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服屋

 注文を受けたと同時に去っていくエリーサの後姿を見ながら、ふと思った。


「そういえば、あの服ってどうなってるんだ? 尻尾が出ているところを見るに、獣人用の服なのか?」


 歩いているからか、左右に揺れている尻尾に視線がいく。


「大きい胸が好きなのかと思ったら、今度はお尻なの?」


「……いや、そういう意味ではないんだけど」


 確かにお尻の部分に尻尾はあるが、基本的に俺の好みはお胸様だ。単純に服の構造が気になっただけで、お尻を凝視していたわけではない。


「エルストの街で服を買ってなかったんですか? 多種多様な種族がいますから、問題無いように服屋で売られてますよ」


 服屋には行ったけれど、すぐに選んで出てきたから他の服は見てなかったな。じっくりと見て買うより、あまり時間をかけずにさっと買う性格だし。


「あ、でしたら、この後服屋に行きませんか?」


「いいわね。王都ではまだ行ったことなかったし。ソウイチ、選んであげるわよ」


 アルマの提案に嬉々とした様子で同意しているところ悪いが、お金が無いんだよ。


 だが、お金が無くて買えないなんて、かっこ悪くて言いたくない。


 盛り上がってる三人に行きたくないなんて、空気読めないことは言えないし……そうだ!


「服屋に行くのは賛成だけど、服ならたくさん持ってるから今は大丈夫だ。ありがとうな、アルミラ。そのかわり、今日は俺が三人の服を選ぼう!」


 これなら俺は店内にいても買わなくて済むし、目の保養にもなるな。……問題は、女性が買い物をする時間の長さくらいか。


「え、ソウイチが選ぶんですか? 変な服を選びそうです」


「露出の高い服とかは嫌よ?」


 俺の評価って、どうなってるんだ。




 あの騒動があった後にもかかわらず営業しているとは、商魂たくましいな。お客はそんなにいないみたいだが、それは仕方ないことだろう。この店に限らず、ほとんどのお店に当てはまるだろうから。 


 以前にエルストの街で服屋に入ったが、さすがは王都。店内の広さも違えば、置いてある商品の数も段違いだ。


 もしかしなくても、エルストの街って田舎?


「すごい品ぞろえですね。見てください、このローブ。ドレス・スパイダーの糸を使ってるみたいですよ」


 ドレス・スパイダーって、研究所にいた蜘蛛か。


 ミリカの見ているローブは全体的に赤く、ほのかに発光している。所々にあしらわれている装飾や紋様からして、高額商品であることがうかがえる。入ってすぐのところに展示されているのだから、目玉商品だろうか。


 金額は、驚きの一千万ルド。


 誰が買うんだ。こんな高額商品。


 商品説明欄には、素材の説明とローブの効果が書かれていた。


 ドレス・スパイダーの糸が使われているのはミリカが言っていた通りだが、なんとオリハルコンが使われているらしい。オリハルコン、とてもそそるワードが出てきたな。


「エルストよりも色の種類が豊富ね。さすがは王都、といったところかしら」


 アルミラとミリカは店内の様子をキョロキョロと見ていて、お上りさんバレバレである。それに対して、アルマは落ち着いている。


 子供と大人のようだな。

 

「みんなでお買い物。とても充実してる気がします」


 コメントがしにくい。


「ほら、ボーっと立ってないで、早く選んでもらうわよ。ソウイチのせいで時間がないんだから」


 アルミラに手を引かれ、店内を進んでいく。もちろん、女服の置かれている方に。


 当たり前だが、男服とは区画が違う。


 やばい、想像以上に恥ずかしい。


「服ごときで恥ずかしいんですか? 普段は遠慮なく女性の体を見ているのに」


「別にそんなことは……。待ってくれ、そんなに女性の体ばかり見てないぞ!」


 ちらほらといる女性の方々に会話を聞かれたのか、こちらを窺うような視線が飛んできた。女服の置かれているところに男がいる時点で、注目を集めているのだ。変な言葉は控えて欲しい。


「ソウイチ、これとこれ。どっちが良いと思う?」


 いつの間に手に取ったのか、アルミラの手には赤と青の……。


「赤だな」


「……よく見てるじゃない」


 どうみても青の下着はアルミラに合わない。主にサイズ的な意味で。


 しまった。つい、本音がポロっと出てしまった。


 二人からの冷たい視線が痛い。


「あと少しすれば、青の方になるわよ」


 小さい音量で呟いているのが聞こえてきたけど、難しいと思う。


「これはどっちが良いと思いますか?」


 今度はアルマからだが、右と左に持っている服の違いがわからない。……いや、微妙に装飾が違うな。


 ぶっちゃけ、どっちでもいい気がするが、適当に答えると女性は不機嫌になる。それにこういう時は、大抵答えが決まっているのだ。確率は二分の一……無理に選ばない方が良いな。


「どちらも似合ってると思うよ?」


「本当ですか? 適当に言ってませんか?」


 ミリカからの野次がうるさい。


「ありがとうございます。どちらも買うことにしますね」


 そして、アルマの笑顔が心にくる。決して、適当に選んだわけじゃないぞ。


「あれ、ミリカは買わないのか?」


「今、持ち合わせのお金が無いんです。ソウイチは知ってるでしょう」


 そういえば、魔道具屋でポーションを買った時にそんなことを言ってた気がする。


「服くらい奢るわよ。ミリカもソウイチに選んでもらえばいいんじゃない?」


「なら、お店に入ったところにあるローブが似合ってると思う」


 からかうついでに、あの高いローブを勧めてみる。


「意外です。ソウイチにも見る目があったんですね。一億ルドもらったら、買おうと思ってたんです。なんせ、あのローブの効果は魅力的ですからね」


 俺があのローブを話題に出すとは思ってなかったのか、驚いた様子のミリカ。


「どんな効果なんだ?」


「簡単に言うと、魔力の節約です。あれを着れば、一日に三発しか撃てなかった私の魔法がそれ以上の数撃てるようになります。さすがに高額なので、今日は見るだけにしますよ。お金が入った時にまとめて買います」


 それは魅力的だな。


 考えてみると、みんなの成長率は凄まじい。初めて会った時よりも明らかに強くなってるし。……一億ルドもらったら、何か武器でも買おうかな。




 ちなみに、閉店時間までずっと選んでいた。


 試着での目の保養はできたが、こんなに時間がかかるとは思ってなかった。女性の買いものは、体力使うんだな。

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