無いんだが。


「そこまで田舎じゃないと思いますよ? ギルドがありますし」


 結局、田舎なんじゃないか。というより、ギルドの有無が関係しているのか。


 アルマの擁護になっていない言葉を聞きながら、視線を横にずらす。


「そうです。そうです。田舎なんかじゃないですよっ」


 ……そろそろ、この密室空間ではしゃぎ回ってるミリカを止めたい。


「なあ、ミリカ。いくら貸し切り状態とはいえ、こんな狭い空間でバッサバッサとローブを翻すのは止めて欲しいんだが?」


「別に良いじゃないですか。私たちだけですし、何よりも新品なんですから汚くないですよ?」


「いや、汚いとか汚くないとか以前にだな……。俺の顔に当たって鬱陶しいんだよ!」


「こんなくらいで怒らないでくださいよ。大金持ちの余裕はどこに行ったんですか?」


 王都からエルストへ向かう馬車の中、隣席のミリカが購入したてのあのクソ高いローブに夢中で、色々なポーズを取っている。


 なぜか、どのポーズも最後には手で裾を払う仕草があり、その度に俺の顔面にローブが当たるのだ。


 王都から出て、ずっとされてるのでいい加減やめて欲しい。新手のいじめか? 泣いちゃうぞ?


「今日買ったばかりですし、これは必要なことなのでもう少し我慢してください。文句があるなら、あのギルドマスターに言ってくださいよ。往復券の有効期日が今日までだったなんて、知らなかったんですから」


「……そのポーズはどう必要なんだ?」


 もしかして、ローブをはためかせることで魔法的な何かが作用したりする儀式なのか? もしそうなら、邪魔はしない方が……。


「もしもの時の決め台詞に似合うポーズをですね」


「そんなものエルストに帰ってから、鏡の前でやってくれ!」


 まさか、あの証明書に有効期限があるとは思わなかった。大金を持ってるから、あの証明書を使わずとも馬車を使うことはできるのだが、悲しいかな一円……この場合は、一ルド? たりとも無駄にしたくないという貧乏性が出てしまった。しかも、エルスト行きの馬車はお昼過ぎたら、しばらくは出ないという。


 おかげで慌ただしい出立になってしまった。


「本当、困ったものよね。行く前にも説明してくれればいいのに……。ゆっくりと挨拶もできなかったし」


「そうですね。ですが、あんな時間だというのに皆さん来て下さったのは嬉しかったですよ」


 そう、俺たちが馬車に乗る前に王都で出会った人たちが見送りに来てくれたのだ。セリちゃんとルリちゃんがいたのには驚いたが、どうやらカンナさんが呼んだらしい。さすがに、貴族のヴィオラさんはいなかったが。


「みんな、マメというか暇だったりするのか? ……いや、嬉しかったけどさ。ただし、ギルドマスターは除く」


「ギルドマスターについては、否定できないわね」


 俺の言葉にミリカ以外の二名が苦笑している。


 もっとゆっくりとした旅になるはず、だったんだけどな。




 そして、行きと同じく、何事もなくエルストの街に帰ってくることができた。


「とても長かった気がする。主に事件のせいで」


 馬車から降りた俺がそんな言葉を小さく呟くと。


「過ぎれば良い思い出ですよ。私は今回の旅、とても満足してます」


 隣に降り立ったミリカに笑顔でそう言葉を返され、どう返答しようか考えていると、ある方向を見つめたミリカが突然走りだした。


 どうしたのかと視線を向けると。




「おかえりなさい」


「ただいまです、師匠!」

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