DIY
この扉、どうやって直したものか。
目の前には不自然に歪んでしまった扉が、実験場と廊下を仕切る役割をせずにかろうじて付いている。扉の上下部分とレールは完全にひしゃげており、素人ではまず直せない有り様である。
あの時は急いでいたし、両開きに開くタイプだと思っていたからつい力を入れすぎてしまったんだよな。
「実験場の扉は魔法の実験も想定して、他のよりも頑丈になっているはずなんですけどね」
壊れた扉を前に修理方法を考えていたら、リカさんが少し引いたような感じで呟いていた。
「……敵からの攻撃を受けたからね。俺一人の力では、この扉を破壊することなんてできないよ」
「そうなんですか? 敵さんの方は扉が開いた瞬間、きょとんとした感じでこちらを見ていた気がしたんですけど……」
リカさんは疑問の声を上げて、小首を傾げていた。
体裁としては敵からの攻撃を受けた、ということで押し通したい。
「それにしても意外だったよ。リカさんがDIYを趣味にしていたなんて」
「ディー・アイ・ワイ?」
「あー、えっと……こういった物を自分で修理したりすることかな。俺の住んでたところでは、そのことをDIYと言ってた気がする」
「響きがカッコいいですね。今度から使ってみます」
リカさんならわかってくれると信じてた。横文字って、なぜかカッコよく感じるんだよな。
工具を手にし、扉を修理する準備をしながら会話を続ける。
「趣味というほどではないですよ。必要になったからと言いますか……」
「物作りができる人というだけで、憧れますよ。俺なんて壊すことしかしてませんから」
「……私もなんですよ」
私も?
片手で持てる大きさのハンマーを持ったかと思うと、突然扉に打ち付け始めるリカさん。修理というよりも完全に壊すために振っているようだ。
「え? 修理するんじゃなかったんですか?」
「幸い、片側だけしか壊れてないので完全に取り払った後、板で塞いでしまおうかと思ってます。もう片方の扉だけでも、通行はできますからね。さすがにDIYを趣味にしていても、この有り様ではお手上げなので」
ですよね。
「だったら、俺が……」
「あ!」
研究者であるリカさんよりも、冒険者をしていて少し力に自信がある俺が振れば効率的だろうと提案しようとしたら、そのハンマーが飛んできた。
キラーパス!
「すいません! すいません! 私、いつも手からすっぽ抜けちゃうんです!」
なぜ、真横にいる俺の方に飛んでくるのだろうか。ハンマーを振る軌道的にありえないと思うのだが。
これまでに体験した速度からすれば、この程度を受け止めるのは訳ない。危なげなく片手でキャッチして、リカさんに問題ないことを告げる。しかし、疑問が残る。
DIYを趣味にしていると言っていたが、これで大丈夫なのだろうか?
「実は修理とは名ばかりで、大抵は壊したものを中途半端な状態から完全に壊れた状態にしているだけなんです。専門の人が修理する際に、やりやすい方が良いと思って。その途中に違うものが壊れるなんてこともあったりします」
俺から顔を逸らしながら、告白する姿には悲しみを感じる。
カンナさんが慌ててアルミラ達と整理しに行ったのは、これのせいか。
魔法で散らかした部屋の整理は、アルミラとミリカが担当することになった。カンナさんも一緒に整理している。重要な書類もあの部屋にはあるらしいので、責任者として判断をするためだそうだ。
だが、実際にはリカさんのドジに巻き込まれたくなかったのが理由だろうな。
ちなみに、アルマは召喚したゴーレムと廊下の掃除をしている。砂まみれにしてしまったのは私なので、責任を持って一人で掃除しますとのこと。手伝うと言っても、掃除は好きですからと断られてしまった。
「扉、壊しちゃいますね」
「……はい、お願いします」
空気を変えるべく、さっさと修理という名の破壊を済ませてしまおうとハンマーを振りかぶる。
一撃のもとに扉は破壊され、勢いよく実験場の中へと入室していった。
「ソウイチさんの力って、やっぱりすごいんですね」
「……元々、半壊の状態でしたから。扉取ってきますね」
扉を探すべく実験場へと入り、持ち上げるとその下に黒い手帳を発見した。
「何だ、これ?」
興味を持った俺は、扉を片手に落ちている手帳を拾い上げ、中身を確認した。
「日記?」
この世界の文字で書かれた日記のようなものだった。ようなものというのは、文字以外にも魔法陣やらが描かれており、判断に困ったからだ。
「リカさんに聞いてみようかな」
入り口に戻り、聞いてみたが。
「見たことないですね。クレアシオンという組織の人が持っていたものでしょうか?」
リカさんに心当たりはないらしい。名前はどこにも書いていなかったので、俺が一時的に預かるとしよう。
服のポケットに忍ばせ、夜にでもゆっくり読むことにする。人の日記を勝手に読むのはいけないことだ。だが、落とし主を見つけるには内容から推測する他ない。人助けだと思って、心を鬼にするしかないな。
「さて、この扉はどこに運べばいいのかな?」
「扉は廃棄しようと思うので、研究所の門までお願いします。さっき私たちが置いた大きな袋の近くです」
「了解。行ってきます」
研究所内の掃除や整理が終わり、宿に戻った頃には日も暮れ、すっかり夜になっていた。
待ちに待った他人の日記を読む時だ。どんなことが書かれているのか、背徳感もあり、ドキドキする。
俺の夜はこれからだ。
ギルドには、お昼過ぎてから行くことになった。




