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日記

「昨日は仕方無いとしても、今日もお昼過ぎまで寝てるなんて。冒険者は、体が資本なのよ。規則正しく生活できるなら、するように努力するべきだと思わない?」


 初日に来た時よりも、人通りが明らかに少なくなった大通り。四人でギルドに向かって歩いている中、アルミラからお叱りの言葉を受けた。


 体が資本だから、生活のリズムを極力崩さないようにというのはわかる。わかるが……。


「……ごもっとも。だけど、言い訳をさせて欲しい。研究所の実験場でこの日記を見つけたんだ」


 そう言って、小脇に抱えていた日記をみんなに見せるように持つ。


「この日記が、事件に関係しているかもしれない。それを思ったら、早く読まなくてはという義務感に駆られてだな」


「その日記が事件に関係しているかもしれない、ということで読むのは良いんだけど。夜じゃなくて、昼間に読めばいいじゃない」


「俺の勘だが、これはすぐに読まないといけない気がしたんだ」


 あの場に落ちていた日記なんてあからさまに怪しい。クレアシオンの……それこそバーテルが書いた日記かもしれない。すぐに読む必要があると判断したのだが、読んでいたら続きが気になって止まらなくなってしまったのだ。


「それで、内容はどんなものだったんですか?」


 ミリカも興味を持ったのか、俺の持っている日記の内容を聞いてきた。


 聞きたいのならば、答えねばなるまい。


「一人の男の熱い物語だった。苦悩し、挫折するも類まれな発想でそれを乗り越え、ある貴族の女性と結ばれた後に娘ができ、幸せに現在も過ごしているという内容だ。これを書いた人は王都の研究者みたいなんだけど、作家でも通用すると思ったね。いやー、感動したよ」


 小説のように簡潔に書かれており、日記とは思えない熱い展開が書かれていて、つい読むのを止められなかったんだ。


 特に、義父に対しての説得をしているところが熱かった。


「事件と何か関係あったの?」


「……いや、まあ、何も関係なかったんだけど。読んでみればわかるって、すっごく感動すると思う」


「人の日記を勝手に読んだ挙句、他の人に薦めるというのはどうなんでしょう?」


 アルマが苦笑しながら、常識を説いてくる。


「……も、もしかしたら、俺が何かを見落としてるだけで、事件に何か関わりがあるかもしれない。俺たちはパーティーメンバーだ。情報の共有は必要だろう。多角的に見れば、何か発見をする可能性が」


 正直に話そう。読み終わった後、他人の日記を読んだことに対して罪悪感を抱いてしまったので、共犯者を増やそうと画策したのだ。一人よりも二人。同じ罪を背負った人間が他にもいるということで、安心感を得ようとしていただけだ。


「だったら、ギルドマスターに読んでもらえばいいわね。私たちよりも王都について詳しいだろうから、そんな熱い物語が書かれているなら、日記の持ち主だってすぐにわかるかもしれないし」


「……はい、そうですね」


 人が少なく、歩くのにさほど苦労しなかったため、すぐギルドに着いた。


 ギルドの受付にいる人に用件を伝えると、お待ちしていましたとでも言うようにギルドマスター室に案内された。


「やあ、早かったね。事件は解決しているし、もうちょっとゆっくりしていても良かったのに」


 そこには少しやつれた様子のイヴァンさんが、椅子の背もたれに寄りかかりながら、こちらに笑みを送る姿があった。


 責任者って、大変だな。


 備え付けの高そうなソファに座り、今回の事件について話し始める。


「とは言っても、実はバーテル本人が書いた日記が見つかってね。それを読んだら、今回の事件についてだいたいのことはわかったんだよ。意外にも、クレアシオンの幹部連中は簡単に口を割ってくれたし」


 バーテルの日記は、もう回収済みだったのか。


 あれ、俺たち来なくても良かったんじゃ?


「確認の意味もあるから、当事者である君たちにも話を聞きたいんだ」


 顔に出ていたのか、それを察したイヴァンさんが苦笑している。


「それにバーテルと戦っている時にそちらの二人が見たという、透明な翼についても気になるからね」


「あれは見えたというだけで、詳しくは知りませんよ」


 俺もよく知らない。初めて見たし。


「あ、その前に昨日のことなんですけど、研究所にある実験場で怪しそうな日記を拾ったんです」


 話が始まる前に渡してしまおうと考えた俺は、イヴァンさんに拾った日記を渡す。


「実験場に? 変だな。騎士たちにも協力してもらって、怪しそうな物は全て見つけてあるはずなんだけど」


 疑問を抱きながらも日記を受け取り、


「中身は読んだのかい?」


 そんな質問をしてきた。


「他人の日記を読むなんて、そんなことはしませんよ」


「……君との会話で、初めて僕の魔法が嘘を見抜いたよ」


 嘘を見抜く魔法って、パッシブスキルだったりするのだろうか。


「……すいません。全頁読みました」


「こんなところで嘘をつかなくても良いと思うんだけどね」


 咎められることも無く、流されてしまった。最初から素直に話しておけばよかった。


「うん? これは、バリデ氏の日記じゃないか」


 ……え?


「すいません。それはどなたの日記って、言いました?」


「これは、バリデ氏の日記だよ。ほら、後ろの頁にサインが入ってるだろう」


 ちょっと、待って欲しい。それじゃ、あの物語は……。


「良かったわね、ソウイチ。すぐに作者が分かって」


 書かれていた言動や台詞のイメージが、現実と一致しない。

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